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『ガンバ!Fly high(8)』選手の視界を通した会話って一体・・(ネタバレ含む感想)

 

ガンバ!Fly highの主人公である藤巻駿にある主人公らしさって何でしょうか?

大抵のフィクション作品においては、どれだけ普通に見える主人公であったとしても何かしら主人公たる特性があるものです。

鉄棒のスペシャリストであること?

とても楽しそうに演技をすること?

胸の回転でとても高い宙返りをすること?

それとも優れた空中感覚を持っていること?

そのどれもが藤巻駿というキャラクターの特徴のひとつですが、しかし主人公らしさではないのではないかとも思います。

鉄棒のスペシャリストであることが主人公としての特性なのだとしたら、他の種目のスペシャリストである他の平成学園のメンバーも主人公で良いことになりますし、楽しい体操や胸の回転はアンドレアノフの受け売りで、平成学園の全員に共通する特徴でもありますからね。

優れた空中感覚に関しては主人公らしい特徴といえばそうかもしれませんが、これも優れた選手であれば他のキャラクターにも共通していそうな要素ですよね。

では藤巻駿の主人公としての特性は何でしょうか?

それは、他人の視界が視えること。

前述した要素に加えてその能力があることが藤巻駿の特性なのだと思います。

藤巻駿が他人の視界が視えているらしいことは最初の地区大会後にジュニア合宿に呼ばれたエピソードの時点で語られていましたが、それが8巻の嵐雲高校との対抗試合のエピソードでかなり明確なものとなりました。

藤巻駿の特性と言いつつ、本エピソードで初登場となる堀田辰也にも同じ能力があるじゃあないかというツッコミもありそうですが、堀田辰也というキャラクターはむしろ藤巻駿の主人公性を強調するために登場させたキャラクターなのではないかと思っています。

つまり、体操選手としては藤巻駿よりずっとキャリアのある天才が藤巻駿と同じ能力を持っていることで、藤巻駿もまた天才であると印象付けたわけですね。

また、作品の終盤にもう一人同じ能力を持ったキャラクター(選手ではなく記者ですが)も登場しますが、彼女もまた成長した藤巻駿をより高度な視点で捉えさせる役割を担っていたと思えるので、やはりガンバ!Fly highという作品において他人の視界が視えるという特殊性は重要なファクターであることは間違いなさそうです。

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本作の概要

平成学園と嵐雲高校の対抗試合も佳境に差し掛かってきたところで、藤巻駿と堀田辰也の互いの視界を通した会話で徐々に堀田辰也の心も開かれて行きます。

なぜ堀田辰也はあれだけの才能がありながら体操が嫌いであるかのような態度を見せるのか?

あまりにも体操が好きだからこそその中にある汚点がどうしても許せなかったその過去が明らかになります。

最後には古屋監督にも平成学園を認めさせ、全日本の合宿見学に招待もされます。

そこで触れたトップ選手の新技に感化され、平成学園のメンバーはみんな新技の練習に取り付かれてしまうのですが、どんな新技も基礎の上に成り立つことを忘れた行動に珍しくアンドレアノフは激怒してしまいます。

本作の見所

たまにはラブコメ

平成学園と嵐雲高校の対抗試合の最中ですが、新堂雄一と折笠麗子が繰り広げているラブコメにもなかなか面白いです。(笑)

ガンバ!Fly highはスポーツ漫画の中ではラブコメ成分が強めの作品ではあると思いますが、主人公の藤巻駿とメインヒロインの相楽まり子の関係性が実のところ最後の最後までなかなか進展しないので、ラブコメらしさという点では新堂雄一と折笠麗子の方が読んでいて面白いかもしれません。

特に折笠麗子は、序盤の内は頼れるけど優しく見守ってくれる優しい先輩という雰囲気のキャラクターでしたが、こと恋愛面に関してはとても初々しくて可愛らしいのが良いですね。

折笠麗子が好きなのは藤巻駿。

そんな勘違いによるすれ違いからのラブコメシーンは必見です。

恐らく三バカが後輩たちに馬鹿にされているのを聞いても苦笑するくらいだと思われる折笠麗子が新堂雄一を後輩たちに馬鹿にされてカチンとしているのもいじらしいですし・・

「そうよ!! 今頃気づいても遅いんだから!!」

新堂雄一の活躍に誰よりも喜んでいる姿も可愛らしいです。でも一体何が遅いというんでしょうね?(笑)

それに毎度恒例になってきましたが、新堂雄一の実力が折笠麗子との関係性次第になってくるのも面白いです。

他人の視界が視える

他人の視界が視えるというのはどのような感覚なのでしょうか?

それは分かりませんが、体操のように複雑な動作を要する競技においてそれがひとつの才能であろうことには一定の説得力があるような気がしますね。

互いの演技の視界を共有しながら理解を深めていく藤巻駿と堀田辰也の関係が、他のどのキャラクター同士とも違っていてとても面白いです。

また、堀田辰也は自身の演技を以って藤巻駿に可能性を示唆します。

平成学園のメンバーの技を真似てみたものの高さまでは真似をできなかった事実や、バーの上を飛び越える降り技という藤巻駿に知らなかった可能性。

「バーの上を飛び越えて下りるなんて考えもしなかった!! 体操って・・すごいや!!」

ある意味では嫌味にも映る堀田辰也の演技から可能性を見出した藤巻駿でしたが、例え視界が視えても体力的にその技をコピーしたりはできませんでした。

しかし、一方でそんな可能性を示した堀田辰也ですら真似できない高さを持った、同じ技でもレベルの違う演技を見せつけます。

「俺は必ずオリンピックに出る!! おまえも来い!」

最初はあれだけ体操が嫌いそうな雰囲気だった堀田辰也とのこの約束のシーンはとても感動的でした。

それにしても、このエピソードで堀田辰也が示した可能性がストラウマン2回捻り下りであることと、その後新技のエピソードに繋がる流れがガンバ!Fly highのラストを知っている身で改めて読むとこれが実はラストの伏線のひとつだったことに気付かされます。

なぜなら、よくよく考えたら藤巻駿が最終巻で決めた新技ってストラウマン2回捻り下りの発展形でもあるわけですからね。

新技と基礎

嵐雲高校との対抗試合で古屋監督を認めさせた平成学園は全日本の選手が新技の開発をしている練習場へと招待されます。

そこでどうやら新技への興味が湧きまくってきたらしい平成学園の男子体操部員たち。

やっぱり新しいものへの興味は誰にでもあるでしょうし、まして国際大会で新技として認められれば技に自分の名前を付けられるとあれば目立ちたがり屋の三バカたちが色めき立つのは当然の帰結ですね。(笑)

しかし、それで久々に日本にやってきたアンドレアノフの考えたあん馬の基礎練習をないがしろにしてしまった結果、珍しくアンドレアノフを怒らせてしまうことになります。

田所のおばあちゃんの家の庭で開催される新技の発表会の内容次第では本当に帰国するのだと真剣に言っている様子に、岬コーチも随分と不安になってしまい藤巻駿と団結して何とか演技会を盛り上げようとしているのですが、その姿は若干面白かったです。(笑)

しかし・・

「それで・・? 今の技・・ボクに何点をつけろって言うんだい!?」

このような皮肉もアンドレアノフにしては珍しいもので、それだけ怒っていることが伝わってきますね。

そして、何故かアンドレアノフはコーチの進退を上野良夫の演技に委ねます。

行ったのはあん馬の基本旋回ですが、何度も落下しながらもそれなりに形になっている上野の演技。

実は、藤巻駿や三バカ先輩にイキイキと新技を練習して欲しいと考えた上野は、自身がアンドレアノフの考えた練習をすることで、新技の練習をさせつつコーチを繋ぎとめようとしていたわけですね。

そのことに気付いていたアンドレアノフは、恐らく自分が上野の演技を見たかったわけではなく、他の部員にそれを見せたかったのだと思われます。

自分一人が地味な基礎練習を頑張って部員とコーチを繋ぎとめようとしていた上野に自身を顧みた部員たちに、ようやくアンドレアノフの怒りは収まりました。

さて、後々は選手としてより補助として活躍の場を得ていくことになる上野の最初の一歩でしたが、今まで若干空気だった上野の活躍にも今後は期待ですね。

総括

いかがでしたでしょうか?

嵐雲高校との対抗試合の最終的な結果自体は平成学園の負けではありましたが、十分以上にその実力を認めさせる結果になったのが興味深いですね。

そして、ハイクラスの体操の世界において最も興味深いのは現実においても演技者の名前が冠される新技であることに異論がある人は少ないでしょう。

やはり、名前が残るというのは選手本人にとっても憧れでしょうし、にわか程度のファンにも分かりやすいバロメーターですからね。

8巻における平成学園の三バカによる新技発表会。そこで発表された技にはアンドレアノフといえども点を付けられなかったようですが、次巻では藤巻駿も新技を発表するようです。

それがどのようなものなのか?

それが次巻の見所のひとつです。