『汝、隣人を×せよ。(1)』の考察。もしも一生に一人だけ殺人が許可されるとしたら
もし、一生に一人だけ殺人が許可される権利が与えられる法律があったら?
いわゆる現代社会におけるイフストーリーの漫画ですね。
いや、最初は設定にインパクトがあるだけの漫画かと思いました。
しかし、実際には非常に考えさせられる部分のある良書でした。
本記事では、『汝、隣人を×せよ。』の作中に登場する法律「一生一殺法」について、本作の感想を交えながら考察していきたいと思います。
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一生一殺法とは?
いわゆる犯罪の抑止力を目的とした法律ですね。
- 申請者が殺益申請した後、殺益執行委員会により対象者の調査が行われ、対象者が申請者の今後の安らかな人生において重大な障害になると判断された場合に申請が受理される。
- 申請者は対象者を自分で殺すことも殺益執行委員会に代行してもらうことも可能だが、自分で殺す場合は手段は問わないものの「殺益執行委員会の監視の下24時間以内に生命を絶つ」ことが条件として課せられる。
- 殺益申請者や対象者の個人情報を晒すことは罪となり、殺益の執行件数のみが公表される。
- 申請者は原則14歳以上からである。(作中で12歳に引き下げられる)
・・とまあ、作中の説明を纏めると以上のような感じでしょうか?
ポイントは誰でも殺せるというのではなく、対象者が申請者の今後の人生において害・脅威となる人物なのか否かが調査された上で執行されるという点ですね。
つまり、誰かにとって害のある人物になるということは、いつでも殺益の対象になってしまう可能性を秘めているので、犯罪・・でなくとも弱者を虐げるような行動そのものの抑止になるという考え方です。
例えば、作中で自分たちは小学生だから殺益の申請にはならないと好き放題していた生徒たちが、対象年齢が12歳に引き下げられたとたんに大人しくなるのは印象的でしたね。
もしも自分が殺益申請するとしたら?
考えただけで怖いですね。
幸いにも、僕の周りにはこんな申請をしたいと思うほど自分の害になっているような人間はいませんが、いると仮定して考えてみました。
何が怖いって、自分が人の死ぬ原因になるというだけでも怖いですが、殺益執行の対象者の関係者の恨みを買うことが一番怖い。今度は自分が執行される側になるんじゃないかって・・
一応、殺益申請者の個人情報は保護されるようですが、人の口に戸は立てられぬと言いますし、こういうのは漏れるものです。作中でも個人情報が特定されるシーンがありますしね。
今のところ、殺益執行の対象者の関係者が次の殺益申請者になるようなパターンの話はありませんが、それも今後出てくるかもしれませんね。
それに、そもそもこの権利って行使しないからこそ効果のあるものだと思います。
行使するということは自分だけが抑止力を失うことになるので、そういう意味での怖さもあります。
今のところ、既に殺益の権利を行使済の人の今後については描かれていません。
例えば、最後のエピソードに出てきた殺益申請者の石崎は、その辺のことを理解していたのかもしれませんね。
いじめの被害者である石崎が加害者を許さないことを悪いことであるかのように言う川南に対して殺益申請した後、しっかり社会的に死ぬという罰を与えた後に申請を取り下げています。
だって、ここで取り下げていなかったら、石崎に殺益申請されるのではないかと怯えていたいじめの加害者たちに何をされるかわからないですもんね。
しかし、その後の対応を間違えると石崎の方が本当に殺益申請される対象にもなりかねない気もしますし、この辺は本当に難しいです。
もしも自分が殺益申請されるとしたら?
自分は大丈夫と思っている人が大半ではないでしょうか?
僕もそうだと思いたいですが、自身の言動がどこまで他人に影響しているのかは正直よくわかりません。
法律の性質上、殺益申請が受理されるのは対象者が犯罪者の場合だけとは限りませんし、申請者の今後の安らかな人生において重大な障害になるか否かがポイントなので、知らずに害になっていることはひょっとするとあるのかもしれません。
それこそ、知らない人間から殺益申請されるような可能性もあると考えると、何をするのにも慎重になってしまいそうです。
まあ、こう考えてしまう所が弱者を虐げることの抑止力になっているということなのでしょうけど。
例えば、現時点でそのようなエピソードはありませんが、有名人がその言動によりファンから殺益申請されてしまうとか、そういうことも考えられるのかもしれませんね。
どういう時に殺益申請して受理されるのか?
人はどういう時に殺益申請するのか?
そしてどういう時に受理されるのか?
この2つがよくわからない状況で、このような法律がある世界というのは本当に怖いと思います。
人がどういう時に殺益申請するのかは、正直自分が殺益申請するほど追い詰められた状況にならないと理解できないような気がしますし、どういう時に受理されるのかは実際のところ非常に難しい問題ですし、まさか殺益執行委員会のさじ加減というわけにはいきませんしね。
もし現実にこんな法律があったら、徐々に試行錯誤しながら判例が作られていくのでしょうが、過分に申請者の心理状態によるところがありそうな問題なので、どんなケースでも簡単には答えが出ないような気がします。
ちなみに、本作は一見すると勧善懲悪の物語のように感じられますが、実際はそうではありません。
殺益申請する人は対象者に恨みを持っていることが多いので、一見すると悪が裁かれる物語に見えるのですが・・
例えば、殺益申請は対象者が犯罪者であっても受理されないことがあります。動物虐待で飼い猫を殺された少女の犯人に対する殺益申請は最初不受理になりましたしね。
あくまでも申請者の今後の安らかな人生において重大な障害になるか否かがポイントなので、相手が犯罪者であるか否かは無関係なのでしょう。
だからこそ「どういう時に受理されるのか?」が難しい問題なのだと思います。
重大な障害になるというだけなら、例えば介護対象の老人とかも殺益申請が受理される対象になってしまうのかもしれませんし、特段今後の人生の障害にならないなら親の仇でも受理されなかったりするのかもしれませんね。
いやはや、色んなケースを考えてしまいます。
総括
いかがでしたでしょうか?
読後すぐに面白いと思ったので記事に感想を書こうと思ったのですが、物議を醸しそうなテーマの漫画ということもあるのでしばらく躊躇っていました。
本記事に書いている僕の意見は比較的当たり障りのないものだとは思いますが、それでも人の生死に関わることを意見するのは難しいです。
しかし、やっぱり面白い漫画だと思うので、僕の記事で興味を持ってくれる人がいたら嬉しいので書くことにしました。
テーマは難解ですが、ストーリー的にはシンプルで読みやすく面白いので是非一度読んでみて下さい!