『落第騎士の英雄譚(16)』東堂刀華成分多めの閑話休題的エピソードの感想(ネタバレ注意)
『落第騎士の英雄譚』。
前15巻の盛り上がりは凄かったですね。
前々巻までは少し飽きかけていたところもあるのですが、一気に「やっぱおもしれ~」ってなりましたし。
そして、15巻ラストは自己犠牲で一度は確かに死んだ黒鉄一輝が、妹の黒鉄珠雫の活躍で死者蘇生するものの、完全復活までには時間が掛かるようで小さな体になって体力も低下してしまいました。
とある小さくなった名探偵の頭脳はそのままでしたが、騎士である黒鉄一輝にとってそれは致命的なはず。
そんな黒鉄一輝がどうなるのかが気になるところで、ずっと最新巻を楽しみにしていたのですが・・
いやはや、焦らしますね~
まあ確かに前巻で一大エピソードが完結したわけですから、閑話休題的なエピソードを間に挟むってのも無い話ではありませんね。
そういうわけで、今巻は黒鉄一輝やステラの出番はほとんどなく、懐かしい日本の学生騎士たちのエピソードが中心となります。
しかし、最後には今後のエピソードで重要な立ち位置になりそうなキャラクターの登場も描かれていますよ。
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本作の概要
オル=ゴールとアイリスの姉弟との死闘はついに決着し、平和になったヴァーミリオン皇国。
しかし、オル=ゴールの人形遣いでの操作から解放された人々の存在は世界で混乱を巻き起こし、日本でも特例招集により学生騎士が動員されることになりました。
長かったヴァーミリオン皇国編で日本の学生騎士たちは随分とご無沙汰でしたが、今巻ではそんな懐かしい学生騎士たちの活躍が見られます。
本作の見所
小さくなった黒鉄一輝
黒鉄一輝は努力型の主人公です。
足りない才能を努力で補う天才とでも言いましょうか。
実際のところは分かりませんけど、積み上げてきたものの大きさは他のキャラクターの比では無いのだと感じさせるキャラクターですよね。
そんな黒鉄一輝の積み上げてきたものが、一時的にとはいえ失われる。その喪失感は相当に大きそうなものですよね。
「今まで以上に力を当てにできないのなら、技を研ぎ澄ませるしかないよね」
しかし、そこを好機と捉えるのが黒鉄一輝の黒鉄一輝たる所以ですよね。
足りない力を努力や工夫で補うことで力を付けてきた経緯があるので、より力が無くなったのなら、より力を付ける良い機会だという考えは、なるほどとは思えても常人の発想ではないような気がします。
「自分はまだ、剣の持つ可能性を 極めきれていない」
そして、世界最強の一角に勝利したにも関わらず感じているのは自分の未熟さ。
世間の評価とは裏腹に、ステラを泣かせるような自己犠牲の勝利を猛省しているようですね。
「この体で以前の僕よりも 強くなる。それが全治までの半年間の課題だ・・!」
この向上心の強さが格好良く、今後しばらくの黒鉄一輝を期待させますね。
それだけに、今巻出番がこれだけというのが寂しいような気はします。
ステラ一安心
「《覚醒超過》に落ちて自分には使い切れていない魂の力があることがわかったのは収穫だったわ。あの力をアタシは《 紅蓮の皇女》のまま使いこなせるようになってみせる。次はもう《覚醒超過》なんかに頼らなくていいように……」
前巻でのステラが覚醒超過に至るシーンは衝撃的でした。
これがヒロインかよって感じで。(笑)
一応、オル=ゴールとの戦いでは自力で自我を取り戻したものの、一度体が変質したことは事実なので、どうやらステラは自分の体がちゃんと人間なのかが気になっていたようですが、そこは大丈夫だったようです。
しかし、次も大丈夫だとは限らないので、もう覚醒超過は使わないと決意しつつも、その力を覚醒超過せずに使いこなしてみせるという決意は、少年漫画の主人公のようです。ヒロインですけど。(笑)
ですがメインヒロインも今巻は出番ここまで。
十分面白いんですけど、主人公とメインヒロインの出番が少ないとやっぱり寂しい気がしますね。
折木有里の評価
かつて黒鉄一輝に騎士は向いていないと進言した折木有里は、強者に勝利し続けるもののボロボロになっていく黒鉄一輝を見て、やっぱり黒鉄一輝は騎士に向いていないと感じていたようです。
黒鉄一輝にとっては恩人の一人ですが、七星剣武祭でステラとの壮絶な決勝戦を経て学生騎士の頂点である七星剣王になっても、その評価を覆すことはしていませんでしたが・・
「そんなわたしの見立てが間違いだったことを、彼は彼の最強で証明してくれた」
既に黒鉄一輝は折木有里に測れる器ではないと、そう認める事になったようです。
いや、もしかしたらこの考えは七星剣王になった時点でもあったのではないかとも思うのですが、学生騎士の枠を超えて活躍を見せたことがキッカケになったのかもしれませんね。
諸星雄大 VS 倉敷蔵人
何故このタイミングでこの2人の私闘が描かれるのかは謎ですが、結構大々的に描かれているので何かしら今後の伏線になっているのかもしれませんね。
「こんなにも強い元・七星剣王に、大嫌いなあいつが 負けるところを想像できない のが、本当に悔しいよ」
実績だけ見ると元・七星剣王である諸星雄大に分があるように感じられるカードでしたが、綾辻絢瀬は倉敷蔵人の勝利を確信しているような様子でした。
そして、実際にこの私闘は倉敷蔵人の勝利に終わります。
後に東堂刀華が語っているように勝負には相性があるもので、倉敷蔵人は諸星雄大に勝利しましたが、その倉敷蔵人には勝てると東堂刀華は言います。その上で、諸星雄大に勝つのは難しいとも。
もしかしたら、このエピソードは「誰が誰に勝ったのか」という事実はイコール格付けではないのだということを改めて示しておきたい意図があったのかもしれませんね。
「・・ただ、決着の 間際、あの野郎から今まで感じたこともねェほどの 怖気 を感じた」
加えて勝利こそしたものの倉敷蔵人が諸星雄大から感じた正体不明の怖気は、今後のエピソードの何からの伏線にもなっているような気がします。
東堂刀華 IN 博多
あまり目立ちませんが、相当な実力者でありながら天然が入っている東堂刀華って結構良いキャラクターですよね。
御祓泡沫と貴徳原カナタ、そして東堂刀華の3人で博多にやってきて、ラーメン屋の暖簾にフラフラと誘われる東堂刀華が、新たな一面って感じがして良い感じでした。
「はぁ~。豚骨のこってりした風味を楽しんだ後の替え玉に紅しょうがを入れられる幸せ。福岡に帰ってきてよかったばい」
天然ではあるけどしっかり者のイメージも強い東堂刀華が、故郷でついつい方言になってしまっているのが可愛らしいですね。
「一杯目から紅ショウガが上に乗っかっとう豚骨ラーメンが出てくると、こう・・殺意 を覚えるよね」
こういう地元人らしいこだわりを持っているのも意外な一面といえば意外な一面ですよね。
天導衆教祖《 大炎》 播磨天童
さて、今巻の後半は東堂刀華と彼女の育った施設である『若葉の家』を取り巻く、いじめ問題について描かれています。
施設の子供や保護者が、とある有力者が引っ越してきたことによりいじめの標的になってしまい、東堂刀華が激怒するってエピソードですね。
これはまた前巻までのヴァーミリオン皇国編に比べると、誤解を恐れずに言えば日常的なある意味ありふれた問題で、何でここで描かれたのかが気になるところですよね。
そして、その答えが今後の展開でのキーパーソン(恐らく敵役)であろう播磨天童を登場させることにあったのだと思います。
それも今のところ主人公サイドのキャラクターである東堂刀華に好印象を与える人物として。
この登場のさせ方からいって恐らく、ただの分かりやすい悪役にするつもりはないのだと思われますね。
総括
いかがでしたでしょうか?
『落第騎士の英雄譚』は、何故か4月と10月に発売するのが恒例になってきましたね。
個人的に、いつも情報処理技術者試験の受験タイミングで忙しい時期に発売するので、本作品の発売タイミングって凄く印象に残っているんですよね。(笑)
今巻では小さくなった黒鉄一輝の活躍を期待していたのですが、そこは次巻以降に持ち越しになってしまいました。
それだけに次巻への渇望度がいつも以上に高くなっているのですけど、今までの傾向から次は恐らく10月。
かなり先ですけど・・
本作の作者である海空りく先生は別作品である『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』も刊行中なので仕方ないですね。
楽しみに待っていますけど、早く出してくれてもええんやで?