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『グッバイ、ノーベル!(1)』文字通りのゴーストライターの再出発の感想(ネタバレ注意)

 

グッバイ、ノーベル!は、ノーベル文学賞候補の小説家が事故死してしまい、未練を残して幽霊となる。そして、それを見ることができる唯一の女子高生を通して作品を発表するようになるという物語となります。

幽霊という意味でも、表に立つのが本人では無いという意味でも、文字通りのゴーストライターというわけですね。

タイトルもノーベル賞のノーベルとノベル(小説)を掛けているっぽいのが面白いですね。

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本作の概要

ノーベル文学賞候補の小説家である龍平ナヲキは渾身の大傑作を書き上げますが、そこでドジな事故死をしてしまうことになります。

渾身の大傑作を世に出せなかったことと、自室に大量のラブレターを残してしまった未練を残して。

そんな時、同じく生死の境を彷徨っていた女子高生・佐鳥すずと出会いますが、佐鳥すずの方が一命をとりとめ、そして幽霊となった龍平ナヲキを見ることができる唯一の存在となります。

最初は佐鳥すずにラブレターの処分だけをお願いした龍平ナヲキでしたが、龍平ナヲキとは全く異なる価値観を持つ佐鳥すずと交流する内に、何故か佐鳥すずを通して新しい作品を発表する流れになってきます。

本作の見所

事故死と悟り系女子高生

グッバイ、ノーベル!はなかなか間抜けな感じの事故死から始まります。

ぶっちゃけ笑えない事件ですが、そこで特にホラーでもない幽霊が誕生するのですからコメディ的に感じられます。

そんな主人公の龍平ナヲキは、ノーベル賞候補になるもののなかなか受賞できないところといい、著作のタイトルといい、明らかに村上春樹大先生がモデルでしょうか?

しかも若いだけあって、今後が嘱望される作家だったこともあり、死後いろいろと騒がれてしまっています。

そして、幽霊になった龍平ナヲキを見ることができるのは、同じタイミングであの世に逝きかけた佐鳥すずという女子高生のみ。

自分は著名な小説家であると思っているのに、まったくそれを知らない悟り系女子高生に憤りを覚えているところが面白いですが、どんな著名人でも全ての人間に認知されているなんてことはそうそうありませんから、当たり前といえば当たり前なんですけど、フィクション作品的にはここまで無関心な感じのヒロインと絡んでいくのは珍しいような気がします。

価値観の違い

大作家とそれに興味のない女子高生。

僕もかなり本を読む方なので分かりますが、ぶっちゃけ売れた本イコール面白いとは限らないなんてことはよくありますよね。

万人が面白いと思う作品は、やっぱりそれなりに面白いと感じる確率も高いですが、万人の評価が低かったり、誰も知らないような作品でもものすごく面白いと感じることもある。

佐鳥すずは、そういう意味で龍平ナヲキとは全く違った感性、価値観を持っている少女だったと言えます。

当たり前といえば当たり前のことなのですが、人気の大作家を主人公にしておきながらあえてそれを知らない女子高生をヒロインに据えた発想が面白いですね。

影響を受けた奴扱い

僕はわりと作家の名前でも漫画や小説を読む方ですが、それは作品そのものの出来というよりは、実績のある作家にはそれに見合った信頼があるからなのだと思います。

フィクション作品に限らず、例えば家電を買う時に実は無名のメーカーの中に自分に合ったものがあるかもしれなくても、ほとんどの人は有名メーカーのものを選ぶのと同じといえば同じですよね。

そして、それを象徴するエピソードが佐鳥すずが龍平ナヲキの遺稿を代わりに持ち込んだ際、絶賛されると思い込んでいた龍平ナヲキの自信とは裏腹に酷評される結果となります。

曰く、龍平ナヲキの影響を受けただけの作家だと思われてしまったようですね。

これはプライドが傷つくことこの上なさそうですが、それだけ作家のネームバリューの重要性が現れているのだと思います。

龍平ナヲキのラブレター

龍平ナヲキがノーベル文学賞を意識して書いた傑作よりも、世に出したくないと思っているラブレターの方が佐鳥すずは面白いと感じるようです。

誰かのために書いたものの方が、評価されるために書いたものよりも面白いというのはさもありなんといった感じですが、これは幽霊としての龍平ナヲキが出会ったのが佐鳥すずでなければ気付かなかったことなのではないかとも思います。

例えば、佐鳥すずが単なる龍平ナヲキの大ファンだった場合、どうしたって個人的なラブレターよりも遺稿の方に対する興味の方が大きかったはずです。

龍平ナヲキのことを大作家だとも思っていない佐鳥すずだからこその評価に、龍平ナヲキは苛立ちつつも新境地に立つことになっていく展開が予想されます。

面白いのが、これが龍平ナヲキが生きている内の物語だったならば、自分とは全く価値観の違う、そして自分を評価しない佐鳥すずのことを相手にもしなかったに違いありません。

それが唯一コミュニケーションが取れる相手が佐鳥すずだったからこその展開が興味深いと思います。

執筆開始

龍平ナヲキのラブレターを元に佐鳥すずの手で書き上げた新作小説。

文字通りのゴーストライターというわけですが、恐らく龍平ナヲキが生きたまま一人で書いていたらできなかったであろう小説になっているという展開になりそうですね。

本物の女子高生作家も終盤登場しているので、ひょっとしたら背後に龍平ナヲキという大物のいる作家として、佐鳥すずとライバル関係になっていくような感じになるのかもしれません。

総括

いかがでしたでしょうか?

大作家ともなれば、その著作は面白さだけではなくネームバリューで売れるようになってくることは間違いないでしょう。

つまり、いくら大作家とはいえ文字通りのゴーストライターになってしまった龍平ナヲキにとってこれは、再出発ということになるのだと思います。

あまり例のない、少なくとも僕はあまり読んだことの無いタイプの展開で、今後があまり予想できませんが、だからこそ続きが楽しみだったりします。