『フルーツバスケット(22)』全編アニメ化記念に全巻レビューします
十二支の呪いが完全に解ける22巻の感想です。(前巻のレビューはこちら)
いよいよクライマックスが近づいてきました。
『フルーツバスケット』という作品の根幹である十二支の呪いが、ついに全て解けました。
夾が幽閉される予定だった離れが取り壊されることも決定され、本田透に触れた慊人も変化を受け入れ始めます。
そして、非常に気まずい状況になっていた本田透と夾も、本田透の退院時に再会します。
どんな作品でもクライマックスで一気に物語が加速するような印象を受けることが多いですが、まさにそんな加速を感じられる内容になっています。
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本作の概要
全てのキャラクターが前を向き始める。
花島咲の言葉を受けて夾は父親と向き合う決意をし、最後ということもあって花島咲や魚谷ありさの出番が久々に増え、崖から転落した本田透も退院し夾との関係に進展が見られます。
そして、なにより十二支の呪いが全て解けてしまいます。
本作の見所
父親と向き合う夾
『フルーツバスケット』に登場するキャラクターは一癖も二癖もある曲者揃いですが、基本的には誰もが善人というか、優しい人間のように感じられます。
十二支と十二支の両親の間には結構色々と確執めいたものがありましたが、例えば子供のことを私物化しているような印象のある由紀の母親ですら、実のところそこまで悪い印象は持っていません。
しかし、夾の父親にだけは最後まで良い印象を持てませんでした。
むしろ、ここに来て悪印象が大きくなった感じがしますね。
多くのキャラクターが変化を受け入れ一歩を踏み出そうとしている中で、夾の父親だけは変わらないという、悪役めいた描かれ方をしています。
一方で花島咲の言葉を受けた夾は、正直なところそんなに気が進む気分ではなかったとは思いますが父親と向き合うことを決意しました。
夾の母親の死を自分のせいだと認めた夾。
実は最初、なんでまた後ろ向きな自分を責めるようなことを言いだしたんだろうと疑問に思いましたが・・
要は、夾は今までそういう都合の悪いことから由紀を悪者にすることで逃げてきていました。
だから、逃げることをやめた夾は一旦はそれと向き合おうとしたということなのだと思います。
しかし、ここで夾も気付いていなかった事実が浮かび上がります。
「おまえなんか産まれたせいで・・っ。おまえなんか産みやがったせいで!!」
夾の父親のセリフ。よく聞くと責めているのは夾だけではなく、夾の母親のことも攻めています。
どうやらそういうことを夾の母親に向けて言ったらしいですね。
だとすれば今まで感じていた違和感のひとつが解消します。
以前、回想の中に登場していた夾の母親は、夾が猫憑きの化け物であるというだけで自殺するようなキャラクターには見えませんでした。
むしろ十二支の親の中では自分の子供を可愛がっている方だと思います。
それなのに自殺してしまったということが何だかちぐはぐに感じられていましたが、夾の父親の方こそが自殺の原因だったのかもしれません。
しかも、恐らくそのことに夾の父親は自覚しているような気がします。
何というか、夾の父親も夾に比べて置いてけぼりなだけで、その性質は夾と似ている部分があるのかもしれませんね。
都合の悪いことを全て由紀のせいにして憎んでいた夾。
都合の悪いことを全て息子のせいにして憎んでいる夾の父親。
そして、夾と由紀はある程度相互理解できる関係になりつつあります。
そう考えると、いつかは夾と夾の父親も理解しあえるようになったりするのかもしれませんね。
花島咲と魚谷ありさ
『フルーツバスケット』という作品における花島咲と魚谷ありさの役割は主人公の親友ポジですよね。
だからなのか、作中の序盤にはかなり登場頻度が多かったけど、由紀を始めとした他のメインキャラクターにスポットが当たっていた中盤にはあまり登場していませんでした。
なので終盤になって出番が増えて嬉しい限りですね。
特に、以前から言及している通り花島咲は僕が最も好きなキャラクターなので。
それにしても、まさかこの2人が少しとはいえ慊人と絡んでいく展開になるとは思いませんでしたね。(笑)
本田透の入院がキッカケだったわけですが、ともあれ魚谷ありさは紅野のことを慊人と話すことになり、また紅野との再会を果たすキッカケにもなって良かったですね。
「貴女・・女性ね・・? クレノさんが・・側に居てあげなくてはいけない存在が・・いると言っていたその存在は・・貴女ね・・?」
そして、花島咲の聡い部分はさすがですね。
漫画的な表現では分かりづらいですが、慊人の男装はかなり完璧に近いものだったはずです。
何と言っても、付き合いの長い十二支メンバーですら、その多くが現時点でも気付いていないことに初対面で気付いたわけですから。
「もう帰るの? あーちゃん・・」
「その呼び方はやめてくれと・・言った・・」
そして、何故か夾の師匠の家にいる花島咲と、夾が幽閉されるはずだった離れが取り壊されることを言いに来た慊人のやり取りが面白いですね。
慊人のキャラクター性って、基本的にはどんなキャラクターに対してもそこまで変わらないような性質のイメージがあるんですけど、あまりにも独特な花島咲との関係性でいえば自分勝手で癇癪持ちな性格を保てないようです。(笑)
そして、それこそが花島咲というキャラクターの面白さなのかもしれません。
あまりにも独特だから、絡みのあるキャラクターの意外な一面を引き出してくれそうというか、そんな感じ?
最後までそういう部分を見せてくれて良かったです。
退院と再会
本田透が退院する日に会いに行く夾。
一度は拒絶しようとした自分が本当に受け入れられるのか?
そもそも自分は本田透が好きなのか?
そんなことをモヤモヤと考えながら本田透を見た瞬間、夾は何をモヤモヤしていたのかが分からないくらいアッサリと本田透が好きなのだと自覚します。
「いや、もうマジにすっげぇ逃げっぷりだぁ・・」
しかし、かつてないほど機敏に、脱兎のごとく逃げ出す本田透。(笑)
「これ以上、幻滅されたくないのに」
その後、本田透の入院時の回想が始まりますが、どうやら夾にふられたと思っている本田透は、再会した時には笑って変わらない自分を見せて夾を困らせないようにしようと考えていたようですが、それができそうになくて逃げだしたようですね。
むしろ、そのことで夾が困ってしまっているのが傍目には微笑ましくも面白いですけど。
「・・おまえと一緒にいたい・・っ」
ともあれ、夾から改めて本田透に告白します。
そういえば最初は本田透の方から夾に告白しようとしていて、そのつもりが無かったとしてもその機先を制してふった形になっていた側からの再度の告白ということになります。
考えれば考えるほどに酷い状況ですが・・
本田透は嬉しそうですね。
由紀が、退院したら本田透は夾にものになるのだから退院するまではみんなの本田透にするみたいなことを言っていたので、傍目には明らかに成功する告白だったのかもしれませんけど。
「となりにいてもいいって・・ことですか・・? 手をつないで一緒にいてもいいって」
そして、この「手をつないで一緒に」ってセリフは次巻の最後まで覚えておいて欲しいです。
解ける十二支の呪い
十二支の呪いがついに全て解けていきますが、何故ここまで一気に解けたのか?
紫呉の言うように、もう十二支の絆の呪いは破綻しているからなのでしょうけど、紅野の呪いが解け、紅葉と燈路の呪いが解け・・
その呪いの解け方はまだ緩やかだったのに一気に解けた。
「・・僕は”僕”の・・人生、始めても。つらくて、こわくて。・・なんの取り柄も無いけど・・っ」
やはり、慊人が自ら十二支との絆に対して決別して、自分自身の道を歩き始めることを決意したことが、一気に十二支の呪いが解けたキッカケだったのでしょうね。
総括
いかがでしたでしょうか?
『フルーツバスケット』も残すところあと一冊です。
後ろ向きな性格のキャラクターの多い作品ですが、メインキャラクターの全てが違和感なく前を向き始めているというのが凄いですよね。
しかし、まだ全てが終わったわけではありません。
実は、22巻まででほとんどが語りつくされている感じがするので、初めて『フルーツバスケット』を読んだ時は後日談というか、エピローグ的な話が描かれているものだと想像していました。
基本的には何人かのキャラクターがどのように歩み始めたのかということが描かれていエピローグ的なエピソードではあるのですが、本田今日子の最後のセリフ。夾に向かって放たれた「許さない」の言葉の本当の意味が補足されています。
僕はこのセリフ、最終巻を読むまでは夾の作り出した幻影なのかと思っていましたが実は実際に放たれたセリフだったのですね。
そんな気になる伏線を残した『フルーツバスケット』。
最後まで目を離せませんね。(次巻のレビューはこちら)