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『りゅうおうのおしごと(3)』努力と才能と決意が描かれた一冊です。(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

努力の人に挑む天才。女流棋士を目指すための決意。そして目前に迫った年齢制限に対する苦悩が描かれる3巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

天才棋士である九頭竜八一にとって、A級棋士の山刀伐尽は苦手とする相手となります。

デビュー戦では舐めてかかって敗戦し、竜王になった後の11連敗のキッカケとなった敗戦の相手でもあるし、そしてまた負けて3連敗してしまうことになります。

山刀伐尽の棋風はオールラウンダーで、居飛車振り飛車も指しこなす『両刀使い』と呼ばれています。別の意味でも『両刀使い』らしいなのではないかという疑いもありますが。(笑)

そんな山刀伐尽と近く再戦する機会がある九頭竜八一は、その対策として同じタイトルホルダーであり『振り飛車党総裁』『捌きの巨匠(マエストロ)』と呼ばれる生石充玉将から振り飛車の教えを乞うことになります。

そして、八一がトッププロの世界で戦っている一方で研修会では、一番弟子の雛鶴あいと、師匠の娘である清滝桂香にも悩み事が発生していました。

あいは、もともとは格上だったJS研の水越澪に駒落ちで勝利するまでに強くなりましたが、一方で友人を蹴落として泣かせてしまう結果になってしまったことに思い悩んでしまいます。

しかも、女流棋士になるための年齢制限が迫っているにも関わらず降級の危機に陥ってしまった清滝桂香を蹴落とす最後の一撃が自分になる可能性すらあると八一に指摘されてしまい、女流棋士を目指す上で避けては通れない覚悟を問われることになります。

また、当の清滝桂香はそんなあいと自分の才能の違いに思い悩みます。

なりふり構わず本気になった清滝桂香と、才能だけではない女流棋士になるための覚悟を問われたあいの人生を賭けた一戦が激熱の展開で描かれています。 

ピックアップキャラクター

女子小学生がメインヒロインのライトノベルではありますが、3巻では大人の女性である清滝桂香にスポットが当たっています。

子供の頃の清滝桂香が未来の自分に宛てた手紙と、そんな未来の自分よりも年上になっても理想とは程遠い自分とのギャップに思い悩む姿が切ないです。

清滝桂香

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(「りゅうおうのおしごと!(1巻)」より)

八一や銀子の師匠である清滝鋼介の娘で、年上の保護者的な立ち位置の女性ですが、将棋指しとしては八一や銀子の妹弟子となります。

雛鶴あいや夜叉神天衣のように才能があるわけではない。

しかし、女流棋士を諦めきれずに頑張る努力の人で、3巻では普段の優しいお姉さんとは違う、女流棋士を目指す将棋指しとしての『熱さ』を見せてくれます。

ネタバレ含む感想

努力の人と天才

最年少で竜王になった九頭竜八一は間違いなく天才側の人。

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空銀子

私達は地球人。目で見て、それで考えるしかない。でもあいつらは目で見る以外の情報を盤面から得てる。別の感覚器官を持ってる。だから読みの速度と局面探索の深さが全く違う・・というか、そもそも読んでない。見るだけでわかるから

銀子はそんな天才のことを『将棋星人』と称します。

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空銀子

八一の才能は間違いなく、将棋の歴史の中で五本の指に入る。将棋の星の王子様。それが九頭竜八一竜王。私の弟弟子

そんな『将棋星人』に挑むためには『研究』しかないのだとも。

そして、天才・九頭竜八一の苦手とするA級棋士の山刀伐尽は、才能が無くとも『研究』を重ねて強くなった努力の人となります。

デビュー戦で黒歴史級の敗北を喫し、竜王になった後の11連敗のキッカケの敗戦の相手も山刀伐尽。そして苦手意識を払拭できないそのままに3連敗。

オールラウンダーな棋風から『両刀使い』の異名で呼ばれることからも、様々な指し方を『研究』していることが窺えます。ちなみに、別の意味でも『両刀使い』の疑いがあって、盤外の話ですがそういうところも八一は苦手にしているようです。(笑)

ともあれ、居飛車党の八一はそんな『両刀使い』に対抗するためにオールラウンダーになることを決意します。そのために、『振り飛車党総裁』『捌きの巨匠(マエストロ)』と呼ばれるタイトルホルダー生石充玉将から振り飛車の教えを乞うことになります。

そして、生石充が地味に名言製造機になっていて「なるほど」と思わされることが多いんですよね。

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生石充

奨励会は生き地獄だ。みんな命懸けで将棋を指してる。そんな中で自分だけが他人より努力してるなんて考えは、傲慢だと思わないか?

中でも印象的だったのがこのセリフ。

生石充も八一と同じ『将棋星人』の側だと思いますが、彼は自分が努力したから強くなれたのだと最初は思っていたようです。

しかし、同じように努力しても伸びる人と伸びない人がいて、それを分けるのが『才能』なのだと気付いた。

本当は『才能』に恵まれているだけなのに誰よりも努力していると考えるのは傲慢だという考え方は目から鱗でしたね。

そういう意味で八一が相手にしようとしている山刀伐尽は、本当の意味で誰よりも努力している将棋指し。

本当の意味での努力の人と天才の戦いの行方が3巻の見所のひとつです。

振り飛車修行とその成果

一千時間の事前研究。それだけの努力が八一の相手である山刀伐尽の最大の武器となります。

八一が生石充のもとで学んだ振り飛車ゴキゲン中飛車は名人との研究で『終わらせた』と豪語する山刀伐尽を相手に・・

負けるたびに挑み。挑むたびに負け。心に痛みを刻みつけ。それでも挑み続けることが、不可能を可能にする唯一の方法だと知った。

それでも、心が折れそうになりながらも不可能に挑む八一。

相手の一千時間の事前研究に対して、たった25分34秒の残り持ち時間で覆そうと、読めば読むほど絶望しか見えない状況を覆そうとします。

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八一

・・見つけた

三回連続の限定合駒という奇跡的な道筋を八一は見つけ出します。

僕は将棋には疎いので限定合駒とは一体何だと思ったものですが、とにかく通常は読むことすらしない珍しい状況のようですね。

相手の駒と自分の駒の間に駒を指して、例えば王将が取られる道をふさいだりする手のことを合駒というようですが、通常は価値の低い駒から合駒に使っていくものだそうです。

そして限定合駒というのは、ある特定の駒以外で合駒しなければ詰むという限定的な状況のことを指すようで、発生するのは非常に珍しいことのようですね。

囲碁でいういわゆる『愚形の妙手』が何度も連続するような状況みたいなものでしょうか?

ともあれ、山刀伐尽の『一千時間の事前研究』に対して、八一は『僅か二週間(時間にして百時間程度)の勉強と25分程度の持ち時間』で勝利してしまいました。

その差を覆したものこそがいわゆる才能。将棋星人ということなのかもしれませんね。

ちなみに、この三回連続の限定合駒という奇跡的な状況には現実の元ネタがあるというのだから驚きですね。

そして、八一のこの勝利はとある人物へも影響を与えます。

竜王にまでなった八一が全く新しい将棋に挑戦した姿が、清滝桂香に甘さを捨てる決意をさせるキッカケになっていたのは間違いないと思います。

清滝桂香の苦悩と雛鶴あいの決意

3巻で最大の見所となるのは『清滝桂香と雛鶴あいの対局』となります。

女流棋士になるための年齢制限が近づいてきているのに、降級の危機に陥ってしまった清滝桂香。

将棋が初恋で、嫌いになったこともありますが女流棋士を目指して将棋に真摯に向き合ってきたのに、成果がなかなかでないことに悩んでいます。

そんな研修会でも最年長の清滝桂香にとって、最近現れた若干9歳の幼い天才・雛鶴あいはあまりにもまぶしい存在だったに違いありません。

なりふり構わず銀子にも頭を下げて教えを請い、自分よりもずっと上のところにいるのに挑戦し続ける八一の姿にも触発され、清滝桂香も甘さを捨てる決意をします。

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清滝桂香

・・一局目があなたでよかったわ

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天衣

ふぅん? つらいことは最初に済ましておきたいっていうわけ?

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清滝桂香

あいちゃんと戦う前のウォーミングアップをしたいと思ってたから

普段の優しいお姉さんらしい清滝桂香とは違う、いくら天才とはいえ一回り以上年下の少女を相手に老獪な盤外戦術すら駆使して勝ち星を拾いに行きます。

これは逆に言えば今までも使えたはずの武器を使わなかったという清滝桂香の甘さであり、そして今はその甘さを捨てているということになります。

というわけで、研修会で連勝を続けていた強敵である天衣を相手に勝利をもぎ取りました。

そして、次の対局がいよいよ3巻のハイライトとなる『清滝桂香と雛鶴あいの対局』ですね。

清滝桂香にとって羨望の対象である雛鶴あいですが、将棋を始めてからの経験も浅く、ただ八一に憧れて将棋を指したかっただけで女流棋士になるための覚悟が足りていないのが今の雛鶴あいの弱点となります。

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あい

わ、わたし・・勝つのがこんなにつらいだなんて、知りませんでした・・

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八一

もしおまえが勝つことを怖れるような人間なら、もう苦しむ必要なんて無い。今ここで破門してやる。荷物をまとめてそのまま田舎へ帰れッ!!

同じJS研の水越澪。

少し前まで格上だった友人に僅かな期間で駒落ちで勝利するまでに強くなったあいですが、一方でそのことにショックを受けて泣いてしまった水越澪を見て、勝つことのつらさもあるということを初めて知ります。

しかし、女流棋士を目指すということはライバルとの蹴落としあいをしていくということに他ならず、もしかしたら同門の清滝桂香が降級する最後のキッカケを与えるのがあいになってしまう可能性すらあることを八一に指摘されます。

一応はそのような覚悟が必要なことをあいは認識したはずですが、だからといっていきなり完全に覚悟できるようなものではありません。

勝利の痛みを知り、そんな葛藤を抱えたままにあいは、甘さを捨てた清滝桂香との対局に臨むことになります。

そして、それは先に決意を固めていた清滝桂香が序盤優勢を築く展開となり、あいからは嗚咽が聞こえてきて心が折れて投了するのかと思われたのですが・・

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あい

・・ごめんなさい・・桂香さん・・わたし、もう・・負けたくない!!

圧倒的に不利で負けそうな状況になって初めて、あいは負けたくない気持ちを思い出して勝利の痛みを乗り越えることができました。

そして、終盤の読みこそがあいの最大の武器であることは既に周知の事実ですが、生石充のもとで学んだ捌きで、目まぐるしく変化する盤面をあいは支配していきます。

それに清滝桂香もキャラ崩壊しつつ全力で応えるのですが、結果はあいの勝利で終わりました。

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清滝桂香

ありがとう。全力で指してくれて

しかし、ここで負けたら研修会を辞めるつもりだった清滝桂香は一体どうするのか?

その最後の一押しのキッカケになったあいはどう思うのか?

そこが不安なところでしたが、着せ替え人形ではない自分の将棋であいと全力でぶつかった清滝桂香は、たとえ女流棋士になれる可能性が低くても将棋を続けていきたいと考えるようになっていました。

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