劇場版 『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』青春が蘇る映画の感想(ネタバレ注意)
楽しみにしていた『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』をさっそく観てきました!
原作の中でも一番大好きな『波乱の第二楽章』が原作となる映画だったので、特報映像が公開されたくらいのタイミングからマジで楽しみでしょうがなかったのですが、その期待を裏切らない名作映画に仕上がっていました。
なかなかボリューミーな原作を、面白さを保ったまま1本(正確には『リズと青い鳥』と二分にされていますが)に纏めることが本当に可能なのかという不安もあったりしたのですが、その辺は全くの杞憂だったようです。
さすがに原作から削られたシーンはかなり多いものの、恐らく原作を知らない人が観たとしても「展開が早すぎる」とか「情報が断片的で意味が分からない」とか、そういう状況には陥らないように配慮された素晴らしい構成だったと思います。
また、原作の『波乱の第二楽章』でも新1年生をめぐるエピソードと、希美とみぞれをめぐるエピソードが入り混じったような構成になっていましたが、それを『~誓いのフィナーレ~』と『リズと青い鳥』という2作品に分けたのも秀逸でしたね。
『リズと青い鳥』で描かれた部分はあえて徹底的に排除していた印象がありますが、それでもちゃんと成立するってところには驚かされましたね。
原作ファンの立場からすると、『波乱の第二楽章』において『リズと青い鳥』で描かれていた部分はかなり重要なエピソードのひとつなのですが、それを丸ごと描かなかったとしても全く問題が無いとは・・
これは『響け!ユーフォニアム』という作品の性質上、一応は黄前久美子が主人公ということになっているものの、ほとんど全ての登場人物が主人公たり得る『普通』の個性を持っているからこそなのだと思います。
だから『~誓いのフィナーレ~』と『リズと青い鳥』の違いは、実は誰を描いているのかという違いでしかないのかもしれませんね。
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本作の概要
3年生が卒業した北宇治高校吹奏楽部は、吉川優子を部長とした新体制を迎えます。
主人公である黄前久美子は2年生になり、新1年生の面倒を見る立場になりますが、癖の強い新1年生たちに振り回され気味になり、少々お疲れな様子を見せています。
しかし、一方では『黄前相談所』扱いされるほど頼りになる人だと認識されるようになっていきます。
今年度も全国大会金賞を目標にすることになったため、先輩後輩関係なく実力主義でやっていくことになりましたが、またまたオーディションを巡る問題が発生します。
本作の見所
一気に作品に引き込んでくるプロローグ
世の中には序盤は微妙だけど最後まで観たら面白いって種類の作品もたくさんありますが、『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』は序盤から一気に惹き付けられるところのある作品だったと思います。
赤面する黄前久美子のバックでオープニングの『これが私の生きる道』が流れ始めますが、素晴らしい導入部だったと思います。
新入生たちと黄前相談所
繰り返しますが『響け!ユーフォニアム』の主人公は黄前久美子です。
ですが黄前久美子はどちらかといえば観測者タイプの主人公だって思うんですよね。
本作品を観る人は、黄前久美子の目を通して他の登場人物に触れるというか、そういう役割だと思うんです。
黄前久美子が1年生だった頃からそういう傾向はありましたが、2年生で1年生の指導係という立場になり、ほとんどの登場人物から遠すぎない立ち位置になったことからその傾向が強くなったような気がしますね。
『黄前相談所』なんてその最たるものだと思います。
本人からしてみると、癖の強くナイーブな1年生たちの扱いにかなり苦労しているようですが。(笑)
特に新1年生の中でも一番存在感のある久石奏は、世渡り上手な感じの表情を見せてはいますが、よくも悪くも裏表のありそうなキャラクター性をしています。
そして、最初は実力がある者が先輩後輩関係なくコンクールメンバーに選ばれるという北宇治高校吹奏楽部の在り方に合っているキャラクターに見えていて、それが原因でトラブルになりそうな雰囲気がありました。
しかし、蓋を開けてみれば全くの逆で、オーディションでは手を抜いて先輩にメンバーの座を譲ろうとしてしまっていました。
裏表があるというよりも何を考えているのかが読みづらい、世話係の黄前久美子からしたらうまくやっているように見えてかなり大変だったのではないかと思われます。
3年生たちの成長
『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』には正直絶賛しかないのですが、実は一つだけ不満があるんですよね。
それは、イマイチ3年生たちの出番が少なかったこと。
主人公のいる学年でも、フレッシュな新キャラのいる学年でもなく、『リズと青い鳥』では3年生である希美とみぞれが主人公であったこともあり、よくよく考えると致し方ないのかもしれませんが、個人的には原作の『波乱の第二楽章』を読んで好感度が爆上げとなった吉川優子をもっと活躍させてほしかったと思います。
部長ということで出番は比較的多かったのですが、そういうことじゃなくってもっと内面を描いてほしかったなぁ~という意味で。
TVアニメ版1期に登場した頃は、中世古香織の信者という感じでソロパートは香織が吹くべきだと言い続ける煩くてうざったい感じのキャラクターという印象でしたが、それが3年生で部長になった後の『波乱の第二楽章』では、めっちゃ良い感じの頼れる先輩になってて、個人的には『響け!ユーフォニアム』の中でもトップクラスに好きなキャラクターのひとりだったり。
というか、3年生に好きなキャラクターが集中しているんですよね。
優子は香織がいると冷静じゃなくなるだけで、実のところ素の姿は3年生になってからの表情なのではないかと思っています。
しかし、原作でも描かれた関西大会で香織と再会するシーンでは、香織が現れたとたんいつもの頼れる部長とは違う表情を見せて、そんな優子の一面を知らない1年生の後輩たちが驚くところも描かれていました。(笑)
そして、関西大会では金賞を取ったものの全国大会には進めないいわゆるダメ金という結果でした。
みんなを率いてきた部長である優子のショックはかなり大きかったようで泣き崩れるシーンも描かれていますが、その後みんなの前に顔を出す時には頼れる部長の顔になっている。
何というか、『波乱の第二楽章』で一番成長を感じられるキャラクターって優子って思ってたから、だからこそ優子をもっと描いて欲しかった。
だけど嬉しいことに来場者特典には夏紀と優子のツーショットが描かれていました。
圧巻の演奏シーン
今さら言うまでもなく『響け!ユーフォニアム』は音楽系アニメです。
それも劇場版とあれば演奏シーンに目を向けない訳にはいきません。
演奏されたのは前作の表題である『リズと青い鳥』にもなっている文字通り『リズと青い鳥』ですが、特にモノローグにセリフがあるわけでもない純粋な演奏シーンになっています。
正直に言いますが、僕は音楽は好きでも吹奏楽はそこそこといったところ。
普通なら、この相当長い演奏シーンには飽きてしまいそうな気もします。
しかし、そこは演出がうまいからでしょうか?
かなり気合を入れて作られているであろうことが素人目にも明らかな演奏シーンは圧巻ですし、楽器演奏の描写もかなり細かい。
なにより曲も良いし演奏そのものが単純に良い感じです。
かなり長かったはずですが、それを感じさせないあっという間の演奏シーンでした。
エンディング曲もぬかりなし
『響け!ユーフォニアム』といえば、TRUEさんの歌う主題歌が定番になっていますが、今回も疾走感のある格好良い曲になっています。
僕は映画観終わった後、速攻でiTunesでダウンロードしました。
原作の紹介
『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』が素晴らしい映画であったことはもちろんですが、その一方で描かれなかった場面があるのも事実です。
原作もかなり素晴らしいので、映画を観て興味を持った人は読んでみてはいかがでしょうか?
ちなみに、前編・後編ともに黄前久美子がメトロノームを持って真ん中に座っている表紙になっていて、『波乱の第二楽章』という作品における悩ましい黄前久美子の立ち位置を表しているようで印象的ですね。
前編では奏と夏紀、後編では希美とみぞれに挟まれて、揺れ動いている感じです。
読む前は「何でユーフォニアムじゃなくてメトロノーム?」って思いますが、『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』を観た人なら何となく察せるのではないでしょうか。
総括
いかがでしたでしょうか?
正直なところ『響け!ユーフォニアム』という作品には驚きを感じさせるような要素はほとんど無いんです。
良くも悪くも普通の高校生の普通の青春が描かれている。
エンタメ作品として、この驚きを感じさせる要素の薄さは一見すると致命的にも思えるのですが、それを差し置いてグッと惹き込まれていくのが『響け!ユーフォニアム』の魅力なのではないかと思います。
そして、それは何故なんだろうと考えてみました。
良くも悪くも普通の高校生と言いましたが、実はそれがポイントなのではないかと思います。
主人公や一部のメインキャラクターだけではない。この作品では全ての登場人物がそれぞれ現実にいそうな『普通』の個性を持って生きているんですよね。
だからこそ、抵抗なく作品の世界に共感を持って入り込んでいきやすい。
そういう種類の作品だからか、あまり『響け!ユーフォニアム』という作品のことを知らない知人が「音楽に頼っただけの作品」扱いしているのを聞いたことがあります。
しかし、そんなことは全くなく、その証拠に音楽に頼れないはずの原作でも非常に感動的な物語が紡がれています。
だからそういう理由で『響け!ユーフォニアム』を食わず嫌いしている人がいたら是非とも観てみてほしいものですね。
それにしても、これでスピンオフや短編を除いて原作で描かれている物語はすべて映像化されてしまったことになります。
もしかしたらこれで最後と思うと寂しい限りですね。
個人的には、3年生で部長になった黄前久美子が率いる吹奏楽部の物語も何かしらの形で触れてみたいのですが、期待しても良いのでしょうか?
(2019/4/29追記)
どうやら黄前久美子が3年生になった後の物語があ描かれる『響け!ユーフォニアム』の新刊も発売しているようです。