『映写室のわかばさん(1)』古き良き文化の担い手が描かれた漫画の感想(ネタバレ注意)
現代の映画館では大方の予想通りデジタルが主流だそうで、フィルム上映をしている映画館なんてのは日本国内にほとんど存在しないそうですね。
僕も映画好きですが、フィルム上映の映画なんて恐らく観たこともありません。
それでも映画館といえば、客席の後ろにフィルムを回す映写室があって、カタカタとフィルムが回る音を立てているイメージは根強いような気もします。
それこそ映画によって植え付けられたようなイメージなのかもしれませんけどね。
また、金曜ロードショーのオープニングに流れていた、オレンジ色の背景で映写機を回すおじさんのイメージも個人的には強いです。
ともあれ、フィルム上映の映画はその根強いイメージとは裏腹に絶滅寸前の滅びゆく技術なのだと思います。
そして、『映写室のわかばさん』はそんな滅びゆくフィルムを回すのがお仕事のクールビューティーが主人公の漫画となります。
詳しいことを知っている人は少なさそうな職業ですが、何となく男の職業というか、おじいちゃん的な人がやってそうな職業だという勝手なイメージを持っていたので、わかばさんのようなクールビューティーがやっているのが意外な感じがして、この漫画を読んでみようと思いました。
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本作の概要
今時珍しいフィルム上映をしている映画館であるニュー映劇で映写技師をしているのはわかばさんというクールビューティー。
若干コミュ障の気があるけど映写室での表情は豊かなところが面白いお姉さんです。
ただただお仕事を頑張っているだけのわかばさんを見守るような漫画ですが、周囲の人々との絡みやわかばさんの表情が面白い漫画です。
本作の見所
映写のわかばさん
ニュー映劇で映写技師をしているのはわかばさんというクールビューティーなお姉さんで、なんだか意外な人が映写技師をしている感がありますが、だからこそ自分の仕事に誇りを持っているキャラクターなのかなぁと何となく思ってしまいます。
最初のエピソードから移動映写なんて聞いたことのないサービスで絶賛仕事中のわかばさんが描かれていて、映写の仕事って普通の人があまり知らないようなこともやっているんだよと言われているような気がして興味をひかれてしまいました。
「なかなか見られないぞ映写機なんて!」
映画館から学校に出張サービスなんて、ひょっとしたら昔はそういうこともやっていたんですかね?
エピソード的に教頭先生の趣味で呼ばれたみたいになっていますが、確かに映写機なんてなかなか見られないし、僕が学生なら結構興味津々になってしまったかもしれません。
「機関銃みたいな轟音の中に女の子がひとり」
よくは知りませんが、映写機って絶対に男の子が好きなタイプの機材ですよね。
そして、映写機の側って凄く熱そうです。
そんな映写機の側で、クールビューティーなお姉さんが汗を流しながら一心不乱にフィルムを回す。
何というか、独特の美しさがある光景なのではないかと思います。
『映写室のわかばさん』は恐らく、そんな美しさを描こうとしている漫画なのではないかと感じました。
見栄っ張りのわかばさん
映写室の仕事の本当の所は分かりませんが、わかばさんの様子を見ている限りずっと映写機に張り付いている必要があるわけでもないらしく、アイドルタイム的な時間も結構あるのかもしれません。
時計とスケジュールらしきものを一瞥して、一人映写機の側でラーメンを掻っ込む姿はさながら昔気質の職人のようで格好良いですね。
しかし・・
「わかばちゃんはどうだった? バリバリ博士、映写しながら観てたでしょ。もちろん技師さんだもんねえ」
ラーメンに夢中で観てなかったわかばさんには答えられなさそうな質問ですが・・
「人間の業を描いた傑作ですよね。特に犬の演技が秀逸でした」
おお、さすがはプロ。
お客さんの問いかけに対する答えは用意しているということなのかと感心しそうになりましたが、実はこれがただの見栄だったようです。
このバリバリ博士という映画にはそもそも犬は登場しないようですが、それっぽい感じなのにスグばれる嘘を付いてしまうあたり、プライドは高そうなのにちょっと抜けていて可愛らしいと思いました。
労われるわかばさん
失礼ながら映写技師という仕事に対しては気楽そうなイメージを持っていました。
専門知識は必要そうですが、要は映画を再生するだけの仕事だと思っていたからです。
再生ボタン一つで簡単に動画が再生できる現代に生きているからそんな風に思ってしまっていたのかもしれません。
しかし、どうやら映写技師というのは結構な重労働みたいで、わかばさんも仕事で徹夜なんてこともしたりしているみたいです。
古いフィルムの試写やフィルムのチェックなど、やるべき仕事はたくさんあるようです。
まあ、専門職なんてものには素人の知らない苦労がいくらでもあるものなのかもしれませんね。
わかばさんもまだ若くて遊びたい盛りだろうし、フラストレーションが溜まったりしているのではないかと危惧されて、お客さんからちょっと大人な感じのドレスをプレゼントされたりと労われていますが、喜んでいるのかどうか分からない塩対応です。
一方で、社長が新しい映写レンズに取り換えた時には、夜遅くまで取り換え作業をした上で試写したスクリーンを観ながら目を輝かせています。
無理をさせている自覚のある社長は当初、わかばにリフレッシュ休暇を取るように言うつもりだったようですが、それで言いそびれてしまっていました。
人間は好きなことならビックリするくらい無理ができる生き物です。
最近はよく過労死ラインなんて言葉を聞きますが、そのくらいの時間って実は好きなことなら余裕の時間だったりするから不思議ですよね。
そして、ごくたまに本当に自分の仕事が好きでたまらない人間がいるのも事実ですが、どうやらわかばさんもその類なのかもしれません。
羨ましい限りです。(笑)
初心なわかばさん
どうやらニュー映劇では面白ければピンク映画だって上映するようです。
僕は観たことがありませんが、ピンク映画で主演女優が舞台挨拶するとかってこと本当にあるんですかね?
ともあれ、舞台挨拶にやってきたピンク映画の主演女優である浅野アヤは、わかばさんの塩対応を見て自分のような職業を見下しているのではないかと思ってイライラしています。
そして、自分の映画なんだしちょっとくらい良いだろうという考えで映写室をのぞいてみたら・・
「あれはさっきのクールビューティー映写女子。なのに、この私の主演映画を、めっちゃキラキラしながら観ている~! 性に目覚めた小学生かよ」
どちらかといえば可愛らしくも格好良い姿を見せていたわかばさんでしたが、このエピソードではちょっとムッツリなところを見せています。
いやらしい感じではなく、浅野アヤの言う通り性に目覚めた小中学生っぽい感じで、角度を変えてボカシの中を覗き込もうとしてみたり。(笑)
意外なわかばさんの姿ですが、自分の主演映画を観てキラキラしているわかばさんを見て浅野アヤは満足そうですね。
『映写室のわかばさん』は映写技師を描いている漫画なので、映画そのものにはあまり触れられていません。
そんな中初めてわかばさんが結構真剣に映画を観ているシーンがピンク映画だっていうのはちょっとアレな気がしますが、面白いし可愛いので良いと思います。(笑)
総括
いかがでしたでしょうか?
古き良き文化を伝えようという想いが伝わってくる良い漫画だったのではないかと思います。
デジタル全盛の今だからこそ読みたいって感じでしょうか?
職業系の漫画って、ファンタジーやSFほどではないにしても知らない世界に触れられる面白さがあって結構好きなんですけど、映写という今現在一体何人くらいいるんだろうというくらい珍しい職業の世界が垣間見えて本当に興味深かったです。
映画好きだから興味を持ちやすかったというのもあるかもしれませんが、考えてみればその裏側の話なのであまり映画は関係なかったですけど。(笑)
だけど好きな世界を支えているものって、オタク的にはどうしても興味を持ってしまいますよね。
次巻ではどんな映写の世界を見せてくれるのか楽しみです。