あるいは 迷った 困った

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『ガンバ!Fly high(3)』鉄棒といえば藤巻駿という最初の一歩が感じられる一冊です。(ネタバレ含む感想)

 

ガンバ!Fly highの文庫版も3巻目になりますが、一気に全巻読み返すのも面白いですけど、文庫版発売日に合わせて少しずつ読んでいくのも味わいが合って良いですね。

また、これだとかなりゆっくり読み返すことになるので、何度も繰り返して読んだ作品のはずなのに新たな発見に気付くこともあってとても楽しいです。

例えば、3巻にある高原万由美のエピソードあたりが個人的に久しぶりに読んで随分と印象の変わったエピソードでした。

やっぱり藤巻駿たちが体操の練習をしていたり、試合に出場しているシーンの方がインパクトがあって面白いですし、スポーツ漫画である以上そこが見所になるのは当たり前の話なのだと思います。

だから高原万由美のエピソードは少し退屈というか、全巻読み返しているような時にはサラッと流してしまっているようなところがありました。

しかし、今回は文庫版をゆっくり読んでいたので、結果的に高原万由美のエピソードもジックリ読むことになり・・

そして気付けば大きく感動している自分がいました。

あれっ、ここってこんな良いシーンだったっけ!?

何度も読んでいるはずなのにそう思わされる部分もあるという、こういうことがあるから僕は、本作品に限らず読んだことのある作品、あるいは既に全巻持っている作品の文庫版をたまに読みたくなってしまうのかもしれません。

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本作の概要

6位以内の成績を取らなければ廃部という条件下で臨んだ夏の地区大会。とても好調な平成学園男子体操部でしたが、好調すぎました。

最後の鉄棒の演技、一人目の東は絶好調な演技を見せていましたが着地で目を回して審判席へダイブ。次の演技者の内田も藤巻に乗せられて委縮せずに演技できましたがこれまた鉄棒から落下する大失敗。

絶望的な状況の中、真田は最高の演技を披露して最終演技者の藤巻に望みを繋ぎますが、例年より全体の平均点が高かったため6位入賞するためには藤巻が9.5以上の高得点を出さなければならない絶望的な状況に追い込まれてしまします。

誰もが諦めかけ、有終の美を飾ろうと不安そうな藤巻の背中を押すのですが、そこで藤巻は奇跡的な演技を見せます。

見せるのですが、得点は9.4と6位以内には一歩とどきませんでした。

しかし、平成学園男子体操部は種目別では全て優勝という成績を収めていて、それが認められたことで廃部の危機は免れました。

本作の見所

藤巻駿の鉄棒と相楽まり子の転校

3巻時点における藤巻駿の凄さは、地区大会の種目別鉄棒で優勝するくらいにまでなっているとはいえ今後の成長のことを考えるとまだまだという気がします。

しかし、後に鉄棒のスペシャリストとまで言われることになる片りんは見え始めていますね。

真田の、体操部の未来のかかる失敗しやすい放し技(イエーガー)を必死で決める鉄棒シーンも超絶格好良かったのですが、良いところは全て藤巻が持って行ったまであります。(笑)

藤巻の演技前、求められる得点は9.5以上なのに9.0の演技構成しか持たない藤巻を、相楽まり子が藤巻が諦めなかった未来を語ることで元気づけるシーンはかなり独特だけど得も知れない素敵さがあると思います。

「10点満点!! 日本の藤巻、金メダルです!!」

これは藤巻が平成学園の体操部に訪れた最初に語った夢で、それを諦めたような顔をしている藤巻の代わりに相楽まり子が改めて語ったような構図になっています。

つまり、これは主人公とヒロインの夢が共有されるものとなった瞬間のシーンだとも言えるのではないでしょうか?

「このまま体操部はなくなっちゃうかもしれない・・でも夢まではなくさないで!藤巻クンの夢はあたしの夢なんだよ。そして・・いつかきっと・・みんなの夢になるわ!」

なんて素敵なセリフなんでしょうか!

そして、こんな風に応援した後に待っているのがお別れという切なさが半端ではありません。

本作品の原作は森末慎二氏とのことですが、こんな素晴らしい展開を本職の漫画家ではない人が考えられるなんて、天は二物を与えすぎですね。(笑)

「藤巻クンに会えて良かった・・藤巻クンが好き・・」

これは直接相楽まり子が放ったセリフではありませんが、少年向け漫画のヒロインでここまでストレートに主人公への好意を表すキャラクターって珍しいような気がします。

ですがそれが相楽まり子というキャラクターの良いところ。

「相楽さん・・ボク・・相楽さんの事・・」

そして、最後の別れ際に藤巻が言おうとしたこと。それは完全に濁されていますが、なんとなく藤巻自身が自分の中にある気持ちの整理が付いていなかったのではないかと推察されますね。中学生男子なんてそんなものです。(笑)

しかし、これまた少年向け漫画にしては珍しくかなり序盤から相思相愛に近い関係が築かれたのではないかと思います。

作品通しての中盤以降のネタバレになりますが、この別れから再開した後の流れは本当に素敵なんですよね。

ガンバ!Fly highはジャンル的にはスポーツ漫画、体操漫画なわけですが、藤巻と相楽まり子の関係に限らず実は恋愛的なエピソードのクオリティが非常に高いのも特徴だと思います。

森末慎二氏恐るべし・・

ジュニア合宿と三回宙返り

6位以内には入れなかった夏の地区大会ですが、種目別を制覇したことで注目度の高まった平成学園男子体操部。

実力的にはまだまだなのに凄い奴ら感を出す展開が今思うと凄いですよね。

子供の頃、初めて読んだ時はこの時点で平成学園男子体操部の部員達ってすごい選手たちなんだって思っていましたけど、それこそ審判アピールのための田所のおばあちゃんの作戦が読者にも効いていたってことなのだと思います。

参加校数的には7位というのは平凡もいいところのはずなのに、漫画のメインキャラクターらしく格好良くドラマが描かれているのがマジで凄い!

そして、目立ちに目立った彼らはジュニア合宿へと招待されるのですが・・

「なーんか俺たちって情けなくねぇ?」

「レベルが違いすぎる・・」

三バカ先輩たちは周囲のあまりのレベルの高さに気おされ気味。

考えてみれば、得意種目はともかく地区大会7位という平凡な実力でトップクラスの合宿に参加すれば当たり前の結果なのかもしれません。

しかし、藤巻は違います。もちろん実力はまだまだなのですが、積極的にこの合宿をチャンスと捉えて楽しそうに練習しています。

この素直さが藤巻の最大の才能なのかもしれませんね。

そして、このエピソードでは原作者の森末慎二氏の名前も出てきます。

鉄棒で高く飛びすぎて天井に足跡を付けてしまい、その隣にサインを残しているというエピソードなのですが、その足跡を藤巻駿が三回宙返りを飛ぶために高さを出そうとして、天井を突き破って破壊してしまいます。

悪びれながらも満更でもなく嬉しそうな藤巻が印象的でしたが、この出来事が藤巻にとっては大きな試練の始まりとなります。

スランプの藤巻駿と高原万由美

何かしらのキッカケでできていたことができなくなること。

いわゆるスランプに陥るという経験は誰にでもあるものだと思いますが、体操選手にとって鉄棒から手が離せないようになるというのはかなり致命的に近い事態なのではないでしょうか?

藤巻は天井を突き破ってしまった時に、もし天井に届いていなければ鉄棒に真上から激突していた可能性を指摘されていました。それが潜在的な恐怖へと変換されて鉄棒から手が離せなくなってしまったわけですね。

そんな藤巻のために田所のおばあちゃんは近所の子供である双子の明と悟に跳び箱を教えることを提案します。

「人にものを教えるって事はね。教えられる事でもあるんだよ」

そんな指示に、最初は自分が大変な時なのにと不満げな藤巻でしたが・・

「もう一度振り出しに戻って・・また基礎の基礎から始めよう・・」

どんなに教えても簡単なはずのこともできない明と悟に、藤巻は最初は少しイラついていましたが、簡単なことを必死に頑張る姿を見て今の自分自身と重なることに気付きます。

これが田所のおばあちゃんの言っていた「教えられる事」だったのかもしれません。

そこから藤巻は明と悟と一緒になって必死に跳び箱の練習をします。

双子の目的は、義姉であり藤巻のクラスメイトでもある高原万由美に跳び箱を跳べる姿を見せてあげたいというもの。

まあ複雑な家庭事情があり、もともと仲が良かったのに高原万由美と双子の両親が結婚したとたんに高原万由美が冷たい態度を取るようになり、双子はそれを自分たちが跳び箱を跳べずに恥をかかせているからだと思っているわけですね。

実際には高原万由美側の事情は流石に跳び箱が原因ではないのでしょうけど、重要なのは双子が自分たちなりに考えて義姉のために何かしようとしているということなのではないでしょうか?

「藤巻のヤローこんなチビ達にいったい何をやらせてるんだ・・?」

冷たくしているのに、藤巻と一緒にキツイ練習をしている双子を心配している高原万由美の姿が印象的で、態度は冷たいのに温かいという素敵なシーンだと思います。

「怖くないよ!! ホラ、ボク達跳べるんだ!!」

こうして、この出来事が高原万由美と双子とその両親の関係が解きほぐされていくキッカケになるのですが、双子が跳び箱を跳べるようになったことで次は藤巻の鉄棒という展開になっていきます。

セルゲイ・アンドレアノフ

実は、藤巻の鉄棒から手が離せない問題はとある人物の一言によって一瞬で解決してしまいます。

後に藤巻にとっては最大の恩人となる指導者。セルゲイ・アンドレアノフですね。

「ダイジョーブ!! 飛べるよ!!」

セルゲイ・アンドレアノフの一言とは藤巻に鉄棒で伸身宙返りをさせること。

手が離せないのになんてムチャを言うんだと藤巻は最初不審そうにしていましたが、なんと一発で伸身宙返りを決めることができました。

要するに、鉄棒に真上から落ちる恐怖感で手が離せないのであれば、鉄棒から大きく離れる技を決めれば良いという発想なわけです。

そんなセルゲイ・アンドレアノフのことを藤巻は大きく尊敬し、自分たちの指導をお願いすることになるのですが、これが平成学園男子体操部とセルゲイ・アンドレアノフコーチというタッグの始まりとなります。

ちなみに、ここでは鉄棒から手が離せない問題にひとまずの解決を見せましたが、これは対処療法に近いものになります。

かなり先のネタバレになりますが、このことは再び問題として浮上してくることになります。

総括

いかがでしたでしょうか?

後に鉄棒のスペシャリストと呼ばれる藤巻駿の第一歩となる一冊という感じでしたが、それ以上に人間的にも愛されるキャラクターになってきたような気がします。

年相応に気に入らないことがあったらムッとしてしまったり、たまに自分勝手になってしまうようなこともありますが、基本的には他人の良いところを見つけて、そんな尊敬を素直に口に出せるようなキャラクターなのだと思います。

これは私見ですが、人を尊敬できる人って、ましてそれを素直に口にする人って、絶対に他の人から見た時に眩しく見えると思うんです。

眩しく見えるというか、尊敬されるというか。

別に藤巻駿に限った話ではなく、フィクション作品のキャラクターに限った話でもなくて、立派な人ほど誰かに対する尊敬を口にするものです。

逆にたいしたこと無い人ほど別に尊敬できる人なんていないって言いま・・って僕のことじゃん!(笑)

ともかく、そういう意味では藤巻駿の最大の才能って、そんな尊敬できる他人の多さにあるのではないかとも思えますね。

なんてことを長々と書いたのは、かなり印象的だった文庫版オマケの巻末対談の話に繋げたかったから。

3巻の対談では絶対王者内村航平選手が過去に自分のライバルは藤巻駿であると記者の質問に答えて報道陣をどよめかせたというエピソードが語られています。

内村航平選手がガンバ!Fly highのファンであることは有名な話ですが、それでも超トップの選手が漫画のキャラクターに対する尊敬を口にするようなことは他にあまり例は無いのではないかと思います。

それでも内村航平選手は藤巻駿がライバルだと口にしたくなったのは、それだけ藤巻駿が人間的に尊敬できるキャラクターであり、それは藤巻駿が人を尊敬できるキャラクターだったからなのではないかと思ったわけです。

僕も、実は何度も繰り返して読んでいるスポーツ漫画って実はガンバ!Fly highくらいだったりするのですが、それは藤巻駿というキャラクターがそれだけ愛すべきキャラクターだからなのではないかと思っています。

そして、3巻ではそんな藤巻駿が恐らくもっとも尊敬しているであろうセルゲイ・アンドレアノフが登場します。

彼が藤巻駿たちをどのように指導していくのか。それが今後の見所になっていきます。