『犯人たちの事件簿(4)』ついにあの男が登場する最新刊の感想
『金田一少年の事件簿』のかつての犯人たちの視点で描かれる、ある意味色物的な漫画が『犯人たちの事件簿』となるのですが・・
これがまた超面白い!
原作の事件の犯人を全力でネタバレしていくスタイルの、ハッキリ言ってミステリー作品としては暴挙としか思えないような、非常に挑戦的な公式作品となります。
だってもう表紙が犯人じゃん!
ファンなら何の事件の犯人なのか、すぐに思い出せますよね?
しかし、挑戦的ではあっても合理的な作品ではあるのかもしれません。
『金田一少年の事件簿』の事件の背景、犯人の犯行動機にはドラマチックなものが非常に多く、犯人たちの多くは主人公にしても成立するくらいに強烈な個性を初めから持っていたように思います。
だからこそ、そんな犯人たちの視点で描かれた物語が非常に面白く感じられるのでしょうね。
また、犯人たちの思考がコミカルに描かれているのも魅力です。
そして、そんな犯人たちの中でもトップクラスに有名なあの男か今巻には登場します。
「地獄の傀儡師」こと高遠遙一。
金田一最大のライバル、犯人でありながらファンが非常に多く、『高遠少年の事件簿』というスピンオフ作品まで描かれることになったほどのキャラクターです。
正直な話、犯人たちが金田一に追い詰めらる様をコミカルに描くような本作品において、この「地獄の傀儡師」がどのように描かれるのかには興味が尽きませんでした。
そこが今巻最大の見どころであることは言うまでもありませんね。
ちなみに、この漫画を面白いと思うかどうかは両極端に分かれるところだと思います。
実際問題、『金田一少年の事件簿』を知らない人にとっては何だかよくわからない作品でしかないのだと思います。
しかし一方で、知っている人にとっては懐かしくも面白い作品であることは間違いありません。
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本作の概要
魔術列車殺人事件の「地獄の傀儡師」こと高遠遙一。
魔神遺跡殺人事件の「凶鳥の命」こと村西弥生。
首吊り学園殺人事件の「地獄の子守歌」こと浅野遥子。
今回はこの3人の視点で事件が語られることになります。やっぱり第1期(FILEシリーズ)の怪人はみんな個性的で魅力的なのですが、やはり高遠遙一が気になる所です。
本作の見所
魔術列車殺人事件
「これ・・見てて面白いですか?」
金田一の宿命のライバル「地獄の傀儡師」がどのように本作品で描かれるのか?
その答えはいきなりメタいことを発言してくるでした。
確かに、『金田一の少年の事件簿』の原作では犯人が巧妙で狡猾であればあるほど面白く盛り上がるのに対して、本作品の場合はその特性上、犯人に迂闊な部分があればあるほどコミカルに盛り上がります。
そういう意味では本作品と最も相性が悪いのが「地獄の傀儡師」こと高遠遙一であるのは、金田一ファンにとっては間違いのない事実でしょう。
実際、巻末のおまけ漫画によると魔術列車殺人事件は元々やらない予定だったが、BOOK☆WALKER上で開催された犯人総選挙において高遠遙一が一位になってしまったため描かれることになったという事情があるようです。
そんなわけで、最初は「優秀な自分が描かれていても面白くないよね?」的な態度の高遠遙一が、徐々に金田一に追い詰められてテンションを上げていくような構成になっています。
「つまりマジックショーをやってる間、この劇場は巨大な密室だったんだ!!」
「いや、お前が作ったんだろう・・」
金田一の自信満々な推理に対する高遠遙一のツッコミが面白いですね。
確かに、この場面に限らず金田一って自分自身の行動が事件の解決のヒントになっていることが結構ある気がします。
底なし沼に沈められそうになった時にリスで助かろうとする金田一に対するツッコミも良いですね。
「私を他の犯人と同列に扱わないでもらえますか?」
そして、最後はまたも高遠遙一のメタい発言で終わります。
確かに高遠遙一を他の犯人と同列に描くのは作者も大変だったに違いありません。
だって、『名探偵コナン』における怪盗キッド、『ドラゴンボール』におけるベジータ、『ドラえもん』におけるジャイアン・・は違うか。ともあれ高遠遙一そういう立ち位置のキャラクターなのですから。
ちなみに、犯人総選挙 の結果は1位から3位まではなるほど納得の結果でしたね。
個人的には雷祭殺人事件の犯人が好きですけど、金田一シリーズの長編においては珍しい怪人名の無い犯人なので、ランクインしないのもしょうがないと思います。
魔神遺跡殺人事件
『金田一少年の事件簿』の中でも屈指の禍々しくもオカルトチックな事件の犯人・「凶鳥の命」こと村西弥生は38歳の家政婦。ハッキリ言って普通のおばさんです。
しかし、38歳とは見た目よりだいぶ若かったんですね。
「だって私・・ただのおばさんだもの」
そして、村西弥生は自分がおばさんであることを前面に押し出していくスタイルのようです。
「これなら非力な私でも男を殺せる・・おばさんに優しいトリック」
いやぁ、その発想は無かったわぁ~
確かに言われてみればそうなんだけど、原作を読んでいる時にはあまりにも凄惨な事件なものだから、そんなこと思う余裕無かったわ~
匂いを誤魔化すための烏の死骸をゲットするシーンにしても、当然原作にはありませんが確かに犯人はそれを用意する必要があったはずなので、本作品で描かれるような苦労は本当にしていたのかもしれませんね。
「地味だけどキツかったわ・・」
村西弥生のシャワーシーンの後のこのセリフ。「おばさんのシャワーシーンの方がキツかったです」と読者にツッコミを入れさせる意図が感じられます。
「トリックがあれば・・年の差なんてッ!」
いやはや、『犯人たちの事件簿』においては葬送銀貨と並んで一番面白い犯人かもしれません。両方とも烏が関連している犯人だというのは偶然でしょうけど。
「私・・普通のおばさんに戻ります・・」
原作ではともかく、本作品では最初から最後まで普通のおばさんだったよあんた・・
首吊り学園殺人事件
金田一を間違った推理に導き、それを披露させるに至った数少ない犯人の一人・「地獄の子守歌」こと浅野遥子。
金田一にこういう優しそうな人が出てくると、大抵殺されるか犯人かのどっちかですよね~
そして浅野遥子は犯人の側。しかも怪人名が「地獄の傀儡師」に似ているだけのことはあって、なかなな狡猾です。
「勉強して犯人偏差値をあげるのよ!!」
「犯人は犯人の背中を見て育つ」
狡猾・・でしょうか?
ちょっと下準備ばかり拘る小者っぽさが出てしまっていますが・・
「問題を作り出題者の意図通り解かせる・・予備校講師と同じね!」
しかし、このセリフはなるほどと思わせるものでした。
金田一相手に推理をミスリードしていくのは至難の業でしょうけど、そこは名門予備校の講師。
だけどよくよく考えてみて下さい。
金田一ってそういえば、勉強において問題を出題者の意図通りに解くという点では劣等生でしたよね?
ちゃんと出題者の意図通りには問題を解いてくれません。
というわけで、最終的には浅野遥子の作ったの謎は全て解かれてしまいました。
総括
いかがでしたでしょうか?
「地獄の傀儡師」「凶鳥の命」「地獄の子守歌」の舞台裏。
どの怪人も懐かしく、コミカルに描かれていてとても面白かったと思います。
犯人視点で、金田一の運に助けられている部分のある推理にツッコミを入れたりしているのが特に面白い。
確かに、こういうミステリー作品にはどうしてもツッコミどころも含めて考察されがちですが、それを公式でやってしまう所が面白さに拍車をかけている。
しかし、そういうのを読んで、また『金田一少年の事件簿』の昔のエピソードの原作を読みたくなってきてしまうのだから、公式に上手くやられてしまっているということなのかもしれませんね。(笑)
続刊にも期待しています!