『ラブひな(8)』現代お約束ラブコメの原点とも言える作品の感想(ネタバレ注意)
『ラブひな』は受験生を主人公としたラブコメ・・だったよね?って感じの8巻です。(前巻のレビューはこちら)
通常ラブコメ作品って箱庭的に一つの街が舞台になっていたり、旅行するようなエピソードがあったとしても、そこに至る経緯はお約束的に似通っているものです。
そんな中、ラブコメ的お約束が詰め込まれているという触れ込みの『ラブひな』における旅のエピソードは独特なものが多いような気がします。
傷心旅行のエピソードにしても近年のラブコメ作品ではあまり見られないテーマな気がしますし、今巻のパララケルス島のエピソードに至っては、もしこのエピソードから読み始めた人がいたとしたら『ラブひな』がラブコメ作品だということに気付かないかもしれないくらいに独特です。
まあ、それもまた『ラブひな』という作品の魅力ですよね。
・・なんて、ちょっと異色なエピソードが主人公の浦島景太郎にとっての最大のテーマであった東大受験の合格発表と絡められているというのが面白いところ。
読んだことがない人が聞いたら何言ってんだって感じですよね。(笑)
今巻にはそんな『ラブひな』の個性が表れていると思います。
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本作の概要
受験本番に居眠りをするというあまりにもあんまりな醜態をさらしてしまった浦島景太郎。
調子が良かっただけにこの失態のショックは大きく、浦島景太郎は帰路そのままに旅にでます。傷心旅行好きだなこいつは。(笑)
まあ当然好きで傷心旅行しているわけではないのですが、ともあれ北へ行こうとして何故か南のパララケルス島にやってきてしまった浦島景太郎。
さて、当然不合格だと思って確認もせずに傷心旅行に出発してしまったわけなのですが、結果はまさかの合格。
しかし、受験票を持って傷心旅行に行ってしまったため入学手続きができないという事態に・・っ!
合格してもただではハッピーエンドにはならない展開に注目です。
本作の見所
不合格かと思いきや遭難する景太郎
前巻のラストでは、ついに迎えた東大受験の二次試験本番で大失敗をやらかした浦島景太郎が描かれていましたが、そんなところから今巻はいきなり南の島で遭難と、非常にスピーディーに不幸に陥るところが印象的です。
「しかし、つい数日前は東京で試験を受けてたはずなのに・・。今は無人島に一人だなんて・・。何だか現実感ないな・・」
確かに現実感がなくて、だけどそんな行動を無意識に取ってしまうあたりがラブコメ主人公たる所以ですよね。(笑)
そして、『ラブひな』では既に定番になりつつあるお約束がありますよね。
それは浦島景太郎が勝手にショックを受けている時は、大抵の場合何かしら良い結果が待っているということ。
「セ・・センパイありましたよ。合格ですよ・・。本当に・・本当におめでとうございます・・センパイ」
なんと、居眠りしてしまった後のラスト5分。本人ですら頭が真っ白になって解けた自覚のない問題が、何と全問正解だったようでついに浦島景太郎は東京大学に合格していたのでした。
本人の知らないところで。(笑)
5日以内に受験票と書類を郵送すれば、浦島景太郎も晴れて東大生・・なのですが、その浦島景太郎は受験票を持ったまま傷心旅行に行ってしまい、しかも南の島で遭難中。
合格してもなかなか思い通りにいかないあたり、浦島景太郎らしいといえばらしいですよね。
景太郎を探すひなた荘の住人たち
浦島景太郎の代わりに受験の結果を見に行って、合格していることが分かれば我が事のように喜ぶひなた荘の住人達。
ひなた荘に浦島景太郎がやって来た当初のことを思えば、浦島景太郎も随分と慕われるようになったものです。
「私が・・私がきっと見つけ出して・・センパイに受かったって教えてあげます!!」
そして、浦島景太郎が疾走するとしのぶが張り切りだすのも何かお約束っぽくなっていますよね。(笑)
しのぶを叱りつつも自分は探しに行く準備万端の素子とか、とっても可愛らしいと思います。
しのぶとニャモ
パララケルス島で初登場する現地の少女ニャモも、日本語が分からないこともあってコミュニケーションは少なめですが、ちょっと恥ずかしがり屋なところが初期のしのぶっぽくて可愛らしいですよね。
しかし、そこは南の島の女の子。しのぶによく似ているものの運動神経はしのぶよりも良いようです。
ガソリンを探してしのぶとニャモが二人で遺跡を冒険するシーンがあるのですが、これがなかなか面白いんですよね。
ちょっと『ラブひな』がラブコメであることを忘れそうになりますけど、そういうところも含めて魅力的な作品だと思います。
目標を見つけた景太郎
さて、せっかく合格したのに勝手に落ち込んだり、入学手続きできずにピンチになったりと相変わらずの浦島景太郎ですが、一方でこのパララケルス島のエピソード以降は徐々に格好良いキャラクターになっていきます。
東大合格が自信になったからというのもあるかもしれませんが、それ以上にパララケルス島で瀬田記康の手伝いをして、自分のやりたいことを見つけたからというのもあるのかもしれません。
世の中には勉強ができる人は山ほどいますが、自分のやりたいことを明確に見つけることができて、それを実現した大人になれている人はかなり少ないのではないかと思います。
しかし、浦島景太郎はきっとそういう大人になっていくんだろうなぁと思わせるようなキャラクターへと成長していくんですよね。
そういう意味では、このパララケルス島編は『ラブひな』という作品にとっても、浦島景太郎というキャラクターにとっても転機となるエピソードだったのではないかと思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
前巻のラストが醸し出していた悪い予感とは裏腹に、なかなか素敵なハッピーエンドが待っていましたね。
浦島景太郎も苦労の甲斐あって、ついに東京大学に合格しました。
その入学手続きにすら紆余曲折あったところは浦島景太郎らしいところでしたけど。(笑)
そして、浦島景太郎の東大合格をもって『ラブひな』の大きなテーマのひとつが回収されました。
残る気になる点はやくそくの女の子問題くらいですが、実のところ『ラブひな』の物語はこれでようやく折り返しくらいです。
また、東大受験というある意味では漠然とした目標しか持っていなかった浦島景太郎は、パララケルス島で本当の意味でやりたいことを見つけつつあります。
これまでは情けない姿を見せることも多かった浦島景太郎が、新たな目標を手にして徐々に格好よくなっていくところも今後の見所ですよ!(次巻のレビューはこちら)