『8畳カーニバル(2)』空気な少年が居場所を勝ち取る物語の感想(ネタバレ注意)
本書を所持されている人は気付いたかもしれませんが、本書の裏表紙に記されたキャッチコピーをモジった言葉を本記事のタイトルにしています。
これは、"空気"な少年が居場所と色を勝ち取る物語
なるほど、まさに『8畳カーニバル』という作品全体を一言で的確に表している表現なのではないかと思います。
とても広いインターネットの世界には宇宙と同じくらい無限の居場所が作られていくもので、その新しい居場所には無限の可能性が収められているものです。
例えば、僕がこうして記しているブログもそういう居場所のひとつなのだと言えるのではないでしょうか?
そして、『8畳カーニバル』の主人公である花澤緑多にとってのこれから開拓していく居場所はニコニコ動画であり、踊ってみたというコンテンツにあります。
1巻では、その居場所の入り口に人気踊り手・すまいる☆によって誘われたわけなのですが、どうやらその入り口はとても大きく広がっていたらしく、2巻では空気圧ヒナタというハンドルネームが一気に有名になっていくわけなのですが、同時に大きな波乱もあって入り口の先は落とし穴だらけだったようです。
いずれにしても、インターネット上の動画コンテンツの成功が努力だけでは測れない所にあるのは想像に難くありませんが、そんな世界で成り上がっていく珍しい物語がとても興味深いと思います。
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本作の概要
6時間踊り続ける生放送を経て、本人すら知らない内に有名になっていた空気圧ヒナタに、すまいる☆を通じでまさかのステージ出演依頼が舞い込みます。
踊ってみたのイベントとはどのようなものなのか?
そんな興味から花澤緑多と瑞野しおはまずは別のイベントに足を運んでみて、続いて出演こそしないつもりだが出演依頼のあったイベントにも参加してみます。
しかし、軽い気持ちで参加したイベント会場ではすまいる☆の引退騒動による炎上の続きが待っています。
本作の見所
踊ってみたのイベント
2000年代の半ば、今から10数年前であれば考えられませんでしたが、タレントでもない一般人が主役のイベントが割と一般的なものになっているという世の中は想像できませんでしたね。(笑)
「動画投稿どころじゃなくて・・。いきなりキミにステージ出演依頼が来てるんだけど・・」
6時間踊り続ける生放送で話題になっている空気圧ヒナタですが、そもそもまだ1本の動画も投稿していません。
というわけで、すまいる☆と協力してこれから踊り手になろうとする空気圧ヒナタだったのですが、一足飛びのステージ出演依頼が舞い込みます。
まあ流石に、喜び勇んで「じゃあ出演するぞ!」とはいかず、まずはどんなものかと偵察がてらに別のイベントに行ってみて、その後出演依頼のあったイベントにも足を運んでみる流れになります。
生放送の興奮が冷めやらない花澤緑多は、あまりらしくないタイプのイベントだと思われるのにかなり興味を持っている様子ですが、しかし想像以上のレベルの高さに再び自分が空気に戻ったような感覚に苛まれます。
「そりゃ決まってるさ! 「空気圧ヒナタ」の生放送を視たからだよ!」
しかし、空気圧ヒナタの生放送はそんな人気踊り手にも影響を与えていたようですね。
すまいる☆にも励まされ、なんとかせっかく火が付きかけた情熱が消えることはありませんでした。
それにしても、こういう動画投稿者のイベントも随分と普通になってきましたよね。
中にはそのままタレントのようになったり、事務所に所属するようになったり、黎明期にはあったアングラ感は随分と薄くなってきたような気がします。
踊ってみたの天辺
どのような世界であっても、そのレベルはピンからキリまであるものです。
それは一般的な職業や子供の遊びであっても例外ではありません。
とはいえ、こういうアングラな世界で人気になるようなジャンルにおけるレベルの振れ幅の大きさには相当なものがあるような気がします。
天辺が凄いというより、底辺の多さがそう感じさせるわけですね。
しかし、一方的な発信よりも双方向的な動画配信サービスの方が好まれるようになってきた時代も相まって、その天辺は下手なタレント以上の存在になってきていますよね。
流行の多様化はとどまることを知りません。
そして、花澤緑多は自身に出演依頼のあったイベントの公式サイトで、その出演者のことを知ります。
花澤緑多にとっては自身の世界に色を付けるキッカケになったすまいる☆ですらトップの動画10万再生程度。しかし、その上には動画の内容もプロと見紛うクオリティで、再生数の面でも遥かに上を行く天辺があることを知ります。
こういうのに憧れる小学生が増えてくるのも分かりますね。(笑)
炎上の続き
「そうだ・・っ。きっとこの場所は僕たちが思ってる何倍も・・。瑞野さんにとって危険な所なんだ・・!!」
出演こそするつもりはないものの様子を見に来たイベントで、すまいる☆を糾弾する声を聴いた花澤緑多はひとり瑞野しおを護らなければと決意します。
あまりにも身近になってきているからだと思いますが、最近はいわゆるネットリテラシーは向上してきていて、いわゆる炎上騒ぎの怖さは黎明期ほどではなくなってきていると思いますが、それでもちょっとしたキッカケで炎上事件が起きることはあって、それは傍目にも怖いと感じられるものです。
当事者にとってその恐怖は計り知れないものなのだと思います。
すまいる☆もそうであるように、身バレを恐れてマスク姿で登場する動画配信者は少なくありませんが、特別な事情のあるすまいる☆はともかくとして、何で身バレを恐れるのかって「視聴者の全てが善良なわけではないから」という一言に尽きるのかもしれませんね。
「な、な、な~んと今この会場内にっ!!! あのッッ!!! 誰も生で見たことがないまま姿を消した幻の踊り手。「すまいる☆」ちゃんが来てくれていますっっ!!!!」
そんな炎上騒ぎの続きを身近に感じている状況で、すまいる☆が来場していることを確認した主催者側がまさかの勝手なアナウンスというハプニング。
そんなハプニングをキッカケに再び表に出てくるのが空気圧ヒナタという展開が面白いですね。
とはいえ、生配信時の衣装ではないですし、頭にモップを乗せただけの怪しさ満点の格好をしていた上に、すまいる☆との踊りの練習でも生配信時のキレが無いと思われていた空気圧ヒナタ。
偽物扱いされる展開は予想の範疇ないですよね。
しかし、そんなステージ上に何かしらの決意をしたらしいすまいる☆がマスクを取って登場します。そして、主催者側によって用意された空気圧ヒナタの衣装も相まって一気に本物感が出てきて・・というか本物なわけですが。(笑)
ともかく、すまいる☆の登場後に徐々に踊りのキレも出てきた空気圧ヒナタの姿は生配信で徐々にキレを増していった空気圧ヒナタと同じで、じゃあやっぱりコイツが本物だという空気になって盛り上がっていく展開が熱かったです。
まあ、主催者側の勝手だとはいっても見かけ上は完全にステージジャックですが。(笑)
総括
いかがでしたでしょうか?
普通は動画投稿を繰り返して徐々に人気が出てくるものなのだと思いますけど、1巻での6時間踊り続ける生配信をキッカケに1本も動画投稿していないのに知名度だけは上がってステージ出演依頼まで来てしまう超展開でしたが、出演するつもりはなく訪れたステージ会場で起きるドラマが面白かったですね。
最後にはまた一波乱の予感を残した続きの気になる幕引きで、しかし若干クライマックス感のある幕引きだったので、既に『8畳カーニバル』という作品をかなり好きになっていた僕は「終わってくれるなよ~」とか思っていました。