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ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】12巻

 

貴重な佐為の敗北シーンのある12巻です!(前巻の書評はこちら

2巻のレビューにも書きましたが、佐為の敗北シーンは都合3度あります。

1度目は相手のズルで動揺した佐為が入水自殺するキッカケになった対局。

2度目はヒカルの打ち間違えで加賀に負けた対局。

そして最後が、今巻のヒカルの新初段シリーズの場を借りて自らにハンデを課して打った塔矢行洋との対局。

考えてみれば全て何かしらの訳あり対局ですね。

そして、意外と我儘な(というか我儘にならずを得ないのかもしれませんが)佐為がシリーズを通しても最大限に我儘を発揮したのが今巻の対局だったのですが、そこまでしてもちゃんとした対局は望めませんでした。

佐為のために大事な対局の場を譲ったヒカルも可哀想ですが、佐為はそれ以上に可哀想ですね。

今回は、このハンデを付けた対局がどのようなものなのかについても考えながらレビューしていきたいと思います。

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本作の概要

ついにプロになったヒカル。アキラから1年遅れてヒカルが歩き始める道の第一歩である新初段シリーズですが、何と塔矢行洋からの指名によりヒカルVS塔矢行洋が実現します。

しかし、佐為の強い要望により久しぶりに佐為が対局することになるのですが、実力を付けたとはいえヒカルと佐為の実力差は大きい。佐為がまともに打てば、ヒカルがまた実力以上に注目されることになってしまうことは間違いありません。

そこで15目のハンデがあるつもりで佐為に打たせることにするのですが・・

誰も幸せになれないような結末がそこにはありました。

芽生え始める未来のない佐為から未来のあるヒカルへの嫉妬心。

徐々に哀しい結末へと向かい始める序章となる物語に注目ですね!

本作の見所

新初段シリーズの相手は?

ヒカルのことを気にしているのは塔矢アキラだけではありません。

いや、むしろ囲碁部の三将戦の一局だけで幻滅したアキラと違って、塔矢行洋名人や緒方九段といった大人の棋士たちの方がずっと気にしていたのかもしれませんね。

そして、その塔矢行洋は新初段シリーズに出場する代わりにあることを要求します。

「そのかわり相手を指名させていただきたい」

自分の前にヒカルが現れるのをただ待っていた塔矢行洋が、ついにヒカルと対局することになります。

囲碁を始めて僅か2年足らずでプロになったヒカルですが、塔矢行洋は「やっと出てきたか」と、まるでそれが遅いかのような口ぶりです。

ヒカルの何を評価しているのかは不明ですが、相当期待しているようですね。

ハンデのある対局

ヒカルにとっても大事な門出となる新初段シリーズですが、どうしても塔矢行洋と打ちたい佐為の我儘により、佐為VS塔矢行洋が実現します。

ヒカルは可哀想ですが、塔矢行洋はヒカルに佐為を感じている可能性もあるので、知らないこととはいえ塔矢行洋にとっても望むところだったのかもしれませんね。

ともあれ、普通に打ったらただでさえ新初段側に逆コミのハンデがある状況、佐為の勝ちは揺るぎなさそうです。それは困るヒカルは佐為に対局する上で一つのハンデを課します。

逆に15目ハンデがあるつもりで打つこと。

結果、佐為は非常に急戦的な打ち方を強いられることになり、さすがにそのような打ち方では塔矢行洋に及びませんでした。

ちなみに、15目のハンデってどれくらいだと思いますか?

囲碁を知らない人にはピンと来ないかもしれませんが、実のところ低段者レベルの僕にもピンと来ません。(笑)

というのも、結果的に15目差の結果になることと、最初から15目差を付けるつもりで打つことでは意味合いも難易度も全く異なると思うからです。

そもそも、互角の力関係でも15目どころではない大差が生まれることは珍しくありません。

大差がつく時には大体負けた側の石がツブれる結果になっていると思いますが、それは最初からツブすつもりで打っているのではなく、「油断してたらツブすよ」とプレッシャーを掛けながら得を図るように打っていたら、結果的にツブれることになったということが多いと思います。

つまり、もともと15目以上の大差を付けるつもりは無いのですね。というか、互角の相手にそんな打ち方をしていたら、いつまでたっても成績は安定しないことと思われます。(僕のことかもしれませんけど)

そして、最初から15目差をつけて勝とうとするということは、そういう普通の打ち方ができなくなるということを意味します。

最初から目指す所が違うので、打ち方、考え方自体が変わってしまうのですね。

そういうわけで、さすがの佐為も泥臭い打ち方で大敗することになってしまいました。

ヒカルの評価

さて、そんなヒカル(佐為)の対局を見て多くの人はヒカルに幻滅しますが、一部の強者はヒカルの評価を下げませんでした。

前述したように、最初からハンデを抱えると考え方自体を変える必要があります。

その考え方の違いに気付く人は気付いたということなのでしょうね。

しかし、よくよく考えるとまた佐為に対する評価がヒカルに付いてしまったとも言えるので、ヒカルの思いは複雑なものと推察されます。

碁盤の価値

気晴らしに訪れた囲碁イベント。

佐為もヒカルに無理を言ったことを反省しつつも楽しそうです。

「もう打ちたいなどとは、時々しか言うまい」

しかし、断言しきれない所が可愛らしいですね。

そしてそんな気晴らしに訪れた囲碁イベントで、少々気分の悪い出来事に遭遇します。

碁盤の素材を偽ったり、偽物の本因坊秀策の署名をした碁盤を売ろうとしたりする悪徳業者。どちらも佐為が偽物であることに気付きました。

本榧碁盤20万円。本榧足つき碁盤としては安い方ですが、地味にリアリティのある値段なのが憎いですね。それに、そもそも碁盤の相場なんて知っている人の方が少ないですし、騙される人も多そうな商売です。

しかも、そんな商売にプロ棋士も関わっていると知ってヒカルも佐為も激オコです。

佐為VS御器曽

そして、その悪徳業者とつるむプロ棋士。御器曽プロは客相手の指導碁でも下手をもてあそぶ打ち回しをしていて、ついにキレたヒカル(佐為)が打ちのめされた客と変わり、指導後の続きを打ちます。

いつもは佐為に打たせたら目立つので嫌がるヒカルも珍しく乗り気です。

そして、あっという間に御器曽プロに逆転勝ちしてしまいました。

いや~。現実のプロ棋士にはそんな悪い人はいないと思っていますが、珍しく囲碁界のブラックな部分が描かれたエピソードでした。

だけどこの御器曽プロ、今後プロの公式対局でヒカルとも対局することになるのですが、その時のセリフが印象的で意外と人気があるようですね。

本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!

今回はヒカルの新初段シリーズ。塔矢行洋がヒカルを指名して行われるヒカルにとっても大事な対局ですが、ここ一番の佐為の我儘で佐為が打つことになった一局です。

元ネタは前巻のヒカルVS和谷と同じく、趙治勲九段(黒)と大竹英雄九段(白)の対局となります。

元ネタの趙治勲先生は大事なタイトル戦、まさか15目ハンデがあるつもりで打ったりはしていないと思いますが、黒の果敢さが目立つ対局だと思います。

ただ、個人的には今までで一番検討しづらい棋譜でした。

(図1)

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ヒカル(佐為)が序盤から仕掛けてきたという手。描写が無いのでわかりませんが恐らく白のカタツキにボウシした手のことでしょうね。

黒が下辺を大きくまとめようとするのを阻止した白の手に受けずに、攻めの対象にしてしまおうという強気な一手です。

黒石の多い場所で攻められる白もツライところではありますが、黒も繋がりは薄いので全部まとめるのは難しそうな局面ですね。

しかし、作中ではかなり急戦気味の印象で描かれていますが、この局面黒は強気に行きたいところな気がします。

白を小さくもがかせながら生きさせ、その隙に黒も得を図って形勢はどうかという感じなのではないでしょうか?

とはいえ、それは互先での話。15目勝とうとするのであれば、どこかしら白をツブすくらいの気持ちで打たなければ不可能だと思います。

15目くらいの差は中押し勝負ならありふれたこととはいえ、意識してやるのはマジで難しいと思います。

(図2)

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特にスポットの当たっている局面ではありませんが、赤丸の黒のコスミが気になったので取り上げてみました。

ちょっと普通の発想では出てこないような手なのではないでしょうか?

実際、LeelaZero先生の候補手にもありません。

普通なら一路下のキリか、LeelaZero先生の候補手(図2の水色の部分)にもあるツナギを選ぶ気がします。

まさか、下辺白を丸ごと取り込んでしまおうという手なのでしょうか?

だとしたら黒が果敢すぎますね。

作中で佐為が言っているような「複雑な戦いに誘い込む手」なのかもしれませんね。

(図3)

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作中で描かれている「攻めたくなるような隙」とは中央の黒石のことでしょうね。

確かに一歩間違えば死にかねない黒石で、本当に殺すことができれば白の圧勝かもしれませんが、無理に殺さなくても白が優勢の局面。

むしろ殺しにいって失敗した時のリスクの方が大きいような気がするので、僕でも無理に攻めにいったりはしません。

まあ、塔矢行洋のように「ずっと先まで読むとキワドイ気がする」からではなく、そもそも読めないからリスクを避けているだけなのですけど。(笑)

だから明らかに劣勢でも無ければ中央の黒を攻めようとは思いません。

ちなみに、作中で塔矢行洋はヒカルから新初段の子供とは思えないほどの威圧感を感じていますが、そりゃあそうですよね。

だってこの黒番の元ネタ、趙治勲先生だもの。

威圧感ありそうな棋士の代表ですよね。

(図4)

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そして終局図。

結局中央から左辺にかけての黒が取られての惜敗でした。

明らかに白が優勢の状況で打ち進められ、最後は僕でも死にが読める局面になってからも何手か打たれていています。

そういう意味で、なかなか泥臭い印象の対局だと思います。

囲碁を打たない人は、強い人ほど負ける時はあっさりと綺麗に負けるようなイメージを持っているかもしれませんが、それは真逆で強い人にあきらめが良い人は少ないような気がします。

この対局は、むしろプロの世界においてここまで惨敗の局面になりながら心が折られずに油断ならない対局を続けることができる趙治勲先生が流石だと言うべきですね。

しかし、間にいたヒカルは辛かったでしょうね。

自分が打っているわけでも無いのに惨敗の局面を打ち進めなければいけないのですから。

総括

いかがでしたでしょうか?

プロになったけど、なかなかヒカルのプロとしての仕事や対局生活は始まりません。

ヒカルがプロになったことで、ある意味その役割のかなりの部分を既に果たしている佐為のエピソードがしばらくは中心になります。

今後、『ヒカルの碁』における佐為を含む囲碁の世界が大きく変わっていきます。

特に次巻は、『ヒカルの碁』においても最大の見せ場の一つである頂上決戦があるので目が離せませんよ!(次巻の書評はこちら