『ガンバ!Fly high(2)』さすらいの転校少女の逆上がりのエピソードが素敵すぎます(ネタバレ含む感想)
懐かしの『ガンバ!Fly high』。文庫版2巻の感想となります。
原作はプロの漫画家ではなく元オリンピックの体操選手である森末慎二氏ということですが、はっきり言って下手なスポーツ漫画よりもはるかに素晴らしい人間ドラマが描かれている名作だと改めて思い知らされます。
おばあちゃんの鉄棒の設定なんて素敵すぎますよね。
また、1巻では主人公の藤巻駿が超絶初心者だったのでかなり基礎的なことばかりしている印象でしたが(それが良いんですけど)、おばあちゃんのコーチで上達した藤巻駿たちは既に体操の素人である僕から見たら人外にしか見えない技をこなすようになってきています。
そういうわけで体操の演技的な意味でも1巻より読みごたえが出てきた印象があります。
また、2巻ではメインヒロインである相楽まり子も初登場します。
遅れてやってきて、そして早々に去っていく。フィクション作品のメインヒロインの扱いとしては非常に珍しい気もしますが、個人的には相楽まり子というヒロインが・・というよりも藤巻駿と相楽まり子の関係性がかなり好きだったりします。
たぶん初めて読んだ人は折笠麗子がメインヒロインだと感じるくらい、登場タイミングが遅かったり、ちょっと地味目だったり、意外なメインヒロインという感じのキャラクターですが、ものすごく一途な良ヒロインだと思います。
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本作の概要
岬コーチによって平成学園体操部の練習場から鉄棒を撤去されてしまった藤巻駿たちは、鉄棒の練習場所を求めておばあちゃんの鉄棒にたどり着きました。
しかし、おばあちゃんの鉄棒で遊ぶ子供の一人である光太郎がおばあちゃんの言いつけを破って他の鉄棒で技をして怪我をしたことで、おばあちゃんの鉄棒は取り壊しの危機に晒されます。
そんな鉄棒で技を磨く平成学園体操部の男子部員たちは取り壊しを阻止するために、おばあちゃんの鉄棒の素晴らしさを主張する演技会を開催します。
そこでは何とかおばあちゃんの鉄棒を守れた藤巻駿たちですが、次は夏の大会で6位以内にならなければ廃部という危機に陥ってしまいます。
キャプテンの新堂の怪我などのハプニングに見舞われながらもおばあちゃんのコーチで技を磨いていく平成学園男子体操部は、それぞれの必殺技を身に付けて大会に臨みます。
また、そんな地区大会に向けて奮闘する中、さすらいの転校少女である相楽まり子が女子ではなく男子体操部に入部してきます。
遅れて登場してきたわりにすぐに、しかも大会の当日に転校していってしまう相楽まり子ですが、実は最後の最後まで主人公の藤巻駿を支えるメインヒロインになっていきます。
本作の見所
おばあちゃんの鉄棒
平成学園の男子体操部。藤巻駿たちはおばあちゃんの家にある鉄棒に育てられます。
メインキャラクターにとって始まりの場所というか、いつまでも思い出の場所になるような場所があるという設定は少なくないと思いますが、『ガンバ!Fly high』におけるその場所がこのおばあちゃんの鉄棒であることは間違いないと思います。
こういうのって本当に素敵ですよね。
しかし、そんな場所はいきない取り壊しの危機に晒されます。
おばあちゃんにムーンサルトを教わった近所の子供の光太郎。その母親がおばあちゃんの鉄棒を危険視したのがキッカケです。
「これから・・ボク達は演技会をします。鉄棒を撤去するかどうか・・それを見てから決めてください!」
危険だからと言われたら、それをなかなか反論というか、覆すことは通常難しいのではないかと思われます。
それを一体どのように鉄棒を守るのか?
ただただおばあちゃんを素晴らしいコーチなのだと主張したり、自分たちにとっての必要性を主張したり、それだけでは足りないような気もします。
そして、その主張の仕方がまた体操のことを知らない読者にとっては「へぇ~そうなんだ」と思わされるような、ちょっとした豆知識になっています。
「この鉄棒をなくせば、もっと大変な事になります。今からそれを証明します!!」
この鉄棒があるから子供が怪我をする。
それに対して、この鉄棒を無くすことの危険性を藤巻駿たちは主張しようとします。
この時点で、体操のことを全く知らない人なら「?」ってなりますよね?
たしかに、危険だから鉄棒を撤去しようとする人に対して、それがもっと大きな危険に繋がるのだと主張できれば効果はあるでしょうけど、一体どのようにそう主張するのかが興味深いところ。
もっとも体格の大きな東が二回宙返り降りを演じて見せて、光太郎のムーンサルトはそこに更に捻りを加えたものなのだと説明する藤巻駿。
それを聞いた光太郎の母親は、大人顔負けの体格の東以上の技を子供ができるわけがないのだと怒りを強めますが・・
高さと回転力が重要な技を決めるのに必要なのは力ではなく、おばあちゃんの鉄棒なのだと冷静に説明します。
重要なのは「しなり」。
確かにテレビで見る体操競技の鉄棒は、驚くほど柔らかくしなっています。
そして、光太郎が怪我をしたのはおばあちゃんの言いつけを破って技を決めた固い鉄棒。
藤巻駿は、おばあちゃんの鉄棒が無くなったら光太郎はより危険な固い鉄棒で技を決めようとするかもしれない。そのように主張したかったのだと思います。
なんというか、鉄棒に対する理解が一気に深まったような気がするエピソードでした。
メインヒロインの相楽まり子
繰り返しますが、『ガンバ!Fly high』のメインヒロインである相楽まり子の登場の仕方が結構珍しいです。
初登場時期が遅い上に、すぐに転校して一時退場してしまう。
漫画作品のメインヒロインの扱いとしてこれは非常に珍しい・・ですが、結果的にこのような展開になったことが相楽まり子をとても存在感のあるメインヒロインにしているところが興味深いところ。
初登場の出会いと別れが立て続けにやってきて、続巻のネタバレにもなってしまいますがその後大きく二度にわたり再会のエピソードがあります。
ともすればスポーツ漫画のヒロインって空気になりがちなところがあると思うんですけど、あえて・・なのかは分かりませんが主人公から引き離すことで逆に定期的に存在感を引き立てている。
また、こう言ってはなんですがメインヒロインとしては可愛すぎないのも特徴で、そういうところが逆に魅力的だったりします。
僕の場合、原作より先にアニメ版の『ガンバリスト!駿』を見ていましたが、完全に折笠麗子がメインヒロインだと思っていたくらいですし、相楽まり子のことは正直あまり好きなキャラクターではありませんでした。
子供視点ではかなり地味な女の子のキャラクターに見えたからです。
その良さに気付いたのはもっと大人になった後からとなります。
地味でドジで、転校する先々の学校では女の子に付けるにはちょっとと思ってしまうようなあだ名を付けられてしまったり、苦手な人には苦手そうなテンションで話す相楽まり子。
それに、転校の繰り返しで猫かぶりな処世術を身に付けているのでそんな事態にはならないものの下手をすればいじめられっ子になっていそうな女の子には正直惹かれませんでしたが、とても健気で一途で、そもそも出会いと別れと再会のシチュエーションがドラマティックで感動的。
いつの間にか、そんな相楽まり子のことをとても素敵なヒロインだと思うようになっていました。
さて、そんな相楽まり子が転校してきたのは藤巻駿たちに2か月後の大会で6位以内に入らなければ廃部という事態になってしまった後で、次に転校していくのはなんと大会の当日。(実際に去っていくエピソードは大会が終わる次巻となります)
つまり、平成学園の体操部にいたのはたったの2か月以内なんですよね。
「もしよかったら・・私に「逆上がり」教えてくれません?」
運動音痴の相楽まり子が藤巻駿に逆上がりを教えてもらいはじめて、それができるようになるまでの期間でしかないのです。
「どうしてそんなに急ぐの? もしかしてまたどっかへ転校するの?」
「もーっ、藤巻クンにはかなわないな! そう! あたしはさすらいの転校少女!! 同じ場所に長くはいられない運命ってね♡」
大会前日の合宿中に、逆上がりの完成を急ぐ相楽まり子を見て、藤巻駿が転校を察してしまうシーンも素敵です。ずっと別れを悲しんで泣いていたのに、そんな様子を大会直前の選手には見せようともしない相楽まり子が健気です。
それでも大会当日に転校するとは言えなかったのには胸がキュッとしてしまいます。
「出来なかった事が出来るようになるって、うれしいね! ガンバるって素敵だね!」
そして完成した相楽まり子の逆上がり。
『ガンバ!Fly high』は体操漫画なので、やっぱり高難度の人外のような技を藤巻駿たちが完成させていくところが感動的だったりしますが、この逆上がりのシーンもまたそれらに負けないくらい感動的だったのではないかと思います。
必殺技
6位以内が義務付けられた夏の大会。
明らかに主人公の藤巻駿を活躍させるために怪我をしてしまった新堂キャプテンが若干可哀そうですが、出場者がそれぞれ審判にアピールするために得意種目で必殺技を身に付けていく展開が激熱ですね。
確かに、テレビで見る体操競技もオールラウンダーが戦う個人総合も面白いですけど、それとは素人目にも迫力の違う種目別がまた面白かったりしますし、どこかにパンチがあればアピール力は高いのかもしれません。
跳馬の内田。本来は床が得意だけど今回は鉄棒で必殺技を身に付けた真田。そんな床では東が大人顔負けの力技を披露します。
特に、床の演技には昔から軽やかなイメージを持っていたこともあって、力技で魅せる東の演技には興味を惹かれました。
作中全体でもトップクラスに印象に残っている演技かもしれません。
はじめての大会では散々だった藤巻駿も片手技を武器に大活躍していますし、これでもかというほど平成学園の男子体操部は絶好調です。
しかし・・
「おばあちゃん少し・・勢いがつきすぎているんじゃ・・」
そんな選手たちを見て不安を口にしたのは折笠麗子。
本番で練習以上に力が出すぎるという現象は、体操に限らず、それこそスポーツに限らず起きる現象だと思いますが、調子が良すぎて失敗するという経験は多かれ少なかれ誰にでもあるもの。
まあ、今巻のラストシーンがすべてを物語っていますが、さて平成学園の男子体操部はこのピンチを乗り切ることができるのか。それが次巻の見所になるのではないかと思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
6位以内の成績を取らなければ廃部という条件下で臨んだ夏の地区大会のエピソードが始まりましたが、これは個人的に『ガンバ!Fly high』という作品を面白いと思い始めるキッカケでもありました。
当時小学生だった僕はアニメ版の『ガンバリスト!駿』から本作品に触れたのですが、最初は何気なく見ていたのに、夏の地区大会で平成学園の部員たちが必殺技を披露していくのを見て強く興味を惹かれたのを覚えています。
具体的には東伝次の床の演技のエピソードあたりだったのですが・・
巻末のおまけ対談でも、連載時に人気が出始めたのが丁度この回らしいことが語られていて、「あっ、僕が『ガンバリスト!駿』を面白いと思い始めたエピソードとドンピシャだ」と思いました。
おばあちゃんは審判員へのアピールとして平成学園の部員たちに一種目の必殺技を身に着けさせたわけですが、それが読者や視聴者へのアピールにもなっていたのかもしれませんね。
いや、だってあの床のエピソードってかなり強烈でしたから。
そんな地区大会の結末は次巻となりますが、果たして6位以内に入賞することができるのか否かが見所ですね。