あるいは 迷った 困った

漫画、ラノベ、映画、アニメ、囲碁など、好きなものを紹介する雑記ブログです。

『ガンバ!Fly high(4)』岬コーチが素敵な先生に感じられる一冊です。(ネタバレ含む感想)

 

巻末のオマケ対談で語られていますが、物語が進むにつれて失敗が許されない状況になってきて、確かに前半と後半ではガンバ!Fly highの作品から受けるイメージが少し違うような気がしています。

そういう意味で4巻から始まる種目別選手権は、平成学園の部員たちが比較的自由に演技していて、失敗すらも大きな問題ではない雰囲気が独特だったと思います。

真田が床の演技で挑戦した伸身ムーンサルトとその失敗。しかしその後には目立って喜んでいた姿なんて分かりやすいところ。

ある意味では緊張感に欠けているとも言えますが、そういう空気感の大会は作中でもこれが最初で最後だったかもしれませんね。

また、特に作品の最序盤では目の上のたんこぶのような存在に見えた岬コーチの魅力が描かれている点も面白い。

種目別選手権に臨むにあたりセルゲイ・アンドレアノフの指導を受けるための試験に部員たちと一緒に臨む岬コーチの姿はとても素敵で、このエピソードでは選手ではなくコーチ側にスポットが当たっていました。

今後のネタバレになりますが藤巻の同級生で今巻で初めて大会デビューした上野は補助として活躍することになります。そんな感じで選手以外の立場の人にもスポットが当たっているのがガンバ!Fly highの面白いところのひとつだと思います。

?

本作の概要

セルゲイ・アンドレアノフの指導を受けたい藤巻たちは、そのために今より25センチ高いバク宙をするというテストを受けます。

岬コーチの頑張りもあってそれに合格した平成学園の部員たちは、それだけで一回り大きく成長して種目別選手権に向けて幸先の良い出だしとなりました。

その後、セルゲイ・アンドレアノフの指導を受けて自信も付けた平成学園の部員たちは種目別選手権に挑んでいきます。

李軍団が猛威を振るう中、あくまでもマイペースに自分たちの演技を個性的にこなす平成学園に注目です。

本作の見所

25センチ高いバク宙

セルゲイ・アンドレアノフの指導を受けるためのバク宙試験のエピソードは、作中でも指折りの感動エピソードのひとつだと思います。

「君達の欠点が何かを教える事はとても簡単・・。けど私がそれを言えば、コーチとしてのエリーをキズつけてしまう。でも大丈夫!! エリーは誠治さんの子、きっと答えを見つけられる。みんなでエリーを信じてあげましょう!」

実はガンバ!Fly highをはじめて読んだ子供の頃には、このアンドレアノフのセリフがちゃんとは理解できていませんでした。

教えられる人が教えられたら、その方が遥かに手っ取り早いのではないかと、そんな風に思っていました。

しかし、今読むとアンドレアノフの思いの意味が分かったような気がします。

アンドレアノフにとっては平成学園の選手たちだけではない。恩人である田所誠治の娘である岬コーチもまた育て導いてあげたい対象という意味では同じなのだということだと思います。

人は教えられたことよりも自分で考えて答えを出したことの方がずっと身になるものですし。

とはいえ、本来はこうやって導いてあげることって本当に難しいことで、中には知識をひけらかすように自分で教えなければ気が済まないような人も多いですよね?

恥ずかしながら僕自身にもそういうところがあるのですが、どんなことであれアンドレアノフのようなやり方で後進を導けるような人になりたいって思います。

考えてみれば、このエピソードでアンドレアノフは25センチ高いバク宙を飛ぶことを課題として出しただけで、そのヒントを示すことすらなく何もしていません。

唯一やっていたことといえば、岬コーチを信頼していたということのみ。

しかし、誰もが25センチ高いバク宙を飛べたことをアンドレアノフのお陰だと思っている。

そういうのってなんだか素敵ですよね。

また、このエピソードでは1巻の初登場時点では嫌味で陰険な鬼コーチのイメージがあった岬コーチの印象がかなり変わります。

確かに嫌味なところはあるものの、とても生徒思いの良い先生だってことが前面に出てくるのですね。まあ、今までもそういうところはありましたが、ここで一気に岬コーチのキャラクターとしての魅力が上がったのは間違いないでしょう。

楽しい体操

基本的には温厚なロシア人であるアンドレアノフですが、かつての教え子の体操選手としての未来を潰した氷の悪魔。西堀製薬ジュニア体操クラブの李東生に対しては強い憤りを示しています。

「体操は楽しくなければいけない! 「体操は他人との勝ち負けではなく、自分自身との勝負」「だから体操は楽しい」・・」

そんな李への憤りと同時に自らの体操に対する思いを岬コーチに語るアンドレアノフですが、これが後に藤巻駿たちの体操の根幹、そして強みになってきます。

岬コーチは最初、アンドレアノフの言葉に一定の理解を示しつつも、楽しんでいるだけで勝てるほど甘い世界ではないのではないかと心配もします。それに一見すると真面目に練習しているようにも見えない平成学園の男子部員たちにモヤモヤとした気持ちを抱えることになるのですが・・

「そうか・・そうだったんだ・・。「楽しい体操」・・それは選手の積極性を引き出す事だったんだわ・・」

しかし、こっそりと覗き見た男子部員たちは驚くほど上達していて、しかしとても楽しそうでした。

「この三週間、ものすごい量のトレーニングをしたって事、この子達は気付いてないんだから・・。すごいもんだよ、アンドレアノフの魔法は!!」

岬コーチが気付いたように、そして田所のおばあさんが言っているように、積極性を引き出された藤巻駿たちは気付かない内にとてもハードなトレーニングをこなしていたようです。

無意識な努力というか、人間好きなことであればあるほど努力が苦にならないというか、そもそもそれが努力だということにすら気付かないものです。

そういう無意識に訴えかけることができる人こそが最も優秀な指導者なのかもしれませんね。

三バカたちの活躍

平成学園の三バカ先輩。内田、真田、東の三人ですが、そもそもが三人とも非常に個性的なキャラクターをしており、だからこそオールラウンダー的なバランスの取れた選手というよりも得意種目のスペシャリストとして描かれているのがガンバ!Fly highの面白さの要因のひとつだと思います。

ただ単純に得意種目が決まっているというだけではなく、それぞれがそれぞれの個性、そして魅力を持っているのも良い。

そして、そういう個性が一気に現れ始めたのがこの種目別選手権のエピソードなのではないかと思います。

真田はチャラく見えて努力家。床の貴公子という一度聞いたらなかなか忘れられないゴロの良い呼称がありますが、同じような技をする選手の多い床競技において他の選手がやらないような技をやるような選手になってきます。

4巻の種目別選手権では、失敗こそしたものの初めての伸身ムーンサルトに挑戦して目立っていましたね。

内田は、特に得意の跳馬では自分の力で考えたことを演技にも反映させてくるような選手になってきます。

4巻のあん馬の革命は苦い体験だったかもしれませんが、こういう挑戦する心意気が作品終盤では長所に内田という選手の長所になっていることが面白い。

東は体格的にそもそも体操選手っぽくありませんが、だからこそ軽やかな演技をする他の選手とはそもそも違います。

地区大会編での床の演技、そして4巻のつり輪の演技は素人目には三バカの中でも一番凄く映りました。

今後のネタバレになりますが、東は後に体格的に体操選手としての限界を感じてプロレスラーに転向します。

しかし、スペシャリスト軍団となる平成学園の中でも最もスペシャリストっぽいというか、得意不得意の極端な選手というイメージがあり、だからこそ得意技で勝負していた地区大会編でも、そもそも特定種目だけで競っていた種目別選手権編でも、最も輝いていたような気がします。

総括

いかがでしたでしょうか?

4巻から始まる種目別選手権編では、今後作品の終盤まで続く平成学園の部員たちの個性が確立されたような気がします。

床競技に対してはストイックに、しかし目立つ演技を見せる真田。

4巻のあん馬の革命は失敗でしたが、常識外れでも独自の理論で技を展開する内田。

地区大会編では床競技でそのパワーを活かした東は、よりパワーを活かせるつり輪で大活躍するようになります。

そして次巻ではキャプテン新堂や藤巻も同じように独自の個性を確立していきます。

巻末のオマケ漫画でも語られていますが、例えばテレビで見る世界選手権などはトップの選手ほどみんな同じ技ばかりで、凄いと思いつつも少々退屈に感じられることがあります。

逆に他の選手とは違う技をする人がいたら、得点が低かろうが「おぉ~!」ってなりますよね?

どちらかといえばガンバ!Fly highではそういう「おぉ~!」を読者に伝えようとしている作品なのではないかと思います。

そして、この種目別選手権編でそういう下地が出来上がったのではないかとも。

今後は失敗の許されない緊張感のある大会が増えていきますが、こういう下地があるからこそそういう中でも個性的で面白い漫画になっていったのかもしれませんね。