『ヒカルの碁』の名場面、名台詞から囲碁を学ぼう!(その6)
ヒカルは少年漫画の主人公としては負けることの多い主人公です。格上相手にも良い勝負はしても結果的には敗北することはほとんどで、格好良く勝利を収めているシーンでは単純にその時点でヒカルよりも格下になっているだけだったりします。
とりわけ『ヒカルの碁』の作中でヒカルの負けが続いていることで印象的なシーンと言えば、院生になったものの2組で成績不振に陥っているところなのではないでしょうか?
今回はそんな成績不振のヒカルに対して友人であり師匠でもある佐為がした指摘についてのお話です。
今回の名場面・名台詞
ヒカルが院生2組で不調の頃に佐為から自分と打っているから勝てなくなっていると指摘されるシーンについて
ヒカルは成績不振の自分に苛立ち、どうして佐為ほどの実力者と打ち続けているのに成績が上がるどころか下がってしまうのかという疑問を佐為にぶつけます。
それに対する佐為の答えは、それは自分と打っているからこそなのではないかという相反するものでした。
佐為と打っているから勝てるようになるはずと考えるヒカルと、佐為と打っているから成績不振に陥っていると考える佐為。
そんな矛盾した考え方を、僕は一番最初に『ヒカルの碁』を読んだ時には理解することができませんでした。理解できませんでしたけど、雰囲気で何となく佐為が格好良いなぁと楽しんでいただけでした。(笑)
佐為の説明する理屈。ヒカルがある程度強くなってきたからこそ、以前は闇雲に佐為に立ち向かっていたのに、そこに恐れが混じって手が控えてしまうようになってしまったというのがヒカルの成績不振の原因であると佐為は分析します。
その理屈になるほどと思いつつも、「いやいやそこは実力が全てで、もちろん同じくらいの実力だと多少の誤差はあってもある程度強い方が勝つだけなんじゃないの?」という風に当時の僕は思っていたものです。
しかし、実はこの成績不振時のヒカルを彷彿とさせるようなスランプに陥ることって珍しくないと思うのです。少なくとも、僕は長く囲碁を楽しんできた中でこのシーンを思い出すようなスランプに陥ってしまったことが何度かありました。
もともと勝てていたような相手に何故か勝てなくなり、打っている時の感覚的には相手が自分よりも格上とは思えないし、事実序盤中盤までは優勢に打ち進めたりしているのに何故か勝ち切ることができない。
そして、そのようなことが何度も続くようになってしまうのですね。
そんなスランプの原因についてはこちらの記事で過去に言及しているのですが、「勉強が過剰になること」「強気な手が増える」「弱気な手が増える」という三つが原因なのだと分析しています。
その内三つ目の「弱気な手が増える」という部分が本記事の趣旨となるのですが、要は相手の実力を信頼しすぎてしまうあまり自分の打つ手に自信が持ちきれず弱気な手を打ってしまうという現象ですね。
これは理屈は分かるけど本当にそんなことがあるのか、あったとしても勝敗に直結するほどのものなのかと疑問に思う人も多いと思います。しかし、経験してみると分かるのですが、これは本当にあり得ることなのです。
僕の場合は、特に大石が頓死してしまうような負け方を繰り返してしまったような後に、たぶん無意識に戦いを避けてしまっているからなのか僅差の作り碁になって負けてしまうような状態が続くことがたまにありますし、今では分かっていてもたまにそういう状態になってしまいます。
不思議なもので、分かっていてもそういう状態になった後に負けた棋譜を検討してみると、必要以上に固く打っている手に気付いたりすることもあります。
というわけで何が言いたいのかというと、佐為のこの格好良い指摘はただ格好良いだけではなく、意外と囲碁におけるスランプの状態を本当に分かりやすく表現しているのではないかということなのです。
これが実感できるほど囲碁にのめり込むファンは『ヒカルの碁』の読者でも少ないとは思いますが、もし真剣に囲碁を趣味にしていてスランプに陥ってしまうようなことがあれば、このシーンを思い出してみると良いかもしれませんね。