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『ガンバ!Fly high(17)』何度読んでも飽きないフィナーレ!(ネタバレ含む感想)

 

文庫版ガンバ!Fly highもついに最終巻!

1巻が出た頃、東京オリンピック(当時の予定)に完結を合わせてくるのかと思っていましたが、閉幕してしばらくたった時期になりましたね。

予想は盛大に外れました。(笑)

しかし、偶然か故意かは分かりませんが東京オリンピックの時期を作者が意識していたことは間違いないようです。

巻末の対談で、本来であれば東京オリンピックの結果について語る予定だったと言及されているのがその証拠ですね。ガンバ!Fly highの作者が現代の体操の最高峰の結果をどのように語るのかとても興味深いところですが、今となってはないものねだりです。とはいえ、ガンバ!Fly highの当時からどのように体操が進化しているのか、作者の予想を超えていったのかについて語られていて、それはそれでとても興味深いものでした。

本編の話に移しましょう。いよいよ最後のエピソードであるオリンピック編のクライマックスまで来ました。

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日本代表チームは、これまで国内で戦ってきた強敵が集結したガンバ!Fly highファンにとってのドリームチームって感じですが、それが好調な演技を続けても予選での結果は良いものではありませんでした。

だからこそ限界ギリギリの演技に臨むという展開はとても熱いですね。藤巻駿はアンドレアノフコーチの元から独り立ちしましたが、それこそ李軍団の嵯峨までがその気持ちを同じくして限界に挑もうとしているところを見ると、体操選手として一人前になっているのは藤巻駿だけではないと感じさせられます。

そうして一種目目の床を好成績で終えて、いよいよって所から始まるのがこの17巻(最終巻)なわけですが、最初の1ページ目が東のプロレスシーンなのはちょっと面白いですね。(笑)

何でここで東のシーンなのかって、なるほど日本の二種目目がつり輪で、つり輪に関しては東と因縁がある李軍団の嵯峨の演技があったからなのです。そうやって、過去の因縁のようなことも回収していっているのも見所なのではないかと思います。

また、ベラルーシ、ロシア、中国と日本のライバルになる国が順番にクローズアップされて描かれているのも面白い。単に日本が優勝したという結果でなく、そのライバルたちもただの強敵ではなく個性あるキャラクターとして描かれたからこそ、その結末の感動も一塩だったのではないでしょうか?

まずは何故かアンドレアノフがコーチとして就任していたベラルーシ。予選では大活躍だったアレクサンドル・グレンコが本選では調子を崩していて、一体何のためにベラルーシがクローズアップされて描かれたのかは連載当時に読んだ時にはよく分かっていませんでした。

アンドレアノフはベラルーシのコーチになった理由として、アレクサンドル・グレンコが若い頃の自分に似ていたからだと言及していますが、それをクライマックスとなるオリンピックのエピソードで描く必要があった理由は何なのか?

それは、藤巻駿が独り立ちした体操選手に成長したということを示すためだったのではないかと思います。

アンドレアノフがベラルーシのコーチになったのは『裏切り』のようにも捉えられていましたが、そうではなくむしろ必ず独り立ちした体操選手に自身の教え子が、かつて自分に大きな影響を与えた田所誠治のような体操選手に成長しているであろうという『信頼』があったからこそ、かつての自分に似たところのあるアレクサンドル・グレンコと競わせてみたかった意図があったのではないでしょうか?

そして、そうしたアンドレアノフとアレクサンドル・グレンコを描くことで間接的に藤巻駿の成長を表現することができたわけですね。

実際、最後の藤巻駿の鉄棒の演技では自分のことを体操選手として超えていった藤巻駿に感動するアンドレアノフの姿が描かれています。

ガンバ!Fly highはこのオリンピックのエピソードで完結ですが、もしこの先が描かれていたとしたら、かつて田所誠治の影響で世界チャンピオンにまで上り詰めたアンドレアノフのように、藤巻駿を追う立場としてのアレクサンドル・グレンコが強敵として描かれたりしていたかもしれませんね。

そういうわけで、ロシアや中国がどうしても気になってしまうオリンピックのエピソードですが、実はベラルーシこそが完結後のこれからと、そして主人公の成長を最も表していたのではないかと思います。

次にロシアですが、言い方は悪いですが恐ろしく強力な当て馬のような描かれ方をしているという印象を受けました。

中国と並んで日本が優勝するためには越えなければならない壁として存在したロシアですが、なぜか中国のエースである王景陽は予選では4位だった日本をライバル視してロシアを軽視していたからです。ロシアの実力自体は確かで、予選時点の成績では日本より上でもあるにもかかわらず何故なのか?

その差には王景陽や藤巻駿の演技を見たロシアのチェレンコフ兄弟は自ら気付きます。

ロシアの体操は、たった一つの勝つための演技の完成度を高めていくというもので、中国の王景陽の体操は10点満点の演技構成すら簡単に放り捨てて更に上を目指す挑戦者であり続けるというもの。どんなに優れていても挑戦しない者が挑戦する者に敵わないというのは言われてみれば自明ですね。

そして、決勝ではギリギリの演技構成を持ってきた日本も、藤巻駿もまた挑戦者であり、だからこそ王景陽はロシアではなく日本をライバル視していたわけです。

そう考えるとガンバ!Fly highにおけるロシアの役割にはやっぱり当て馬っぽさがあるのですが、それでも最後の最後まで優勝争いに絡む強力なライバルとして盛り上げてくれました。

最後に中国ですが、アジア大会編で最大のライバルとして描かれた王景陽がラスボス的に描かれています。代表選考会の鉄棒の演技で10点満点を出した強力な選手。主人公である藤巻駿が最も得意とする鉄棒で最高の演技を見せた選手ということで、なるほど王景陽こそがオリンピック編でも最大のライバルであり、藤巻駿がそれを超える鉄棒の演技を見せる展開の布石だったのだと察しが良い人なら予想できたことでしょう。

藤巻駿は体操選手として大きく成長していますが、それでも王景陽にはまだまだ藤巻駿よりも、日本のどの選手よりも格上だというオーラがあるように感じられました。

挑戦者ではあって、本番でまで日本のようにギリギリに臨んでいるというよりは、以前以上の自分をしっかり仕上げて本番では安定させてきているような印象がありましたよね。

だからこそ王景陽は最後に超えるべき壁として相応しい選手に感じられました。アジア大会の頃の王景陽よりもそういう壁としての存在感が大きくなっていたような気がします。

とまあ、日本のライバルの見所を紹介してきましたが、何と言っても日本の選手たちの活躍こそが最大の見所でしょう。堀田の見せ場は前巻の床でしたが、次のつり輪では嵯峨が東へのリスペクトを見せ、跳馬では内田が新技を見せました。

なぜか斉藤はジンクスに拘りまくるという今まで見せたことがない程の弱さを見せたものの、予定上の大技を跳馬で見せました。

そして、何と言っても藤巻駿の鉄棒です。そもそもガンバ!Fly highは藤巻駿の鉄棒で1点という最低得点から始まりました。それが鉄棒のスペシャリストと呼ばれるまでに成長して、満を持してオリンピックでの最後の演技となる鉄棒に挑むわけなのですが、まさに集大成という感じの演技で格好良かったです。

もともと伸身ゲイロード一回捻りという技に挑戦しようとしていたことはオリンピック前のエピソードから語られていたことで、ギリギリの演技に挑戦しようとしている藤巻駿がここでそれに挑戦することは読者的には予想の範疇だったことだと思います。

だからチェレンコフ兄弟の弟であるイゴーリがたまたま藤巻駿の練習を覗いて見ることになった「とんでもない技」も伸身ゲイロード一回捻りなのだと思った人が多いのではないでしょうか?

しかし、藤巻駿が伸身ゲイロード一回捻りを決めてそこがハイライトだと思わせた後に、イゴーリに自分が見たのは別の技だと発言させることで更なる驚きがあることを予感させた演出はさすがの一言です。

なんというか、この鉄棒の演技のエピソードを単体だけで読んでもという感じではあるのですが、通して読んだ後のこの鉄棒の演技のエピソードの感動が一塩なのでガンバ!Fly highは何度でも読み返せる漫画になっていると感じます。

というわけで、これでガンバ!Fly highは完結してしまいました。

文庫版の発売日を毎月楽しみにする生活もここまでだと思うと寂しいですが、また少し時を置いたらまとめて読み返してみたいと思います。