『七つの魔剣が支配する(2)』剣花団の掘り下げが進む最新巻の感想(ネタバレ注意)
『七つの魔剣が支配する』の2巻。
割と読み応えのある作品の割には思ったよりも刊行ペースが速いですね。
最近はファンタジー作品といえば、なろう系の異世界転生・転移ものの作品が主流なので、『七つの魔剣が支配する』のような本格的なファンタジー作品がどこまで流行るかは未知数ですが、相当な作品であることは間違いないと思うので、何かキッカケがあれば一気に流行るのではないかと思っています。
既にコミカライズ版が出ることは決まっているようなので、ジワジワと話題になっていくかも知れませんね。
そういえば宇野朴人先生の前作『天鏡のアルデラミン』も、最初はジワジワと人気が増してきた作品だったような気がするので、同じような道を辿るのかもしれません。
ジャンルは随分と違いますが、1巻2巻を読んだ限りではストーリー的にも全てが順風満帆とはいかない『天鏡のアルデラミン』のような道を辿っていくような気もしています。
さて今巻では、6人のメインキャラの内ピート、シェラの2人にスポットが当てられています。
他のキャラクターも少しずつ個性が掘り下げられていて、まだまだ総ページ数が少ないにも関わらず数多くの登場人物を上手く描き分けている宇野朴人先生の力量が流石ですね。
?
本作の概要
ガルダを撃退したことで一目置かれる一年生となったナナオとオリバー。
しかし、たまたま現場に居合わせなかっただけで我こそはと思っている一年生も多い。
そういうわけで、誰が一番強いのかをハッキリさせるための、まあお祭りごとが始まります。
メダル争奪戦、1人1枚用意したメダルを奪い合い、最後にメダルを多く集めた4人で決勝戦。
シンプルですが、面白そうなお祭りですね。
そして、そんなお祭りの最中でも普段通りの日常は続きます。
意外なキャラクターが箒術で才能を示したり、特異体質の発現で個性が増したピート、そして前巻トラブルを起こしたミリガン先輩がカティに提供した工房(秘密基地)を6人で使用することになったり等、様々な出来事が起こります。
あとは1巻でカティを襲ったトロールが、カティとかなり仲良くなっていてボディガードのようになっているのが微笑ましかったですね。
本作の見所
箒術とナナオ
前巻で散々スポットが当たっていたナナオは、前巻ほどではないにしても今巻でも活躍しています。
キャラクター的に剣以外は苦手そうな雰囲気のナナオですが、何と箒術で類まれな才能を見せることになります。
この世界で魔法使いが乗る箒とは、実は掃除用具としての箒そのものではなく箒のような形をした生き物なのだとか。
しかも、どちらかといえばこの生き物の方が先で、この生き物の死骸を掃除用具として使用しだしたのが掃除用具としての箒の始まりなのだとか。
箒と魔法使いという組み合わせはありふれていますが、こういう設定は新しくて面白いですね。
そして、魔法生物である箒になぜか好かれるナナオ。本当の主以外、教師ですら乗りこなせない荒箒にナナオは語りかけます。
「拒む相手に無理強いする気はござらん。その上で、拙者が伝えたいことはたったひとつ。━━ここにいる小娘は、お主がいっとう気に入ってござる」
いやはや、なんつーか奔放で格好良いですよね。ナナオは。
このセリフひとつとっても、とても魅力的だと思います。
しかし、教師のダスティンの「あの人の魔力も、気持ちよく澄み切ってたっけなぁ・・」というセリフが気になる所ですね。
あの人。
前巻からもちょくちょくナナオと被る誰かの存在が仄めかされていますが、ここでもまた仄めかされています。
いったいナナオがどこの誰と被っているのか。そして、そもそもナナオ自身との関係はあるのか等も含めて気になるところですね。
両極往来者(リバーシ)のピート
『ハリー・ポッター』における普通人出身の魔法使いといえばハーマイオニーで、とびきりの優等生キャラですが、『七つの魔剣が支配する』における普通人出身の魔法使いであるピートは、生まれ相応の苦労人です。
1巻を読んだ時点ではプライドの高い少年という印象が強かったですが、勤勉な努力家で、負けず嫌いではあっても冷静に自分のことを見れているキャラクターという感じがします。
それに、一度信頼した仲間たちにはかなり気を許してきている様子ですね。
そんなピートに、両極往来者(リバーシ)という性別が転換する特異体質が発現します。
「心境は複雑だろう。気持ちに整理を付けるにはまだ時間がかかると思う。でも━━その上で、俺から言っておきたい言葉がある。おめでとう、ピート。君は素晴らしい可能性を手にした」
誰よりも困惑しているピートにオリバーが言います。
どうやら、両極往来者というのは魔法使いにとって才能と呼べる体質なのだとか。
男性体と女性体で特異な属性が異なったり、女性の魔法使いにおける子宮での魔力貯蔵能力が瞬間的な力を引き出すのに役立ったり、コントロールが難しいものの他者にはできないことが可能になるようですね。
今は他の同級生の中でも一歩劣るピートですが、そこは1巻からのメインキャラクター。今後大きく成長していくことが予想されますね。
秘密基地と剣花団
1巻の初登場時には少し精神的に脆そうなところのある少女という印象を受けたカティでしたが、意外にもたくましいキャラクターになってきましたね。
1巻で信頼した上で裏切られたミリガン先輩とちゃっかり交流していて、1巻の事件のお詫びも兼ねて迷宮の第1層にある工房を譲り受けてきました。
「ねぇ、みんな。━━わたしたちだけの秘密基地、欲しくない?」
そして、そこを6人の仲間たちで共有して管理する工房にしようと誘いをかけます。
最初は一年生にして工房を持つことのリスク等も警戒して、いきなり同意はしませんでしたが、ナナオが率直に同意した段階で皆あとに続く運びになりました。
そして、件の迷宮の工房にたどり着いた後、シェラがある提案をします。
この6人の集まりに名前を付けよう。らしくなく少し照れながら、シェラがこの6人の集まりを特別なものとするべく、名前を付けたいと提案しました。
いやはや、このシーンの6人のやり取りはメッチャ良いのでどのセリフも紹介したいのですが、引用しまくりになってしまうのであえて紹介しません。
1~2巻を通して一番の名シーンなので、未読の人は是非ここに注目して読んで欲しいですが、ともあれナナオの提案で6人の集まりは剣花団と名付けられました。
いよいよ『天鏡のアルデラミン』の騎士団じみてきましたね。
このシーンを始まりに、この6人の関係の全てが順風満帆にはいかない展開は必至だと思いますが、その辺りがどうなっていくのかは本当に楽しみですね!
コーンウォリスとシェラ
今巻、ピートの他にシェラにもスポットが当たっています。
名家マクファーレン家の長女として1巻から紹介されていますが、どうやら思っていた以上の名家っぽいですね。
マクファーレン家の分家であるコーンウォリスは、実はシェラとは腹違いの妹なのですが、シェラに何かがあった時の予備として育てられてきた過去を持つそうです。
シェラの立場からは、前面に出しては言えないもののコーンウォリスは愛すべき妹と考えているようですが、コーンウォリスはシェラに対して憎悪のようなものを抱いていました。
まあ、生まれた時からなかなか壮絶な立場なので、いたしかたないような面もありますね。
ぶっちゃけ、キンバリーの教師であるシェラの父親も軽いノリのキャラクターっぽくてあんまり名家の当主って感じじゃないのですが、シェラの父親なので立場を重んじつつも意外と柔軟な人間なのではないかと思っています。
ともあれ、今巻ではシェラと対立構造にあったコーンウォリスですが、今後この2人の関係がどうなっていくかは楽しみの一つだと思います。
生まれた家が原因ですれ違いがありましたが、今巻ラストの様子を見ると和解していけそうな感じです。
正直、最初はコーンウォリスってちょっと気に入らない感じの当て馬キャラだと思っていたのですが、2巻を読み終わった後には結構好きなキャラクターになっていました。
牙を剥く魔宮キンバリー
1巻もそうでしたが、宇野朴人先生は1冊の最後の引きが上手いですね。
コーンウォリスたちとの戦闘、戦闘後ルールを無視して攻撃してきたオルブライトにも勝利し、これで今巻はクライマックスなのかとホッとしたところで・・
オルブライト、コーンウォリスと一緒にいたフェイ、そしてピートが迷宮の魔物に捉えられてしまいました。
オリバーたちは無理だと冷静に判断して逃げることしかできず、この3人の安否は不明なままです。
現時点では実力的に劣るピートがどうなってしまうのか、とっても気になるところですね。
総括
いかがでしたでしょうか?
割ととんでもない状況で終わった2巻。
オリバーたちに牙を剥く魔宮キンバリー。
オルブライト、フェイ、そして剣花団のピート。果たして彼らの運命や如何に?
そして、剣花団のメンバーの中では未だあまり焦点が当てられていないガイについて掘り下げられることはあるのか?
次巻の発売が待ち遠しいですね!