『フルーツバスケット(21)』全編アニメ化記念に全巻レビューします
慊人の変化が気になる21巻です。(前巻のレビューはこちら)
夾による罪の意識の告白。そして本田透への拒絶から始まる21巻ですが、『フルールバスケット』という作品においても重要そうな様々な変化が一気に起き始めるイメージの内容になっています。
この物語が加速していく感じ。
まさにクライマックスが近付いてきているのが分かりますね。
個人的には大抵の作品において、序盤、クライマックスと並んでこの「物語が動き始める瞬間」が好きなのですが、じわじわとターニングポイントが訪れる『フルーツバスケット』においても、この21巻こそが最大のターニングポイントなのではないかと思います。
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本作の概要
夾による本田透の拒絶。
慊人への本田透の歩み寄り。
そして崖からの転落事故。
今まで噛み合わなかった由紀と夾も互いの想いをぶつけ合い・・
由紀と倉伎真知の関係にも進展が見られます。
本作の見所
幻滅
『フルーツバスケット』に登場するキャラクターは、前向きなようでいて実は自分のことを責めるというか、そこまで背負わなくて良いだろうってことを自ら背負いにいくスタイルの人物が多いような気がします。
夾の罪の意識の告白も、あくまでも罪の「意識」であって罪ではないんですよね。
そして、そんな罪の意識から逃げるために由紀を自分にとっての絶対的な悪者として精神安定を図っていたようです。
それすらも罪の意識となって、誰からも許されたくないって想いに苛まれている不器用な夾は、もちろん本田透からも許されたくありません。
しかし・・
「許しません。そう言わないといけないんですか・・?」
全巻通してほとんど・・というか全く怒りの感情を見せることの無かった本田透ですが、ここで初めて少し怒ったような表情を見せます。
夾からしたら本田今日子の死に対する罪の意識から逃げるような精神状態の時に本田透と出会い、まるで「忘れさせない」「許さない」と言われているような気持ちになっているところでしょうが、それは実際問題巡り合わせが悪かっただけでしかありません。
そして、本田透からしたら本田今日子はそんなことで夾を責めるような人間ではなく、本田透の夾への想いだって否定をするような人間ではありません。
「もしも本当にそう言ったのだとしたら・・っ、私・・私はお母さんに反抗せざるをえません・・!!」
本田透のセリフは実際の母親に対するものではなく、夾の中にある本田今日子像に対しては反抗せざるをえないということですよね。
「そんなん・・幻滅だ・・」
夾のこのセリフ。
今まで母親を一番に考えてきた本田透の一貫性の崩れたような発言に対する幻滅なのだと思いますが、よくよく考えるとこの会話は噛み合っていないんですよね。
なぜなら、そもそも本田透のイメージしている本田今日子は実際の母親そのもので、夾のイメージしている本田今日子は自らの罪の意識が作り出した幻影でしかなく、つまりは話題にしている本田今日子という人物自体が全くの別人なのですから。
ともあれ、今まで何だかんだ優しい感じの関係性だった2人にしてはなかなか強烈な喧嘩、決裂となってしまいました。
慊人と本田透
紅野を刺して紫呉宅まで逃げてきた慊人と、夾と喧嘩した直後の本田透が出会います。
この2人の組み合わせ、実はかなり久しぶりですが、何かドキドキしますよね。
「一体何が起きるんだ?」って。
「慊人さんの願う”不変”を否定しておいて、本当は私だって願ってたんです。変わらない想いを、絆を、”不変”を」
慊人と本田透。
性格はかなり違いますが、非常に孤独を感じて生きている点。不変を願っている点など、実は共通点が多いんですよね。
「・・人も、想いも、縛れません。それをもう慊人さんも気付いていらっしゃるのでしょう?」
そして、”不変”など無いということに気付き始めた時期も共通している。
夾への想いに対して止まらない勇気を持ち始めた本田透に、十二支の呪いが解け始めて焦燥する慊人。
状況こそ全く違いますが、不変を願っていたのに変わり始めている。
だからこそ本田透は慊人の上からでも遠くからでもなく、隣から語り掛けることができたのだと思われます。
「今さら気づいたって・・! 恐い・・恐いよ。愛される保証も無いのに、そんな他人に囲まれて生きてなんかいけない」
慊人の反応はかなり極端ですが、本田透も似たような恐さを持っていたのは間違いないと思います。
止まらない「勇気」を持つなんて表現が出てくるのは、恐いと思っていることがあるからですもんね。
崖からの転落事故
踏んだり蹴ったりとはこのことですね。
本田透は崖が崩れて落っこちて言うまでもなく悲惨ですし、慊人にしても自分の隣から語り掛けてくる本田透に心を開きかけたところで、そんな人物が目の前から転落してしまうというショッキングな状況。
というか、本田透は何をそんな危ないところに立ってるんだって話です。
あまり言動の良い印象のない慊人ですが、さすがに大声で助けを求めます。
そして、個人的にはこのシーンを見て初めて慊人の根本的な性質を理解したような気がします。
非常に大人げない人物だとはずっと思っていたことですが、要するに慊人は何も知らない子供なんですよね。
今回大声で助けを呼ぶ様がまさに子供っぽかったので、そう思うようになりました。
思い返せば感情的すぎるところも子供のそれに似ていますよね?
由紀の憤り
孤独なところもある本田透ですが、『フルーツバスケット』のキャラクターは基本的に本田透には甘いというか優しいです。
そんな本田透に「幻滅」とまで言った夾は魚谷ありさに花島咲、それに由紀からも怒られる体になっています。
本田透がタイミング悪く崖から転落してしまったので、それすら夾のせいっぽい空気になってしまっていますね。
そして、魚谷ありさや花島咲の怒りは友人としての素直な怒りですが、由紀の持っている怒りはちょっと毛色の違う興味深いものです。
「・・守ってただろ!!? ちゃんとおまえ、守ってただろ!! ”嬉しい”とか! ”倖せ”だとか!! ちっぽけな事かもしれないけど、ヒーローみたいに超人的な力じゃないかもしれないけど、だけど側にいて本田さん、笑ってただろ・・!?」
夾は鼠の十二支で何でもできる由紀に憧れを持っていて、一方で自分の事は誰からも受け入れられない猫の十二支しとして、十二支だとか何だとかが関係のない場面でも自分のことを卑下する傾向がありました。
しかし、そんな夾の側にいる時こそ本田透は一番倖せそうに笑っている。
それは由紀にはできないことで、自分にできないことをできているのに、そのことに無自覚な夾に苛立っているわけですね。
お互いに憧れあって嫌いあっているという関係が興味深いと思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
前巻で本田透が止まらない勇気も持つことになり、十二支の呪いが解け、変化が始まった予感はありましたが、今巻で一気にクライマックスに向かい始めたって感じがしますね。