『フェルマーの料理』数学的な料理という新感覚の漫画の感想(ネタバレ注意)
『フェルマーの料理』は、数学が好きで得意だけど行き詰ってしまった少年が、無意識の内にその数学的な発想を料理に活かすようになっていて、それに目を付けた料理人が少年を料理の世界へと誘っていくという物語となります。
グルメ漫画や料理漫画は、特に近年になって様々なアプローチの作品が増えてきている印象ですが、数学と料理という組み合わせはありそうで無かったというか、何とも新鮮に感じられますね。
ある分野の天才が、別の分野で才能を発揮する展開は非常に興味深いところがあると思います。
それに、タイトルの『フェルマーの料理』というのも面白いと思います。
元ネタはもちろんフェルマーの最終定理でしょうけど、300年以上も解けなかった数学の難問と掛けることで料理の難しさを表現している感じでしょうか?
美味しいものが何で美味しいのかの解説に力が入っているのも良いですね。
本作の概要
行き詰った数学の天才少年・北田岳は、楽しむだけではなくガチで戦っているライバルを見て、数学者になる夢を失いかけていました。
特待生から格下げされ、学食で安時給のバイトをして生活する苦学生になってしまうのですが、そんな北田岳が賄いとして作ったナポリタンに、たまたまケータリングのサービスにやってきていた若き天才シェフ・朝倉海が目を付けました。
実は無意識の内に普通の人ならしないであろう工夫を、その賄のナポリタンに施していた北田岳。
数学的な発想を料理に活かす北田岳が、料理人としての道を切り開く物語なのだと思います。
本作の見所
悩める少年のナポリタン
数学オリンピックとは、その名の通り数学の問題を解く能力を競う国際大会のことです。
得意科目が数学だった僕は昔、興味を持ってその問題を見てみたことがありますが、ちょっと得意なくらいではどうにもならない、笑えるほど難しい問題です。(笑)
そんな数学オリンピックの日本代表が嘱望されていた数学の天才少年・北田岳は、しかし数学を楽しんでいただけの自分とは違い、真剣に数学で戦う他の代表候補を見て場違い感を覚えてしまいます。
数学オリンピック日本代表にはなれなかった北田岳。
私立ヴェルス学園の特待生だった北田岳は、野心家の西門理事長により特待生から格下げされてしまい、学食で安時給のアルバイトをする日々を送ることになります。
そんな北田岳が賄に作ったナポリタンを横から見ていて食べてしまったフードの男。
彼は有力者を集めたパーティに呼ばれたケータリングサービスの料理人・朝倉海でした。
この賄のナポリタンのエピソードでは、執拗に北田岳の調理風景を眺める朝倉海が描かれていますが、北田岳の何に注目しているのかは説明されていません。
一応、北田岳の調理風景には「ん?」と違和感のある部分もあったのですが、そういう作り方もあるのかと思う程度のものでしかありませんでした。
それに・・
「何度?」
「ああー45度だ」
朝倉海の問い掛けに対する北田岳の回答も、この時点では意味が分かりません。
数学的な料理漫画だと聞いていたので、何かしらの角度が重要だったのかとも思ったのですが、実はそういうわけでもありません。
この答えは、朝倉海が呼ばれたパーティのエピソードにあります。
数学的思考のナポリタン
朝倉海の目に留まった北田岳は、彼に退学を言い渡したばかりの西門理事長の主催するパーティーのメインディッシュとして、ナポリタンを作るように言われます。
それなりに高級食材を食べなれている有力者の集まるパーティ。
そんなところに呼ばれる朝倉海も、どうやらその若さのわりに非常に優秀で信頼に足る料理人のようです。
そんな朝倉海に代わりメインディッシュを、しかもただのナポリタンを作らされることになった北田岳は、あまりの不測の事態に混乱の極みに陥ってします。
そりゃあそうですよね。
料理が得意な自覚があるならまだしも、もしくは何か凄い料理を作っているところを見られたならまだしも、ただのナポリタンですからね。
あまり料理をしない僕ですら簡単に作れてしまいます。
それに、確かにナポリタンは美味しいですけど、高級コース料理を期待する人たちにメインディッシュとして出す料理としては、明らかに不適当ですしね。
しかし、強引な朝倉海に流されるままに北田岳はナポリタンを作ることになるのですが・・
「子供の頃から「ナポリタン」と聞いて最初に思い描く味のイメージ。あれの理想なんだ!」
どんな単純な料理であれ、それの理想形が実現できるとしたら、それほど食べてみたいものはありません。
北田岳の作ったナポリタンはそのような評価を受けます。
しかし、なぜ料理素人の北田岳がそのような素晴らしいナポリタンを作れたのか?
作品の方向性としては「数学的な発想で」ということになるのでしょうが、そこにはそれだけではない食べる者への気遣いも含まれていました。
本人は無意識のようですが、北田岳の行った工夫は・・
- フライパンの表面に直接ケチャップをかけたこと。
- フォークの温度を調整して提供したこと。
- 炒める前のパスタを冷水で締めてマリネしたこと。
・・の3つとなります。
一つ目は、完成品から逆算した完璧な調理順。これを無意識にできるとは凄いですね。
子供向けの料理ゲームなんかでは、正しい炒める順序を学ばせるようなことがあったりしますが、この計算が意外と難しかったりします。
そういう所が数学的なんでしょうね。
そして二つ目。客が料理を食べる時間から逆算した食器の温度の調整。これもまた数学的ではありますが、それ以上に気遣いが凄いですよね。
「許されるなら、ここの建物のドアノブの温度まで管理したいくらいだった」
それを当然のことと思っている北田岳の常識が、普通ではない発想に繋がっているのかもしれません。
最後のパスタを冷水で締めたことは、一応朝倉海からのヒントがあって出てきた工夫となります。
しかし、いくら美味しかったとはいえ、のびてしまったパスタを食べて思いつく発想ではないですよね。
味の相乗効果
自分の所に来るようにと朝倉海に言われ、朝倉海のレストランを訪れた北田岳。
そこで北田岳は、二度にわたり試されることになります。
一度目は、店員の赤松蘭菜の作った味の理屈を答えること。
二度目は、完璧な一品を作って朝倉海のレストランの顧客を満足させること。
最初のはともかく、とりあえず訪れただけの北田岳に、お客さん側に事情を説明済とはいえいきなり料理を出させるとは、朝倉海は相変わらず無茶な料理人です。
そして、この二つのエピソードでポイントになるのは味の足し算ではなく相乗効果となります。
まさに数学的な発想が活きそうなテーマですが、実は味の相乗効果は基本的に二つの成分までだそうです。
2かける2は4になるが、2かける2かける2は8にならないということですね。
料理漫画では、その食材の含有する物質についてまで触れられることは少なくありませんが、これは中でもかなり興味深い部類の情報でした。
ともあれ、この朝倉海との出会い、そしてレストランでの出来事をキッカケに、北田岳は朝倉海のレストランで働きたいと思うようになります。
総括
いかがでしたでしょうか?
僕は読んだことがありませんが、もともとはサッカー漫画を描かれていた漫画家先生による新作になっているようで、言われてみればスポーツ漫画的な熱い展開になっているような気もします。
実は、失礼ながら絵柄はあまり好みではないんですけど、それ以上に面白いと思える作品だったと思います。
料理漫画としては今一番続きが楽しみかもしれません。