あるいは 迷った 困った

漫画、ラノベ、映画、アニメ、囲碁など、好きなものを紹介する雑記ブログです。

『ガンバ!Fly high(10)』まさか東がこんなことになるなんて・・(ネタバレ含む感想)

 

8巻で情熱が開花し、9巻で感動的な完成を見せた藤巻駿の新技・トカチェフ前宙。

そして、この10巻で描かれるアジア大会の選考会でついにお目見えとなります。

体操の演技って見ていて真似できないと思えるもので凄いとは思うのですけど、素人目にはいつも似た演技をしているという印象もあって、漫画という媒体のエンタメ作品においては試合を重ねる度にマンネリ化していくようなところもあると考えてしまいます。

実際、藤巻駿たちの演技も徐々に進化はしているものの、あくまでも一度確立した個性の延長線上での成長でしかないとは思うのです。

その証拠に、このアジア大会のエピソードでは三バカのそれぞれが最も得意とする種目が驚くほどアッサリと描かれています。

しかし、それでも盛り上がるのはそれ以上のドラマが毎回用意されているからなのではないかと思います。

それがガンバ!Fly highという漫画なんでしょうね。

藤巻駿のトカチェフ前宙のお目見えもそういうドラマのひとつだと思いますが、演技以外の部分でも東の引退騒動に、それにアワアワしている内に平成学園のメンバーにも3位入賞、つまりはアジア大会への出場権が見えてきたり、様々なドラマが描かれています。

そういうわけで全く飽きませんね!

?

本作の概要

アジア大会の選考会の途中、東のまさかの引退宣言で他の平成学園のメンバーはみんな浮足立ってしまいます。

藤巻駿に、李軍団の嵯峨までもが東を挑発するために自らの演技を変えて東に訴えかけます。

そして、限界に挑む東に触発された藤巻駿は自らも限界に挑む演技を見せることになります。

本作の見所

東の限界

生涯現役で楽しめるスポーツというのも無いことはないのでしょうけど、大抵のスポーツは比較的若い内に競技者としての限界は迎えるものです。

体操における人間離れした動作はどう考えても若い人でなければ難しそうですよね。

しかし、そういう年齢や体力的な問題だけではなく体格によって有利不利が明確に出ることが素人目にも分かる競技でもありそうです。

そして、平成学園の三バカとして初期から活躍していた東もまた、まるでボディビルダーのような体格で異彩を放っていましたが、どう考えても体操選手らしい体格ではありませんでした。

アニメ版で初めて東を見た子供の頃の僕でもそう思いましたし。(笑)

「わしはもう体操選手やるには限界じゃい! 体が規格外っちゅうやっちゃ・・」

平成学園で初めての9点台の演技を床で見せた東は、その後もその体格を生かした演技で活躍してきましたが、スポーツの世界において異端はある程度までは活躍できても、トップにまで躍り出てくるのは王道に近い選手なのかもしれませんね。

周囲の選手たちが東がまだ限界ではないことを主張しますが、鉄棒の演技中に足が床に付いてしまうかもしれないという恐怖は精神的なもので、どんなにダイナミックに見えても実は委縮してしまっている。

そんな東のことを李軍団の李東生が最も冷静に見抜いているところが皮肉ではありますよね。

また、同じく李軍団の嵯峨選手にしても、今までも、そして今回も平成学園を目の敵にはしていますが、以前の種目別選手権で自身を圧倒した東が限界を口にして体操を辞めようとしていることを許せないのか、李軍団らしさを捨ててまで東を挑発する演技を見せる流れが良いですよね。個人的にはかなり好きです。

しかし、この引退の理由も本音ではあるのかもしれませんが、実のところ家庭の事情が後押ししていたところもあるようです。

「東センパイは体操選手として、まだまだ限界なんかじゃないですよ!! 限界を口にしたまま・・やめないでください!!」

そんな東の事情を知った藤巻駿のセリフがまた良いですよね。

家庭の事情なら仕方がないとはいえ、だからこそ限界を理由にして欲しくないという思いが溢れています。

ちなみに、藤巻駿自身この後自分の限界にも挑戦しようとしますが、そういう所が藤巻駿の愛されるキャラクター所以ですよね。

平成学園の裏切り者

平成学園の裏切り者・・なんて言葉を使うといらぬ誤解を招きそうなところですが、作中で内田が実際に言っていることでもあります。

要は、他の平成学園のメンバーどころか李軍団の嵯峨選手までもが東の引退を巡って奮闘していた頃に、ひっそりと一人だけ得点を重ねていたところを指して裏切り者だと言われているのです。

「・・俺はおまえらのような、スペシャリストじゃない。だが総合ならおまえらには勝つ・・!! この大会、俺は負けられんのだ!! 俺と麗子の未来のためになー!!」

そもそも三バカ程目立つことのないキャプテン新堂ですが、総合力では、そして折笠麗子が絡んでいる時は強くなりますよね。(笑)

性格的には目立たない新堂ですが、そういう意味で演技中には時折面白くなるのが興味深いです。

「内田センパイって、麗子センパイの事が関係すると、悪魔になるな・・」

そして、そんな新堂のことを裏切り者扱いする内田の言動がまた面白い。後輩である藤巻駿からも悪魔だと言われるほど自分の先輩を精神的に揺さぶっていきます。

ただ、もしかしたらこれは少し揺さぶった程度なら新堂は大丈夫だといいう信頼があったからこそなのかもしれません。

その証拠に、言いすぎたと自覚した後には誰より新堂の演技の行く末を心配していましたからね。

こういう平成学園の男子体操部員の関係って素敵ですよね。

まさかのトカチェフ前宙

藤巻駿が中学二年生の頃に感動的な完成を見せた鉄棒の新技。トカチェフの後に前方宙返りを加えた通称トカチェフ前宙。

しかし、藤巻駿はその後にトカチェフ前宙を大会で使用することはありませんでした。

作中では藤巻駿自身はその理由について明言していませんが、自らの名前が冠される可能性のある新技を、新技と認められる国際大会以外で発表することは通常あり得ないようですね。

だからこそ温存しているところもあったのだと思いますが・・

「斎藤クンや、ほかの選手が、最高の演技を見せてくれたから、ボクも出せる最高の技を出して、それに応えたかったんです!」

そんな理由でとっておきの隠し玉を見せてしまう藤巻駿。

李東生の言うようにここで新技を見せてしまったのは愚かなことなのかもしれませんが、それでもこういう感覚で体操を楽しんでいる藤巻駿というキャラクターが格好良いと思えるエピソードだったと思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

10巻のアジア大会の選考会より以降は、今までの平成学園のチームで団体戦という大会ではなく、個人で世界に向けて戦っていくようなエピソードや、嵯峨や堀田といった今まで登場したライバルが仲間となる国際大会など、一つ一つの大会におけるキャラクターの立場が目まぐるしく変わっていく印象があります。

当然といえば当然の流れだとは思いますが、それでもガンバ!Fly highにおける仲間といえば平成学園の男子体操部員という感覚は最後まで続いていくのは興味深いところです。

というわけで次巻はアジア大会に向けての合宿のエピソードからで、オリジナル技を持つほどの鉄棒のスペシャリストである藤巻駿の鉄棒における弱点が明らかになったりと中々に興味深い内容になっています。

アジア大会

国際大会で思い出しましたが、1巻のレビューでこの文庫版は東京オリンピックの時期にガンバ!Fly highにおけるクライマックスとなるシドニーオリンピックのエピソードを重ねようとしているのではないかと僕は予想していました。

・・が、東京オリンピックは延期になってしまいましたね。

まあ、ガンバ!Fly highで描かれる一年早いオリンピックを楽しみにしたいと思います。体操だけですけど。