『ダークギャザリング(1)』サイコな霊能少女が異色なホラー漫画の感想(ネタバレ注意)
中二っぽい女の子のキャラクターが結構好きです。
そういうわけで表紙に惹かれて購入してみた『ダークギャザリング』でしたが、表紙の女の子・寶月夜宵はなかなかサイコで良いキャラクターをしていました。
霊能力者が怪異を相手取るフィクション作品には枚挙に暇がないメジャージャンルのひとつですが、『ダークギャザリング』においては寶月夜宵の在り方が非常に独特なこともあって、かなり新鮮に感じられる作品なのではないかと思います。
ホラー作品における恐怖の対象は本来霊や妖怪といった怪異であるはずですが、『ダークギャザリング』ではサイコなヒロインである寶月夜宵こそが最も怖いというのが面白いです。
そういうわけで、怪異に対する恐怖が描かれている作品が好きな人にとっては肩透かしな部分もあるかもしれませんが、一方で全く新しいタイプのホラー漫画でもあると思うのです。
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本作の概要
大学に首席入学する優等生である幻燈河螢太郎は中学生の頃に受けた霊障が原因で、写真を撮れば心霊写真に、曰くつきの心霊スポットに行けば必ず心霊現象が発生する霊媒体質になりました。
そんな幻燈河螢太郎が家庭教師をする天才少女は、幻燈河螢太郎以上に深い霊媒体質で、嫌がる幻燈河螢太郎を心霊スポットに連れまわそうとします。
本作の見所
家庭教師の生徒の女の子が幽霊より怖い
「僕は幽霊の類が嫌いだ」
冒頭で真っ先に語られる幻燈河螢太郎の性質です。
のちのちは『霊媒体質のしのぎ方』も含めて訓練していかなければいけないと思ってはいるものの、中学時代のトラウマもあってかなり幽霊を怖がっている様子です。
そんな幻燈河螢太郎がアルバイトで家庭教師をするのは、家庭教師の派遣会社が一番期待している天才児で、偶然にも過去のトラウマから引き籠っていた幻燈河螢太郎を外に連れ出すことになった恩人・寶月詠子の従姉妹の寶月夜宵でした。
寶月夜宵は、霊媒体質の幻燈河螢太郎が異様な雰囲気を感じ取る人形を抱きしめています。
それに気付いた幻燈河螢太郎は警告しようとしますが・・
「ごめんねおイタして。息の根止めとくから」
真顔で人形の首を絞める寶月夜宵。
幻燈河螢太郎は、人形以上にそんな人形に放つ雰囲気に気付いていながら何とも思っていなさそうな寶月夜宵にゾッとしてしまっています。
幻燈河螢太郎に関わりたくないと思わせる寶月夜宵ですが、ここまでなら従来のホラー漫画のメインキャラクターと比べても普通といえば普通なのかもしれません。
少し違うのは、寶月夜宵は霊媒体質ではあっても、例えば除霊したり霊能力で怪奇現象と戦うような力があるわけではない。それなのに、怪奇現象に対してビビる様子もなければむしろ制圧してしまう。
これは後述しますが、天才的な発想でむしろ怪奇現象の側が寶月夜宵を恐ろしいと震えてしまうような、そんなある意味人間が一番恐ろしいというありきたりな言葉をそのままの意味で体現したような作品なのではないかと思います。
天才少女のサイコな行動
「螢太郎先生、心霊スポットいこうぜ!」
これから家庭教師をしようという時に放たれた天才少女からの唐突な提案。
実のところ、アクティブではあっても言葉足らずな寶月夜宵の行動には明確な理由があるのですが、それが分からない幻燈河螢太郎からしてみればかなりサイコでクレイジーに見えてしまうようです。
「ちょ・・僕は感じるだけで視えないし祓えない・・。だから心霊スポットには絶対行かないようにしてるんだってば!」
霊媒体質があるなんていうと、なんとなく心霊現象に耐性がありそうだとか思ってしまいますが、感じるのに何もできないからこそ一番怖いのかもしれませんね。
そして、恐らく何もできないのは寶月夜宵も同じなのだと思われますが、寶月夜宵の行動は心霊現象に対してかなりアグレッシブです。
「何なんだよ!? このクレイジーオカルトロリは!!?」
この幻燈河螢太郎のセリフが、寶月夜宵という少女の性質をもっとも分かりやすく一言で表していると思います。
寶月夜宵の行動の理由や霊と相対する手法を明らかにしないことには、マジでクレイジーなサイコ少女にしか見えないので、あえてここでは寶月夜宵がどのような行動を取ったのかは説明しませんが、一般的に霊を恐れる人間が取るであろう行動の対極にある行動というか・・
ある意味では、他のホラー系作品なら脳筋系の最初にやられてしまいそうなキャラクターの行動に近いかもしれません。
天才少女のサイコな部屋
脳筋系の最初にやられてしまいそうなキャラクターの行動に近いとは言いましたが、それは新たな心霊現象と対面した時の行動のこと。
寶月夜宵が独特なのは、その心霊現象を収集しているというところです。
そこにはどうやら母親を探してという理由があるようなのですが、周囲からは・・というより幻燈河螢太郎のような霊媒体質のある人間からは異様に映るようです。
「この子と向き合おうと思ったことを早速後悔しかけていた。歩み寄るほどに目指している『まとも』から遠ざかる気がする」
ちょっと不気味ではあっても普通の人からは人形を収集しているだけに見える寶月夜宵の部屋は、しかし心霊現象を収集している部屋でもあったからです。
「詠子の言う通り、寶月家には何も起こらない。螢太郎の安全も保障する。だから、爪頂戴」
心霊現象において髪の毛や爪といった体の一部が重要な意味を持つであろうことは、ホラー系作品では定番中の定番ではありますが、だからこそこの寶月夜宵のセリフが恐ろしいですね。
しかし・・
サイコでクレイジーに見える寶月夜宵の言動ですが、かなり合理的な理由があるのが興味深いところです。
実は、恐ろし気な部屋を見せて爪が欲しいと言っているのは、幻燈河螢太郎を信頼したからこその信愛の証だったというのが面白いですね。
最後に寶月夜宵の行動理由が明らかになっていくシーンは、寶月夜宵の年相応の部分と、やっぱり恐ろしい部分の両方が垣間見えます。
「夜宵ちゃんはおそらく信頼できる子だ。・・けど、同時に恐ろしさも兼ね備えている。それらの特別な意志が夜宵ちゃんの行動を形作っている」
自分自身に霊と戦う力は無くても、霊同士をぶつけ合う状況を作り上げることで、完全に霊を自分に対して屈服させるほどの発想力と行動力の持ち主。
それでいて母親を見つけたい。幻燈河螢太郎を助けたい。そんな優しい行動理由も持っている。
そんなキャラクターが寶月夜宵なのです。
総括
いかがでしたでしょうか?
1巻では、寶月夜宵が心霊スポットに行きたがり、霊を捕縛する理由までが語られますが・・
業が深そうな寶月夜宵の今後が楽しみですね。