『新約・リボンの騎士(1)』日本漫画界における古典の名作のリメイク版の感想(ネタバレ注意)
『リボンの騎士』といえば、戦後間もない時代に手塚治虫先生によって描かれた日本漫画界における古典の名作ですね。
僕は手塚治虫先生の作品は『ブラックジャック』くらいしか読んだことが無いのですが、あまりにも有名なのでさすがに『リボンの騎士』という作品や主人公のサファイアのことは知っていました。
そんな『リボンの騎士』のリメイク版である『新約・リボンの騎士』が書店でふと目にとまり、全く手塚治虫先生の絵に寄せるつもりのない現代的なキャラデザが気になって読んでみることにしました。
特に『ブラックジャック』あたりは、手塚治虫先生の絵柄をリスペクトしたような派生作品が多いですが、『リボンの騎士』でってのは珍しい気がしますね。
キャラデザだけではなく、原作の『リボンの騎士』を下敷きに色々改変を加えている作品になっているようですが、元の下敷きが優秀すぎるからかとても面白い作品になっていたと思います。
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本作の概要
男しか王位を継げないシルバーランドですが、王位継承権を持つサファイア王子は実は性別を偽った美少女でした。
しかし、王子のフリをしていることを感づいている宰相はサファイアの秘密を暴こうと画策します。
本作の見所
サファイアとリボンの騎士
日本の漫画における最古のボクっ娘と言われています。
通常とは違う性に対する認識を持っていたり、異性として生活するようなキャラクターって今でも有力な一つのキャラクター属性だと思いますが、実はかなりその歴史は古いのですね。
『新約・リボンの騎士』においても、サファイアはなかなか魅力的な男装キャラとして描かれています。
実は女の子らしく可愛らしいものが好きだったりするのに、普段は男らしく振舞おうとしているギャップが良いですね。
「やれやれ・・女の子ひとりをそうやって追い回すなんて、男の風上にもおけない奴らだね」
貴族の少女を助けたサファイアは男らしくて格好良いですが・・
「えへへ・・かわいい帽子もらっちゃった~♡ かぶってみたかったんだぁ、こういうの♡」
お礼に貰った可愛らしい帽子を被ってご満悦のサファイアは完全に可愛らしい女の子って感じです。
助けられた少女は、お礼をしたい気持ちを満たすためにあえてたいしたことの無い帽子を貰っていったと捉えたようですが、完全にサファイアが欲しかったものを貰っただけっぽいですね。(笑)
「そのような男らしくない姿を見せるようでは、亡き先生が悲しみますぞ!」
しかし、宰相レスターは明らかに女物の帽子を被ったサファイアをこれ幸いにと見咎めます。
ですが助けた少女の父親であるユリウス伯爵により、少女を助けた際の男らしいエピソードが語られ・・
「レディを助けて報酬にリボンの帽子とは・・リボンの騎士、王子様はリボンの騎士だ!!」
リボンの騎士と呼ばれる理由付けのエピソードとなる訳ですが、いい感じの理由付けだと思います。
暗殺者ウィレマ
「私が見るにサファイア王子はまだまだ子供・・。一人前の男とは申せませんなァ」
どこにでも悪い政治家はいるものです。
誤解を恐れずに言えば、政治家って理由はどうあれ私利私欲の強い人間がなる職業で、自分にとって良い世界を作ろうとするものなのだと思います。
利己的だからこそ世界を良くしようと考えるわけですからね。
そして、利己的であることは必ずしも悪いことではなく、普通の人には無いバイタリティを代わりに発揮してくれる存在でもあるわけですね。
しかし、利己的であることは良い方向にばかり働く訳ではない。
それが政治家に悪い人間も多いイメージに繋がっているのだと思います。
持っている欲が権利欲であった場合は特にたちが悪いと思うのですが、まさに宰相レスターはそういうタイプの政治家っぽいです。
「もしワシの読み通りサファイア王子が女であったならワシに報告せよ。だが男だった場合は・・殺すのだ!」
そう言って派遣されたのは暗殺さウィレマ。
女の子らしさを感じさせつつも基本的には男らしく振舞うサファイアの言動に注意を払うウィレマでしたが、夜中に水浴びしている所を見られてあっさりと女の子であることがバレてしまいます。
「レスターに僕が女だということが・・王位継承権が僕にないことがバレたら・・! ダメだ! レスターはその時、宰相の立場を利用し王国を私物化しメチャクチャにしてしまうだろう!!」
ならウィレマに報告させるわけにはいかないと抵抗するサファイアでしたが、ウィレマのナイフに塗られた毒で気を失ってしまいます。
しかし、サファイアを殺そうとしていたはずのウィレマは何故かサファイアの看病を始めてしまいます。
「・・どうかしているわ、私・・」
友達になれると言ってくれたサファイアにほだされつつあるようですね。
こういう立場的に最初は敵だったけど、人間的には好意を持ってしまうような展開って良いと思います。
山の神様のお祭り
そういうわけで、ウィレマがサファイアを狙う暗殺者である事実は変わらないものの、この2人は本当に友好的な友人のような関係になっていきます。
「よくないよ! 僕が女の子だってばれるとまずいの知ってるくせに・・! こういうの困るんだよ!」
「そう? ぜんぜん困ってる顔には見えないけど」
サファイアに誘われて祭りについて行く条件に、サファイアに女の子の格好をさせるウィルマ。
困りつつも可愛らしい格好に嬉しそうな表情のサファイアが微笑ましいですね。
しかし、サファイアもからかわれっぱなしではありません。
こんなに可愛らしいとサファイア王子だとはバレないだろうとウィルマに言われて自分が女の子の格好をすることには同意したサファイアですが、ウィレマにも条件を付けます。
というわけで、男装させられたウィレマと女装・・じゃなかった本来の性別通りの格好をしたサファイアは一緒にお祭りを楽しむことになりました。
ウィレマの葛藤
このままウィレマはほだされて順調にサファイアサイドの人間になっていくのかと思いましたが、そう簡単な話でもないようです。
どうやら母親の安否を宰相レスターに握られているようで、サファイアを泳がせるほどに追い詰められているようですね。
宰相レスターに眠り薬を盛られたサファイアにナイフを向け、しかし親しくなったサファイアを殺すことはできませんでした。
それにしても、宰相レスターも眠り薬を盛れるなら毒薬を盛れなかったのか。まあ、そこは自分の手は汚さないってことなのかもしれませんね。
ともあれ、結局サファイアを殺さない決意をしたウィレマは、そのことで危険にさらされることになる母親に謝りに行きました。
「今日は母さまに謝りに来ました。きっと母さまに迷惑をかけてしまうでしょう。でも私は王子のことを守りたいのです」
宰相レスターにとっては想定外すぎる展開でしょうけど、この時のウィレマの表情は晴れやかで良い感じですね。
しかし、娘の決意の邪魔になると思った母親は自ら命を絶ってしまいます。
なかなか壮絶な展開ですが、ともあれこのサファイアとウィレマの独特な関係性の今後が気になりますね。
総括
いかがでしたでしょうか?
僕は原作の『リボンの騎士』を知りませんが、『新約・リボンの騎士』も十二分に面白い作品だったと思います。
続巻が出たら間違いなく買いですね。