『本好きの下剋上 貴族院外伝』の感想。ローゼマイン様が不在でも面白い!
なろう系屈指の名作。
『本好きの下剋上』のシリーズ初の外伝です!
貴族院でローゼマインの周囲にいるキャラクター達の短編集ですね。
一応シリーズ初の外伝とのことですが、本シリーズはエピローグの後にローゼマイン以外のキャラクター視点の短編が入っていることが多いので、あまり初めてという感じはしませんね。
しかし、このローゼマイン以外のキャラクター視点の短編を常々面白いと思っていたので、この短編集はとても楽しみにしていました。
こちらの記事でも紹介したように、キャラクター1人1人が個性的であることが『本好きの下剋上』の魅力の一つだと思います。
その個性的なキャラクターにスポットを当てた短編は、間違いなく『本好きの下剋上』の世界観をより深みのあるものに変えるのに一役買っていますよね?
本作に主人公のローゼマイン様はほとんど登場しません。
多少登場しますが、完全に脇役扱いです。
それなのに十分に面白い!!
短編に登場する人物の中にはかなりメイン級のキャラクターもいますが、本編での出番もまだまだ少ないキャラクターもいます。そんなキャラクターを主人公に据えている短編でも漏れなく面白いというのは、本当に凄いことだと思います。
また、主人公のローゼマイン様は本外伝においては完全に脇役扱いだとは言いましたが・・しかし。
何ですかこの存在感は!!
主人公だからちょっと関わってくるだけで目立つだけなのではないかと言われたらそれまでなのですが、本外伝においては本当にほとんど登場せず、それどころか貴族院から帰ってしまっていた期間が長く、そもそも短編の主人公たちの周囲にいないことが多かったのですが、それにも関わらず話題はローゼマインのことばかり。
不在だからこそ、ローゼマインというキャラクターの強烈な個性を改めて実感した、そんな一冊でした。
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本作の概要
本編第四部の『貴族院の自称図書委員』は基本的にローゼマイン視点の物語となりますが、本作は他のキャラクターの視点で書かれた外伝となります。
18本の短編が11人の主人公によって語られます!
個性的な11人の主人公それぞれの魅力と、不在でも圧倒的に存在感のあるローゼマインに注目です。
ここでは11人の主人公の内、特に印象に残ったハンネローレ、アンゲリカ、トラウゴットの3名のエピソードを見所として紹介します!
本作の見所
ハンネローレ
本編ではまだあまり出番の少ないハンネローレですが、本外伝ではヴィルフリートと並んで4本の短編が掲載されています。
主人公であるローゼマインの義兄で、もっとも関わりの深いヴィルフリートの短編が多いのは妥当なのでしょうが、まだまだ出番の少ないハンネローレの短編がこれだけあるのには驚きました。
しかし、読み終わった後に理解しました。
ハンネローレ、めっちゃ魅力的なキャラクターだと思います!
天性の間の悪さ
それがハンネローレの個性(?)で、兄であるレスティラウトの無礼を謝ろうとローゼマインに近づこうとしますが、間が悪く中々ローゼマインとお近づきになれない内に、ローゼマインはエーレンフェストに帰還してしまいます。
タイミング悪くエーレンフェストの領主候補生宛てにお茶会の誘いを出してしまったがために、ヴィルフリートを振り回すことになってしまったり、貴族院に戻ってきたローゼマインが開催したお茶会でも中々ローゼマインと話すことができず、やっと話せたと思ったらリンシャン目当てで上位領地の領主候補生が無理を言うような形に取られてローゼマインを困らせてしまったり・・
確かに、ハンネローレはかなり間が悪い少女のようですね。
だけど、こういう間が悪いなりに頑張っている女の子って魅力的だと思います。
しかし、一番驚いたのはハンネローレが実は特に本が好きではないという点。
ハンネローレがシュミル見たさに図書館通いしていたのをローゼマインが本好きなのだと勘違いして、勢いよく喜んでいる所を否定できなくなっただけというのが真相だったなんて、本編だけを読んでいたら絶対に気付けない裏側のエピソードでしたね。
本編では本好きの友達ができて喜んでいるローゼマインだけが書かれているので、これには驚きました。
ちなみに、僕自身もかなり間の悪い人間なので、自分の間の悪さに辟易としている感じのハンネローレには共感できる部分も多く、かなり好きなキャラクターとなりました。
なので本編でももっとローゼマインと絡んでいって欲しいので、本好きではないということがバレても、ローゼマインとは仲良くしていて欲しいものですね。
アンゲリカ
ローゼマインの護衛騎士で、貴族の中ではかなりの古株のキャラクターですが、何を考えているのかが読めないキャラクターでもあります。
いわゆる脳筋のおバカキャラなのですが、ローゼマインからは信頼されている愛されキャラでもあります。
何を考えているのかわからないキャラクターなだけに、誰の短編が入っているのかと目次を見た瞬間、真っ先に興味を持ちました。
いや、当然最初から順番に読んだのですけど、早くアンゲリカの短編が読みたくて読書スピードが上がったのは間違いありません。
アンゲリカといえば、本作に登場する個性的な貴族の中でもかなり浮いている、独特の感性を持っているような印象の女性ですが、その内面が垣間見える短編でした。
よく怒られるアンゲリカですが、その時に何を考えているのか?
よく自分の嫌いなことから逃げ出そうとするアンゲリカですが、その時に何を考えているのか?
そういうアンゲリカの内面に触れることができました。
神殿での灰色神官たちのやり取りも良いですね。
良い意味で貴族らしくなく、自然体で「郷に入っては郷に従え」を実践できていて、失敗した悩みを二コラに相談したり、そのことをフラン達に怒られそうになっている二コラをかばったり・・
バカだけど皆に好かれるアンゲリカというキャラクターがよくわかる短編でもあったと思います。
ちなみに、この短編を読んで地味に驚いたのがアンゲリカとギルが同世代くらいだということですね。
初めて確かにそれくらいかと気付きましたが、ギルの方に子供っぽい印象があるので、何となくアンゲリカの方が年上だと思っていました。
トラウゴット
本編の主人公ローゼマインは、かなり周囲を振り回す迷惑キャラではありますが、側仕えや護衛騎士からは基本的に何だかんだで好かれています。
そういう意味でトラウゴットはローゼマインのことを軽んじる珍しいキャラクターで、本編でもかなり印象に残っていました。
ローゼマインの護衛騎士を辞任し、親戚筋に怒られまくった後のトラウゴットのことが本外伝の短編では描かれています。
本編を読んだ時点で、トラウゴットがかなり自分勝手な奴だということは誰にでもわかっていたことだと思いますが、この短編で書かれるトラウゴットの心情は・・
ハッキリ言って想像以上に自分勝手で嫌な奴でした。
ここまで嫌な感じに書くことができるなんて香月美夜先生はさすがです。
いや、皮肉っぽく聞こえるかもしれませんが誉め言葉ですよ?
あれだけ様々なキャラクターを書き分けることができるのに、こんな所にも引き出しがあるなんて凄いです。
正直な話、トラウゴットはとても好きになれるようなキャラクターではありませんが、あえてそのようなキャラクターを主人公に据えた短編というのも、普通の物語とは違った面白さがあってとても良かったです。
総括
いかがでしたでしょうか?
本作の、脇役が脇役であって脇役ではない所。これだけ大量のキャラクターが登場するにも関わらず、全員がメインキャラクターレベルで個性的な小説って他には中々無いと思います。
本作のあとがきによると、作者の香月美夜先生はハンネローレの短編を既刊に入れたかったらしいのですが、それが入らなかったためこの外伝が出版されることになったとのことです。しかし、正直に白状すると本外伝を読む前まで僕は、「ハンネローレって聞いた覚えあるけど誰だっけ?」という状態でした。
いや、現時点で本編においてはローゼマインとの絡みも出番も少ないキャラクターなので、すぐに思い出すことができなかったのですよ。(一応、本編にあったエピソードの視点違いなので読んでる内にすぐに思い出せましたが)
そんな、その他大勢に近いキャラクターの掘り下げが半端ではない『本好きの下剋上』が、更に本気を出してきたという印象の外伝でした。
だって、本編を知らずにこの外伝を読んだ人がいたら、まさかハンネローレが本編においてはまだまだ出番の少ないキャラクターだなんて思わないですもんね?
僕は普段、こういう外伝的な小説に対しては「外伝を出すくらいなら本編を早く出して~」と思うことが多いのですが、『本好きの下剋上』においては外伝も本編並みに楽しみかもしれません。
もちろん、本編も楽しみにしていますが、またこういう外伝も読んでみたいですね。
タイトルに「1年生」と入っているということは、「2年生」「3年生」と外伝がでることを期待して良いのかなぁ?