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『ガンバ!Fly high(11)』今までのライバルがチームメイトになる熱い展開(ネタバレ含む感想)

 

ガンバ!Fly highの文庫版。一冊の中で藤巻駿以外の平成学園の男子体操部員の活躍が一切描かれていないというのは初めてかもしれませんね。

それもそのはず。前巻まででアジア大会の出場を賭けた選考会をお互い敵同士で戦っていたわけで、そこを勝ち上がったのは藤巻駿だけなのだから当然といえば当然の展開ですが、三バカ達が活躍しないガンバ!Fly highは何だか寂しく感じられます。

とはいえ、もちろん寂しいだけではありません。

李軍団の嵯峨康則に、他人の視界を共有する堀田辰也、同じコーチを持つ斉藤栄といった今までは平成学園のライバルだった選手たちが今度はチームメイトになる熱い展開です。

考えてみれば日本代表になるということは、そのチームメイトは国内におけるライバルということにもなるので当然のことなのでしょうけど、ライバルだったからこそ徐々に生じてくる一体感に説得力があるのが素晴らしいです。

それは例えば平成学園の体操を否定する立場にあった李軍団の嵯峨康則すらも例外ではありません。考えてみれば、嵯峨康則はもとより李軍団の中にあっても平成学園の体操を最初から良くも悪くも意識しているところのあるキャラクターだったので、ここでチームメイトになってもそこまで違和感がないのが興味深いところだと思います。

そして、そんなかつての強敵たちが仲間になるのは心強くなるものの、だからこそガンバ!Fly highの読者としての視点からはドリームチームに見える日本チームがアジア大会で苦戦を強いられる展開は、世界の壁の厚さを感じさせられる面白い展開であると感じました。

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本作の概要

全日本合宿で登場した日本チームのコーチ山田三郎は、ヤクザのような容貌でありながら藤巻駿が最も得意とする鉄棒での弱点を一目で見抜く実力者でした。

そして、代表になるために藤巻駿はその弱点を何とか克服します。

レギュラーにこそなれなかったものの鉄棒のスペシャリストとしてアジア大会に出場することになった藤巻駿でしたが、スペシャリストとして出場するからこそ自分の鉄棒が世界に通用するのかと珍しくプレッシャーに悩まされてしまいます。

本作の見所

トラウマの三回宙

「欠点てのは、最も得意とするものの影にひそんでいるものよ!」

全日本の合宿に現れたのはヤクザのような容貌の山田三郎コーチ。あまり体操をしそうには見えない感じで一見その実力は未知数ですが、天才と呼ばれる堀田の弱点が得意種目であるあん馬への過信にあると一目で見抜いてします。

そして、弱点を見抜かれたのは堀田だけではありません。

「びびってんじゃねぇ・・。バーの間近で三回宙をやるのが、そんなにおっかねぇか!?」

鉄棒のスペシャリストである藤巻駿もまた、最も得意とするものの中に弱点がひそんでいたようです。

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文庫版の3巻にて、同じ合宿施設で藤巻駿が三回宙の練習で天井を突き破ってしまうエピソードがありました。その後、一時期トラウマで鉄棒から手が離せない事態に陥ってしまったもののアンドレアノフのアドバイスで克服したかに見えました。

しかし、確かにアンドレアノフのアドバイスはトラウマに対して真正面から克服するようなものではなかったので、実際のところ完全な克服には至っていなかったようです。

というか、堀田も指摘している通り藤巻駿の演技構成には三回宙のようにバーの近くで高く飛ぶ必要のある技は含まれていなかったわけで、そういう意味では藤巻駿自身も無意識にそのことに気付いていた可能性すらありますよね。

そして、この全日本の合宿はそんな藤巻駿の鉄棒における弱点を取り除くためのエピソードとなります。

また、最終巻で藤巻駿が決めることになる大技への布石ともなるエピソードなので、最後まで覚えておいて欲しいエピソードでもあります。

プレッシャーを感じる藤巻駿

体操のようにどんな一流選手でもちょっとした不調やミスで大幅に減点されてしまいかねない競技において、藤巻駿のようにあまりプレッシャーは感じないのだという選手は稀なのではないかと思います。

実際、藤巻駿がプレッシャーを感じているようなシーンはとても珍しい。

プレッシャーを感じているシーンといえば、平成学園の男子体操部に入部した直後に試合に出場したシーンと、相楽まり子のために勝ちにこだわりすぎて臨んだ福井での全国大会くらいでしょうか?

しかし、鉄棒のスペシャリストとしてレギュラーの交代要員という立場になった後に、自らの演技をコピーしてみせた楊修平の鉄棒の演技を見て、果たして自分は鉄棒のスペシャリストとして活躍できるのかとプレッシャーを感じるようになります。

表面上はいつもの藤巻駿を取り繕っているものの、明らかにソワソワしている様子が興味深いところです。

「だから勝ち負けのために、体操はしないで! 人を感動させる演技をして! 「楽しい体操」をして!!」

そして、そんな藤巻駿のプレッシャーを和らげたのは相楽まり子でした。

今までの藤巻駿は、勝つための練習はしていても勝つことを絶対的に求められていたかといえばそうではありませんでした。だからこそプレシャーを感じずにいられたのだと思いますが、今回ばかりは勝つことを求められていることを自覚したためプレッシャーを感じたのだと思います。

しかし、相楽まり子が求めたのは勝つための体操ではなく今まで通りの体操でした。

だからこそ藤巻駿のプレッシャーはほぐれたのだと思いますが、考えてみれば面白いやり取りだったと思います。

 

ギスギスした日本チーム

ライバル同士がチームになった日本チームですが、全日本合宿のエピソードでは藤巻駿の三回宙成功を巡って結束力は強まった感じがします。

しかし、藤巻駿というか平成学園の体操を認めたくない日本体操協会の役員である上総の存在と、アジア大会予選での斎藤のあん馬における落下の失敗とそこから続く負の連鎖による日本チームの不調で、日本チーム全体の雰囲気はギスギスとしたものになってしまいます。

なんとも幸先のよくないスタートを切った日本チームのアジア大会ですが、だからこそそこからどう持ち直していくのかが楽しみな展開であるとも言えます。

チームの半数がかつての藤巻駿の強敵たちというドリームチームですが、だからと言って最初から無双したり敵は中国だけという状態になってしまうよりは、こんな実力者でもちょっとしたことでままならなくなるという中でどう実力を発揮していくのかという展開の方が面白いですもんね。

個人的には、高い実力を持つものの完璧を目指すあまり演技時代の迫力は欠けるイメージのある李軍団の嵯峨が、怪我でリタイアした簑山に大口をたたいた自分が負けるわけにはいかないと気迫の演技を見せ、自己採点以上の得点を出してチームの雰囲気まで変えてしまったシーンが印象的でした。

そういう意味でこのアジア大会のエピソードは、平成学園以外のかつてのライバルたちの成長も描かれていて、それもまた面白いところだと思います。

中国チームと王景陽

体操が強い国といえばどこでしょう?

アジアの中であれば中国・・というか、世界的に見ても中国の体操が強いことは周知の事実でしょう。

そして、今回はアジア大会なので当然中国の代表チームも出場しています。

軽薄そうに見えて行きずりでスーツ姿で行った鉄棒で藤巻駿の演技をオリジナル技を含めてコピーしてしまった楊修平に、日本チームを歯牙にもかけない様子の王景陽。

そんな中国の二人の実力者にスポットが当てられて描かれていますが、特に王景陽は日本チームにとっての高い壁として描かれています。

誰に対しても厳しいけど、何より自分に対して厳しいので、その厳しさに強い説得力のある凄い選手として描かれており、直接対決はこのアジア大会のエピソード以外だと最後のシドニーオリンピックのエピソードのみとなるのですが、つまりはガンバ!Fly highという作品における最終的なライバルとなるキャラクターであることを意味するため、その言動には注目してみて読んで欲しいところです。

総括

いかがでしたでしょうか?

鉄棒のみのスペシャリスト枠だった藤巻駿も全種目戦うことになりました。散々な結果だった予選を引きずらずにどこまで本線を戦えるのか?

また、日本チームに立ちはだかる壁として登場した中国チームに王景陽や楊修平といった有力選手の動向も気になるところですね。