『ガンバ!Fly high(14)』自分の楽しい体操を求める話(ネタバレ含む感想)
『ガンバ!Fly high』において重要なウエイトを占める「楽しい体操」というキーワードがあります。
楽し気で個性的な演技で観客を沸かせる平成学園の体操の根源にはやっぱりアンドレアノフコーチの指導があります。
これまでの藤巻駿たちの「楽しい体操」は、ある意味ではアンドレアノフの体操であるとも言えますね。
しかし、13巻のラストでアンドレアノフは平成学園の元を去ります。自分の「楽しい体操」を見つけるための自立を促すために。
大学への進学というのも節目ですが、藤巻駿がどのような自分の楽しい体操を見つけるのかが楽しみな14巻です。
?
本作の概要
アンドレアノフが去った後、藤巻駿は自分の楽しい体操を見つけるための大学進学先に悩みますが、そこで選んだのはお世辞にも体操選手にとって恵まれた環境とはいえない大学でした。
しかし、その明鏡学院大学でこそ自分の楽しい体操を見つけられると感じた藤巻駿はそこを進学先に選びます。
藤巻駿の補助としての実力を認められた上野とともに、新たな楽しい体操が始まります。
本作の見所
自分の楽しい体操
14巻の前半は、ほぼ藤巻駿が上野とともに自分の楽しい体操を見つけるための進学先探しに奔走するエピソードになっています。これまでも『ガンバ!Fly high』にはこういう日常寄りのエピソードが閑話に描かれていることがありましたが、試合でも練習でもないエピソードがこれほど長く描かれているのは作中通してもここだけなのではないかと思います。
それだけ、アンドレアノフの楽しい体操ではなく、自分の楽しい体操を見つけるということが大切なことだと据えられているということが分かりますね。
アジア大会の銀メダリストである藤巻駿には、立派な設備にコーチが用意された大学からの誘いがあります。
「用意されているもの・・それを受け入れるだけで、それが自分の体操を見つけることになるのかな?」
しかし、藤巻駿はそんな用意された環境に疑問を持ちます。
なるほど。確かに体操競技に限らず様々なスポーツにおいても大学ごとの個性はあるもので、そういったものを受け入れてもそれは自分の体操とは言えないのかもしれませんね。
そして、そんな藤巻駿のお眼鏡に適ったのは明鏡学院大学という四流大学でした。
入学者は減少傾向で、それを打開するためにスポーツ特待生をダメ元で募っており、知らずに訪れた藤巻駿を詐欺まがいの手段で強引に入学させようとするような大学で、最終的に藤巻駿に提供できるのはまるで倉庫のような体育館のみという状況でした。
しかし、そんな環境だからこそ自分の楽しい体操を見つけることができるのではないかと藤巻駿は明鏡学院大学に入学を決めたわけですね。
ちなみに、明鏡学院大学の教員で体操部の部長に任命された山崎の頑張りは見所のひとつなので注目して欲しいところです。この山崎の頑張りが、藤巻駿が明鏡学院大学への入学を決めた一因であることも間違いないと思います。
選手のためのものを用意できなかった大学にこそ価値を見出すという変わった選択ではありますが、それが面白いところだったのではないかと思います。
藤巻駿以外の自分の体操
明鏡学院大学の練習でさっそく高難度の新技を身に付けている藤巻駿を見て、真田もまた触発されます。自分の体操という言葉自体は使われていませんが、プロレスに転向した東と協力して新たな境地を目指して練習していました。
一次選考会のエピソードでは内田の方が優遇されているようなところもありましたが、二次選考会のエピソードでは真田の活躍が目立ちましたね。
鉄棒では持ち技のイエーガーを更に進化させ、得意の床では東と練習したらしい新技は温存していたにも関わらず嵯峨に勝利します。
これは最終選考では一体どんな新技を見せてくれるのかが楽しみになってきますね。
そして、そんな真田に敗れはしたものの、一番興味深いのは李軍団の嵯峨なのではないかとも思います。
嵯峨の回想シーンでの李東生は、アジア大会に自分の教えを超えた活躍を見せた嵯峨に自分の体操に自信を持つように応援します。
徹底的に完璧な体操を選手に求めるスタイルの李東生は、アンドレアノフの楽しい体操とはある意味では対極にあるとも言えます。実際、この二人が敬遠の仲であるということに異論のある読者はいないことでしょう。
しかし、最終的に自分の教え子に求めるものが「自分の体操」であるという点に行きつくというのは興味深いですよね。
道は違えど行き着く先は同じというか、そういうことなのかもしれませんね。
まあ、「自分の体操」という言葉は「個性」とも言い換えることができますし、李東生は自身の完璧な体操から「個性」というものを徹底的に排除しようとしていたところがあったと思うのですが、教え子の成長がその考えに柔軟さを与えたのではないかと思っています。
総括
いかがでしたでしょうか?
いよいよ五輪選考会のエピソードも佳境で、次巻では五輪の出場選手も決まりそうですよね。
五輪に突入したら、いよいよ『ガンバ!Fly high』の全体通してのクライマックスも近く、一話一話から目が離せません。