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ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】5巻

 

ある意味本当にヒカルの碁が始まったと言える5巻です。(前巻の書評はこちら

「いや、とっくに始まってるやろ」と言う人もいるかもしれませんが、ヒカルがアキラとの差を自覚し、本当の意味でアキラを目標にして歩き始めるのがこの5巻からになります。

今までは囲碁を始めて純粋に楽しんでいるだけのヒカルでしたが、それが時にはツライ思いをしながらもプロを目指す。その序章となる5巻こそ、文字通りの意味でのヒカルの碁の始まりなのではないかという風に思いました。

ヒカルにアキラとの差を気付かせるキッカケを与えた岸本。

最後に背中を押した加賀。

この2人はファインプレーでしたね。

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本作の概要

saiはヒカルかもしれない。

その可能性を捨てきれないアキラはプロ試験をサボってsaiと対局することにします。局後、「彼だ・・」とsaiはヒカルであると直感で思うものの、言い聞かせるようにヒカルではないと繰り返します。

そんな中、父親の塔矢行洋が経営する碁会所で、ネットカフェでヒカルを見かけたという情報を耳にして、急いでその店に向かいます。

「ほんのわずかのひっかかりが いつまでも否定できない!」

囲碁大会の三将戦以来にヒカルと出会ったアキラは、しかしヒカルには誤魔化されてしまいます。

一応、saiはヒカルではないという答えを得たアキラは、もう二度とヒカルの前には現れないと言ってその場は別れることになりました。

一方、ヒカルはといえば佐為のことばかり気にして全く自分に目が向いていないアキラに何だか面白くない様子です。

この段階では面白くない様子なだけですが、その後海王中囲碁部の部長である岸本と囲碁を打つ機会があり、その時にアキラとの目標に対する意気込みの違いを自覚することになります。

そして、ついてヒカルがアキラを目標に歩み始めます。

本作の見所

強くなったのは私の方

sai vs akira

作中でもかなり注目度の高い対局の一つですね。

対局中、アキラは以前のヒカル以上の強さをsaiに感じていますが、佐為自身も自分の成長を感じているようです。

「強くなったのは━━━私の方です」

ネット碁で現代の囲碁覚え、相当数の対局をこなすことで鍛えられたのを、かなりの実力者であるアキラと対局することで実感したということでしょうか?

この対局で佐為が選んだ布石は白番二連星で、その後の進行も現代的なものです。(2018年現在からすると既に何だか懐かしい感じの進行ですが)

 実際、使われている棋譜も古碁のものではなく現代のものですからね。

囲碁を知らない人にとっては、ヒカルの碁の作中で佐為はずっと絶対的強者的に描かれているように見えるかもしれませんが、囲碁の実力的に実は作中でも最も成長(というより変化?)の大きなキャラクターなのかもしれません。

使われている棋譜も、1巻でのアキラとの対局で使われた棋譜よりも圧倒感の強いものが選ばれている気がします。

ヒカルの幻影

ヒカルがネットカフェにいると聞いたアキラが、もしかしたらヒカルがsaiかもしれないという考えを振り払うためにヒカルの元を訪れます。

ヒカルは何とか誤魔化しますが・・

「オレの幻影なんか追ってると ホントのオレにいつか足をすくわれるぞ!」

二度とヒカルの前には現れないというアキラに、どこまでも佐為のことしか見ていないアキラに、それが面白くないと感じたヒカルが放ったセリフですね。

「いつかと言わず今から打とうか?」

ヒカルのセリフは本心だったのでしょうが、一方でアキラとの差を少しずつ理解しはじめているのでしょうね。アキラの返しにヒカルは何も言えなくなってしまいました。

強くなったヒカルと碁盤

saiの打つ碁を見続けたヒカルは三谷に認められるくらいに強くなります。

しかし、saiの正体は誰なのかで大騒ぎ。

それを知ったヒカルは、もうネット碁もダメだと考えます。

ネット碁もダメなら佐為と自分が打てば良いと考えたヒカルは、じいちゃんに碁盤をねだるのですが・・

足つき碁盤をサラッと買ってくれるじいちゃんが羨ましすぎますね。

新しい碁盤でヒカルと対局する佐為が可愛らしいです。子供っぽい感じのはしゃぎ様でもの凄く幼く見える佐為ですが、そういえば何歳くらいで亡くなった幽霊なんだろうと、少し疑問に思ってしまいました。(笑)

ともあれ、佐為とも対局するようになったヒカルはめきめきと上達し、筒井に2子置かせて勝ち、三谷にも互先で勝つまでに成長しました。

岸本との対局

意外と地味なシーンですが、ヒカルの碁の作中においてもある意味最重要かもしれないシーンだと思っています。

この岸本との対局が無かったら、もしかしたらヒカルがアキラを追って院生になることは無かったかもしれませんもんね。

岸本も、アキラが拘ったヒカルの実力に興味があるのでしょう。

本屋で偶然出会ったヒカルを連れて碁会所に向かいます。

「うちの副将と互角くらいか・・」

ヒカルは最初、岸本の独白を誉め言葉と受け取りますが、岸本からすれば「うちの副将と互角"程度"」だと感じたのかもしれませんね。

力の差ではない。

目標に向かう意気込みがアキラとは違うのだと、岸本は指摘します。

「塔矢とオレの距離がハッキリ見えてきた」

アキラがプロ試験に既に合格しているということを知り、アキラがプロになるとしてもずっと先の未来の話だと思っていたヒカルは、自分とアキラの距離を自覚します。

ヒカル(佐為)を追いかけていたアキラと、アキラを追いかけるヒカル。

立場が逆転し、本当の意味でヒカルの碁が始まった瞬間ですね。

ここからヒカルは真っ直ぐにアキラを追いかけるために努力し始めます。

院生を目指すヒカル

アキラを追いかけるために院生になろうとするヒカルですが、院生は囲碁部の大会に出れないことを失念しています。

大会に出るために三谷を誘ったヒカル。

最初は乗り気じゃなかったのにやる気になっている三谷。

これは、三谷が怒るのもしょうがないですよね。

しかし、ヒカルの目標の大きさを理解する加賀がヒカルの背中を押します。

三面打ちでヒカルの力を見せつけさせることで、三谷にもヒカルの行動を認めさせようとするのですが、確かに三谷の性格だと何か理由を付けないとヒカルを認めることができなかっただろうし、加賀のファインプレーでしたね。

佐為にだけ聞こえていた三谷の「負けました」

ヒカルの碁の中でも屈指の切ないシーンです。

本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!

今回はやっぱりコレしかないでしょう。

sai vs akira

元ネタは1998年の新初段シリーズ。金賢貞初段(黒)と小林覚九段(白)の対局で、akira側の黒番ですね。

saiがヒカルかもしれないと予感を抱いているアキラが、プロ試験をサボってまでsaiとネット対局した時の棋譜となります。

(図1)

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「この一手で白の眼形をおびやかす!」

アキラがそう言って上辺の白の弱点っぽい所に打った場面ですね。

LeelaZero先生の候補にもある手で、中でも一番厳しそうに見える手ですが・・この時点では既にだいぶ形勢が白に傾いているみたいですね。

僕もこれは完全に白持ちの形勢だと感じます。

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対局しながらアキラはヒカルに敗れた時以上の壁を感じているようですが、実際1巻でヒカル(佐為)と対局した時の棋譜は割と五分に近い形勢で進行していたのに対して、今回の棋譜は最初からジリジリと白の形勢が良くなっていくものになっています。

アキラの眼形をおびやかす一手も、まだ弱そうな上辺の白を攻めながら、同じく弱い上辺の黒を強化しようという意図の手かと思われますが、上辺の白が強くなってきたら左上よりにある黒も分断されかねない形です。

(図2)

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実際、上辺の攻防の途中、いったん左上の黒が切断されないように手を入れることになってしまっています。

これだけが原因ではないのかもしれませんが、結果的に上辺から中央一体の黒石が死んでしまう原因の一つにはなっているのかなぁと感じました。

この切断に備えた1手の後の上辺の黒の逃げ出し方が相当ツライですね。悪あがきっぽさのあるものだと感じられます。

sai・・というか小林覚先生が流石な一局です。

総括

ついにアキラが念願の佐為との対局を果たせました。

saiイコールヒカル(佐為)だと完全に結びついているわけではないものの、念願が叶って良かったですね。

そんなアキラとの差を自覚し、アキラを追いかけることにしたヒカルが院生試験を受けることになったところで5巻は終わります。

次巻以降、院生試験の結果、ヒカルがどう進んでいくのかに注目ですね。

(次巻の書評はこちら