『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌(1)』ビブリオバトルをテーマにしたラノベの感想(ネタバレ注意)
『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』は、三上延先生の特大ヒット作である『ビブリア古書堂の事件手帖』のスピンオフ作品であり、篠川栞子をはじめとした『ビブリア古書堂の事件手帖』のキャラクターも登場するファンには嬉しい作品となっています。
何で発売から2年以上経った今さらになってレビュー記事を書いているのかといえば、積み本になっていたのを最近になって初めて読んだからなのですが・・
結論から言えば、これはもっと早く読んでおけば良かったと少し後悔するくらいに面白かったです。
しかも、あからさまに僕好みの小説でした。
ビブリオファイトというビブリオバトルを元にした競技を題材にしていて、ミステリー作品である『ビブリア古書堂の事件手帖』とは異なる趣がある・・どころか異なるジャンルの作品になっています。
ビブリオバトルとは、本の紹介をして「どの本が一番読みたくなったか?」を競う比較的新しい競技となります。
意外とフィクション作品の題材にされることも多いですが、大抵は1エピソードの題材になるくらいで、『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』のようにガッツリと題材にした作品は珍しいような気がします。
この手の作品にありがちな、作中で紹介された作品をついつい読んでしまいたくなるような現象に陥っているところです。(笑)
ちなみに、『ビブリア古書堂の事件手帖』を知らなくても全く問題なく楽しめる内容だと思うので、『ビブリア古書堂の事件手帖』を知らない人も安心ですよ。
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本作の概要
いわゆる隠れオタクで、友人知人には隠れて自作小説の朗読配信を行っていた前河響平は、ある日その自作小説を書いたノートを紛失してしまいます。
そこには朗読サイトのアカウントまでメモられていて、誰かに見つかっては大変だと必死で探し回ります。
そんなノートを拾ったのは卯城野こぐち。
卯城野こぐちは、一度本の世界に入り込むとなかなか戻ってこれない体質の本好きの少女で、唯一安心して読書ができるのが人の少ない旧図書室でした。
前河響平は、旧図書室で自分のノートを読む卯城野こぐちに出くわし、そこから『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』の物語が始まります。
旧図書室の維持を巡ってのビブリオファイトという、ちょっと珍しい青春が描かれています。
本作の見所
本好きの少年と少女
本が好きなキャラクターって一つのキャラクター属性だと思いますが、このレビュー記事を読んでくれているような人には本好きキャラクターが好きな人が多いのではないでしょうか?
このレビュー記事を読んでくれているような人は、大なり小なりライトノベルが好き、あるいは興味があるという人だと思いますし、ライトノベルとはいえ本を読む習慣のある人は、本好きキャラクターに共感しやすいと思うからです。
『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』は、本好きキャラクターによるミステリー作品である『ビブリア古書堂の事件手帖』のスピンオフなのでなおさらそう思います。
ヒロインの卯城野こぐちは、ひとたび本を読み始めれば本当に深く深く作品の世界に没頭してしまい周りが見えなくなってしまうほどの集中力の持ち主で、好きな本のことを誰かに語りたくて仕方のない女の子です。
一方で人見知りでなかなか語れる相手がいないのですが、だからこそ語れる時にはものすごく饒舌になる。
そして、本好きには卯城野こぐちのような性格の人間が多い。偏見かもしれませんが、僕自身がそうなのでそう思うんですよね。
「え、ええ。一学期のうちに・・。国語の教科書は渡された日に全部読んで、気になる 作家はすぐにチェックするのは基本でしょう?」
このセリフからも徹底した本好き度の高さが現れています。
僕も国語の教科書は授業でやる以外の部分も早い内に読んでしまう方でしたが、さすがにその日に全部読むなんてことはありませんでした。
そして、卯城野こぐちほどではありませんが主人公の前河響平も相当本好きな部類の人間だと思います。
そうでなければ自作小説を朗読サイトで朗読したりなんかしないですよね?
卯城野こぐちが完全消費系の本好きオタクであるのに対して、前河響平は発信系の本好きオタクだというところの対比が面白いです。
本好きならどちらにも共感できるでしょうし、しかしそれぞれタイプが違うのでどちらかにより共感できるのではないかと思います。
ビブリオファイト
ビブリオファイトとは、知的書評合戦のビブリオバトルを元にして本作品のキャラクターである旭山扉が考案したより自由度の高い書評合戦のこととなります。
要は、ビブリオバトルには公式ルールがあるところを状況に応じて臨機応変にルールを改変しているのがビブリオファイトであると捉えて問題ないのではないかと思います。
- 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
- 順番に一人5分間で本を紹介する。
- それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
- 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。
※知的書評合戦ビブリオバトル公式サイトより抜粋
これが元になったビブリオバトルの公式ルール。
まだ歴史の浅い競技ですが、時たまフィクション作品でも取り上げられていることもあるので知っている人も多いのではないでしょうか?
好きな作品のことを語りたいオタク的には興味深い競技ですよね。
僕も、こんなフィクション作品のレビュー記事を書いているくらいなので当然興味はあります。
まあ、僕は『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』の前河響平のように人前で上手にプレゼンするのは苦手なのでやりたいとまでは思いませんけど。(笑)
どっちかといえば卯城野こぐちタイプです。
ともあれ、卯城野こぐち然り、篠川栞子然り、本好きのキャラクターは得てして好きな本を語るのが大好きなものだったりするのが定番ですが、『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』は本好きキャラクターのそういう部分をより強調した作品であるとも言えるのではないかと思います。
篠川栞子が登場
スピンオフ作品の良いところは、何と言っても本家とは全く別作品であっても、本家を知っている人には嬉しいファンサービスがあるところですよね。
『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』においては『ビブリア古書堂の事件手帖』のキャラクターが登場するところが何とも嬉しいところです。
『ビブリア古書堂の事件手帖』の探偵役である篠川栞子は、そこそこセリフもある役どころで登場しますが、知らない人にとっては一人の脇役として違和感はありませんし、知っている人にとっては読んでいてテンションが上がってくること間違いありません。
「この人は、ホームズという作品やシリーズではなく、この「 名探偵ホームズ(1)」について話しており、なおかつ思い入れも知識量も半端ない。何だこの人?」
前河響平のモノローグですが、篠川栞子というキャラクターを的確に表していますね。
『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』における篠川栞子は、ビブリオファイトをする前河響平と卯城野こぐちのアドバイザーというか、ブレインのような役割ですが、本家のキャラクターだからといって物語の中心になりすぎず、かといって遠すぎない絶妙な立ち位置にいたと思います。
個人の感想って大事ですよね
本書は1話1ビブリオバトルの全5話で構成されていますが、こういうレビュー記事を書いている身としては作品を勧めるポイントというか、ちょっと勉強になったなぁ~と思うところがありました。
ですが、やっぱり一番大事なのは個人の感想なのだと思います。
誰かに作品を勧める時、それがただの事実だったり、ましてや伝聞だったりすると、それに魅力を感じる人はいないので当然といえば当然ですよね。
どんな作品にも、万人が同じ感想を持つところもあれば、人によって感じ方が違う部分もあるのも当然のことです。
だからこそ、好きな作品について語ったりするのが面白いんですよね。
例えば、既に読んだことのあって面白いと思った作品のレビューを読んでみたことってないでしょうか?
僕は結構あります。
すると自分とは全く違う感想を持っている人がいたり、自分では気付いていなかった発見があったり、同じ感想を持っていたとしても着眼点が違ったり、その作品に対する感想は似ているようでいて千差万別です。
同じ人間でも長期間を経るて同じ作品を読んだら、感想が変わっていることも珍しくありません。
それだけ多種多様な感じ方があるはずなので、どんな形であれ書評というのは自分自身の個人の感想を述べた方が、絶対に面白いし楽しいと思うのです。
『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』の前河響平によるプレゼンはまさにそういう所が強かった。
書評なんていうと、特に古典名作の書評になってくると、なんとなく教科書的なものでなければいけないような気分にもなってきますが、それこそそんなものは教科書を読めばよい話です。
書評とは、教科書的なものを分かりやすく伝えることではなく、自分自身が感じたことを伝えるべきなのではないかと改めて思わされました。
ちなみに、今僕が書いているこの感想。
実のところ『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』の本編のことにはあまり触れていなくて、僕が感じたことの比重が大きくなっています。
自分で書評というか、レビューをしない人にとっては何を言っているんだという話かもしれませんが、僕が『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』を読んで素直に感じたことを書くとこうなったわけですね。
実は、いつも書いているレビュー記事とは少し雰囲気が違っているはずなのですが、今回はあえてこうしてみました。
総括
いかがでしたでしょうか?
スピンオフ作品とはいえ『ビブリア古書堂の事件手帖』とは違った魅力のある良作だったと思います。
個人的には、現在こうしてフィクション作品のレビュー記事を書くようになっているだけあって、「作品を紹介する」という手法についての勉強になるところもありました。
まあ、僕の場合はプレゼンは苦手で、こういうレビュー記事を書いている割には好きな作品について語るのは苦手だったりするのですけど、それでも作品を紹介するための切り口についての発見があったと思います。