『ガンバ!Fly high(13)』ある意味原点回帰の五輪選考会(ネタバレ含む感想)
『ガンバ!Fly high』において一番印象深いチームが平成学園男子体操部であることに異論がある人は少ないと思います。序盤、ほとんどのエピソードで平成学園男子体操部というチームが主人公になっていましたからね。
しかし、アジア大会の選考会では初めて平成学園男子体操部のメンバーがライバル同士となり、ひとりアジア大会に出場して大活躍した藤巻駿を先輩たちがライバル視するようになっていき、五輪選考会では完全にライバル同士になっています。
そういう意味では作中の人間関係が大きく変化しているともいえ、人によって平成学園男子体操部がチームで戦っていた序盤こそが『ガンバ!Fly high』で最も面白い部分だと思う人もいれば、いやいやそんな互いを尊敬し合う仲間がライバル同士になる展開こそが面白いと思う人もいるでしょう。
ちなみに、僕は全てをひっくるめて『ガンバ!Fly high』という作品が好きな読者ですが、それでも何だか新しくて新鮮に感じられる五輪選考会のエピソードはかなり好きなところとなります。
主人公の藤巻駿ではなく、どちらかといえば三バカの一人である内田の視点になっているのが興味深い見所となります。
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本作の概要
五輪選考会の一次予選。アジア大会で活躍した藤巻駿に負けまいと奮起した内田は、藤巻駿と同じ組で演技に臨みます。
しかし、内田が藤巻駿をライバル視する一方で今までと同じでチームメイトのように内田を気に掛ける藤巻駿に、内田はプライドを傷つけられてしまいます。
それが演技の失敗に繋がり、藤巻駿も内田を傷つけてしまったことで演技中に混乱して失敗してしまいます。
しかし、そんなどん底からの戦いこそが平成学園らしい戦いなのだと冷静さを取り戻していきます。
本作の見所
内田のプライド
久々に再会した藤巻駿と内田は五輪選考会の一次予選で同じ組で演技をしていくことになります。内田は最初、軽口の冗談で藤巻駿に自分たちは敵同士なのだと言及しますが、恐らく冗談ではあっても半分は本心だったことが窺えます。
その証拠に、内田のことは眼中に無さそうな堀田や藤巻駿の悪気の無い言動から始まり、最初の跳馬では先に演技した藤巻駿から器具の調子を教えられてしまいます。
そして、チームメイトならまだしも、あくまでもライバルとして演技しているのにこのアドバイスはさすがに内田のプライドを傷つけてしまいます。
それで動揺した内田は盛大に着地を失敗してしまうのですが、その原因が自分にあると気付けていない藤巻駿は次の平行棒では自分の演技構成をメリハリの無いものにして、次の内田の演技を際立たせようとします。
跳馬の失敗から立ち直れていない内田はそこでも失敗してしまいますが、自身の予想と反して首の皮一枚繋がるような点数が出ます。そして、それが藤巻駿のおかげだと気付いた時に更にプライドを傷つけられて、後輩である藤巻駿に強く反発心を見せてしまいました。
すぐに試合中の選手、それも仲の良い後輩に対してぶつけるような不満では無いと仲直りしようとしますが、表面的には取り繕っても動揺は残ります。それは、ここで初めて自分が内田のプライドを傷つけるようなことをしたのだと気付いた藤巻駿も同様ですね。
一方はあくまでも相手を仲間として見ていて、一方は仲間ではあってもライバルだと見ていたことによるすれ違いでしょうけど、お互いに尊敬も信頼関係もある間柄だからこそ生じる衝突なので読んでいて胸が痛くなります。
平成学園の体操
「自分の失敗を藤巻のせいにしてブチ切れるなんて・・。まったく俺って奴は情けねえぜ・・クソッ・・」
藤巻駿に怒りをぶつけたことで、この時点で内田の方は少し冷静さを取り戻しているような気がします。しかし、これで藤巻駿が調子を崩したら今度は自分のせいだと悩んでしまうのですが、その不安は的中してしまいます。
得意であるはずの鉄棒の演技で藤巻駿はまさかの落下。落下しただけならまだしも、もともと不安定な精神状態で演技していたからか混乱してしまし自らの演技構成すら分からなくなってしまいます。
このままでは演技を再開してもまともな演技が果たして可能なのかという精神状態ですね。
そして、そんな藤巻駿を落ち着かせたのは内田でした。
「あの頃と同じだよ。こんなドン底からが俺達の体操だよ。本当の俺達の・・な」
お互いにドン底の状況。しかし、考えてみればいつもギリギリの戦いをしていたのが平成学園で、その舞台がランクアップしているだけなのだと内田は言います。
なんというか、内田って最初は後輩である藤巻駿を嫌っていたようなところもあったと思うのですが、一番センパイらしいセンパイであるようにも感じられますね。
新堂はともかく、三バカの三人は先輩というよりは仲間という印象が強かったですが、このシーンの内田は本当に良い先輩らしくて格好良いと思います。
そして、藤巻駿は完全復活。一度失敗した技をもう一度決めても得点にはならない・・にもかかわらず、失敗したトカチェフ前宙を決めて精神的に完全に復活していることを示します。こんな体操も、まさに平成学園の体操という感じですね。
地味な真田
藤巻駿と内田が良い先輩と後輩の関係を見せてくれましたが、今度は真田がそれを見せてくれます。ただし、真田は先輩側ではなく進学先の清琉大学の後輩の立場として描かれていますが。
平成学園の男子体操部、とりわけ三バカはとても目立ちたがり屋でしたが、頭一つ抜けてその筆頭だったのは真田だと思います。中学時代の種目別選手権の床の演技では伸身ムーンサルトでボディプレスを決めて目立っていたのが印象的ですよね。(笑)
しかし、今回は清琉大学の先鋒として先輩たちに地味だが堅実な演技を強いられています。髪形も地味になって、なんとも真田らしくない。
真田らしくなさすぎて何故か内田がキレています。キレすぎて、見かねた折笠麗子がグーで殴って止めようとするくらいです。(笑)
目立ちたがり屋の真田がそういう地味な立ち居振る舞いに甘んじているのは、先輩たちに抑えられているからで、真田はそのことに疑問を持ち始めています。
しかし、それは才能はあるのにすぐに目立とうとして無謀な演技をしてしまう癖のある真田を抑えるための先輩たちの心遣いでした。
平成学園のやり方とは違いますが、こういう先輩後輩の関係も良いですね。
アンドレアノフの帰還
『ガンバ!Fly high』における師匠ポジはアンドレアノフですが、そんなアンドレアノフとの別れが描かれています。
アンドレアノフが去った理由の一つに岬コーチを女性とみてしまいそうになるというのがあるのも気になる所ですが、いずれにしてもここから藤巻駿の体操が始まるということを感じられさせますね。
総括
いかがでしたでしょうか?
『ガンバ!Fly high』の主人公は藤巻駿であり、ほとんどのエピソードでは藤巻駿こそが主人公なのだと分かりやすく描かれています。
しかし、文庫版13巻に該当する五輪選考会の予選のエピソードでは、ほとんどが内田、そして真田が主人公になっているようで、とても新鮮味があるように感じられました。
特に内田は作中の序盤では後輩である藤巻駿を目の敵にしていたこともあるキャラクターなのですが、それがこのような互いに信頼と尊敬があるような関係になっているのが感慨深いですね。