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『図書館の大魔術師(3)』美しすぎる第一章完結巻の感想(ネタバレ注意)

 

なんて素敵で、綺麗で、美しいのだろう。

そして、それが第一章でしかないなんて、なんて壮大なのだろう。

・・と、そんな風に感じさせてくれた漫画作品となります。

図書館の大魔術師の1巻を読んだ時に僕が抱いた感想は、実のところ肯定的ではあってもそこまで絶賛しようと思うほどではありませんでした。

2巻のレビュー記事にも書いた通り、とても高品質な漫画であるという印象は1巻を読んだ頃から持っていました。しかし、同じく2巻のレビュー記事で触れた通り読み進める内にいつの間にかグッと引き込まれていくような魅力がある作品だということもあって、1巻を読んだ時には図書館の大魔術師の魅力に完全には気付けていなかったわけですね。

いや、正確には1巻の時点でも凄い名作であることに気付いてはいたのですけど、2巻3巻と読み進める内にその度合いの認識が甘かったことに改めて気付かされました。

これは名作ではない。

超名作なのだ・・と。

いや語彙力しごとしろ!(笑)

・・って感じの陳腐な言葉でしか言い表せませんが、とにかく「図書館の大魔術師って素晴らしい作品が世の中にはあるんだよ」ということを言いたいわけです。

ちなみに、僕はこうして何かしらのレビュー記事を書く時には、比較的安易に「面白かった」という表現を使っていますが、なんとなく図書館の大魔術師に対しては安易に「面白かった」という表現の感想を使いたくないと考えています。

それは何故か?

それは、図書館の大魔術師には「面白い」ということ以上に特筆すべき良さがあると思っているからです。

いや、もちろんフィクション作品において「面白い」というのは当たり前のことで、僕が今まで読んできた作品にだって「面白い」以上の何かがあったのは間違いないと思うのですが、特に図書館の大魔術師からは強くそれを感じられたというわけですね。

強く強く心に響く作品で、3巻を読んでその思いはより一層強くなりました。

短いスパンで新キャラが入れ代わり立ち代り登場する作品でもありますが、その短い間にそのキャラクターのことをたやすく感情移入できるほどに深く描いていて、こんなに完成度の高く、センスを感じさせる作品は他にちょっと例が思い浮かびません。

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本作の概要

司書(カフナ)になるための試験は筆記・面接・実技の3つから構成されています。

筆記試験を終えたシオは、面接試験では何を話したのかわからなくなるほど緊張し、最後には大粒の涙を流しながら終えてしまいます。

実技試験で挽回を狙うシオでしたが、実技試験はなんとチーム戦。

クリークとヒューロンの混血の少女オウガと、自身の能力に絶対の自信を持っているけどかなり用心深い少女ナチカ・クアパンという癖の強い2人がシオのチームメイトとなります。

司書試験のクライマックスとその結果。そしてこれからに向けての第一章のエピローグが描かれた一冊となります。

本作の見所

重要そうな新キャラ4名

前述した通り図書館の大魔術師には短いスパンで新キャラが次々と登場します。

そして、その誰もが魅力的でもあります。

個人的には2巻に登場したミホナが好きなので、好きなキャラクターがずっと出番が無くなるのは寂しいところですが、こうして出会いと別れを繰り返していく感じも嫌いではありません。

図書館の大魔術師の場合は本当にどのキャラクターも個性的で生きた感じがするのですぐに好きになれてしまいますが、その分出番が無くなった後の寂しさも一塩ですね。

とはいえ、そういう部分も図書館の大魔術師という作品の魅力のひとつなのだと思います。こういうファンタジー作品では、いわゆるパーティのような感じで主人公を取り巻く仲間は基本的に行動を共にしていくことが多いですが、あくまでもシオは一人で司書になるために奮闘しているということの表れなのでしょうか?

たくさんの出会いと別れが少しずつシオを形作っていく感じが素敵だと思います。

そして、3巻では気になる新キャラが4名登場していました。

一人は仮面の民族であるカドー族の少女サラ・セイ・ソン。面接試験の前にピリピリしている他の受験者に絡まれているところをシオが助けたのですが、仮面で顔が見えないのに表情が豊かに感じられる面白いキャラクターです。

出番は一瞬でしたがかなり印象が強かったと思います。

二人目はクリークとヒューロンの混血の少女オウガ。本作品には珍しい露出度高めの衣装が印象的な快活な印象のキャラクターですが、一見軽薄そうに見えて芯が強く、誰よりも人を見る目がある観察眼がある侮れない少女です。

三人目はオデコの輝きが異彩を放っている少女ナチカ・クアパン。自信過剰で他者を見下しているところがあって第一印象はよくありませんでしたが、シオとオウガとチームを組んで実技試験に臨む姿を見ている内になんだか憎めなくなってきました。

非常に用心深くて「念の為」が口癖なところも、ある意味チームメイトを信用できていないということでもあるのですが、実際問題として初対面の人間を完全に信用するのは難しいものです。

個人的に、なんだかこういう用心深さには共感できる部分があるので読んでいて少しハラハラしてしまいました。(笑)

そして四人目は、中央図書館の総代の老女コマコ・カウリケ。主人公がひょんなことから一番のお偉いさんに目をかけられる展開はフィクション作品の定番のひとつですが、コマコ・カウリケとの遭遇はそれに近しいものがあります。

シオの今後にも大きな影響を与えそうなキャラクターですよね。

絶対に失格になる実技試験

3巻で一番面白いのはやっぱり実技試験のエピソードだと思います。

オウガとナチカの2人とシオはチームを組んで試験に臨むことになりますが、最初はデコボコトリオという感じでなかなかうまくいかなかったのが徐々に息が合っていく雰囲気が素敵でした。

しかも、3人が3人とも活躍の場がちゃんとあるのが良いところ。

最初に活躍したのはオウガで、シオやナチカの性質を正確に見抜いた上でチームがうまく回るようにコントロールしていきます。

自分の能力に自信があるナチカがリーダーを買って出ますが、それを許容したうえで実はナチカがリーダーには向かない性質であることを見抜いて裏側からコントロールしている感じが、実は誰よりもリーダー気質だったのではないかと思わされます。

一見軽薄そうに見えるキャラクターなだけに、こういう活躍の仕方は想定外でした。

そして、シオもまた主人公らしく課題の解決に向けた最大のヒントを見つけ出します。少し自信喪失気味だったシオでしたが、諦めずにヒントを探し続け、別の班の人に聞きに行くという試験ということを考えたらおきて破りな行動を見せたり、独特の活躍を見せていました。

そして決め手がナチカでした。能力的には最も優秀だと思うのですが、オウガの言う通りリーダーには向かない性格・・どころか明らかにチームプレイを苦手にしている性格のナチカは、なかなか他の2人を信用することができませんでした。

いわゆる完璧主義者で、「念の為」という言葉を常に繰り返しているのが印象的なキャラクターなのですが、現実でもこのタイプほど集団行動に向かない人はいませんよね。

一番上司にしちゃあいけないタイプです。

人の上に立つ者は、失敗を恐れるのではなく失敗に寛容であるべきですからね。

しかし、ナチカはシオとオウガの2人に急かされ、最後には正解を導き出すことに成功しました。

まあ、結果は失格だったのですが・・

他の失格になった班では揉め事が発生しているのに対し、シオたちは最初バラバラだったのにいつの間にか仲間のようになっていたのが印象的でした。

ちなみに、この試験は必ず全員失格になるようになっている意地悪なものだったらしく、正解に至る『過程』を見られていたようです。

広い図書館で一人で仕事できる者などいない。

だからこそのチームでの実技試験だったのだと言われれば納得ですね。

シオが他の班の者に質問したのが咎められなかったのも、試験の性質を鑑みればむしろプラス材料だったのかもしれません。

サキヤとの別れのシーンが泣ける

実技試験が失格だったものだから、その試験の性質を知らないシオは自分が不合格になっているものだと思い込んでいました・・が、その結果は合格でした。

しかし、司書試験を終えてアムンの村に帰ってきていたシオはサキヤとも再会していたのですが、本格的に司書になると次の別れはもっと長いものになるのかもしれません。

そして、本当はシオと一緒にアムンの村の図書館で一緒に働きたいと思っていたサクヤは、一度はシオの試験結果が不合格になって欲しいとまで心の中で思ってしまっていました。

こういう長い別れって、現代社会ではそうそう経験することはありませんし、距離的な問題はこういう中世的なファンタジーの世界に比べたらあって無いようなものなのだと思います。

それでもこの時のサクヤの内心はなんとなく理解できますね。

とはいえ、寂しさだけではない色々な感情が複雑に混じりあっていそうで、言葉にするのが難しい気もしますけど。

「ずっと応援してるから!! この先誰と出会っても! 世界で一番!! 私がシオを応援してるから!!! だから・・私のこと、忘れないで・・」

最後の「だから」以降が一番の本心だったんでしょうね。

こういう嬉しいはずなのに寂しい別れって、いつ見てもグッとくるものがあると思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

第一章の3冊通しての感想になりますが、作品によっては「そして〇か月後・・」みたいな感じで一気に飛ばされてしまいそうなエピソードを、丁寧に、本当に丁寧に3冊にまとめ上げたという印象の第一章でした。

間違いなく、ここ数年で読んだ漫画作品の中では最も満足度の高い作品だったと思います。

思い出補正の強い過去に読んだ作品と比較しても遜色ありません。

次巻が4巻になるのか、それとも新章の1巻になるのかは分かりませんが、いずれにしても最も続きが楽しみなファンタジーです。

そして、読んだことが無い人は試し読みとかでどのページでもいいから一度開いてみてください。

どのページを開いても精緻に書き込まれた美しい絵に目を奪われるはずです。

そして、その美しい絵に見合った内容であることも断言しておきます。