『犯人たちの事件簿(6)』ついにFILEシリーズの犯人が全滅した漫画の感想(ネタバレ注意)
『犯人たちの事件簿』もついに6巻目。
どうやら今巻で金田一少年の事件簿のファーストシーズンとも言うべきFILEシリーズは完了したようです。
ある意味ではミステリーにおける最大のタブーである犯人のネタバレを全力で行ってきた漫画とも言えるのですが、アニメ化だけではなく何度もドラマ化されたことで、ネタバレという次元を超えてそもそもそこは周知の事実になりつつあるからこそ、ここまで大胆にネタバレできるのかもしれませんね。
それに、ネタバレされて冷めるどころかむしろ、『犯人たちの事件簿』の犯人たちの面白すぎる狂言回しじみた言動を読むたびに、同じ事件の本家を読み返したくなってしまうくらいです。
・・と、思っていたらそういう需要はやっぱりあったようで、『一つにまとめちゃいました』という本家の金田一少年の事件簿と『犯人たちの事件簿』の同じ事件を1冊にまとめた、1冊で1つの事件を2回楽しめるシリーズが電子書籍限定で配信されているようです。
本家とスピンオフという関係があるとはいえ別作品である漫画を、併せて読むことで別の楽しみ方ができるというのはちょっと珍しいですものね。
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本作の概要
異人館ホテル殺人事件の「赤髭のサンタクロース」こと北見蓮子。
墓場島殺人事件の「亡霊兵士」こと檜山達之・森下麗美。
速水玲香誘拐殺人事件の「道化人形」こと安岡真奈美。
そして短編である氷点下15度の殺意の鈴森笑美。
はじめて短編の事件の犯人が描かれている点や、オマケ漫画的に何故かオペラ座館のオーナーである黒沢和真によるメタい漫画が描かれているのが面白いです。
本作の見所
異人館ホテル殺人事件
金田一少年の事件簿における準レギュラーである佐木2号こと佐木竜二。その兄である佐木竜太が殺されてしまう事件ですね。
異人館ホテル殺人事件も一時的に金田一に罪が着せられる事件で、こんな感じで金田一に罪が着せられる時に夢に登場したりする不吉なキャラクターですが・・
「ていうか撮る!? こんなピリピリした空気の中で撮る!? 普通の神経じゃムリよ? 何なの? 麻薬(シャブ)やってんの?」
確かに、佐木1号2号ともに登場するときは必ずと言っていいほど証拠かヒントとなる映像を撮っていて、しかもそれが「何でこんなの撮ってるんだ?」ってものも少なくない。
ひょっとしたら犯罪の証拠映像を撮らせたら世界一まである。
ピンポイントでトリックの証拠を撮られちゃった北見蓮子のツッコミも頷けますね。
麻薬が絡んだ事件で、麻薬に絡めたツッコミとはセンスがあります。(笑)
「人にデッド オア アライヴ味わわせておいて何でそんな「ちょっとしたいたずらですけども」みたいな顔できるの? 麻薬(シャブ)やってんの? 殺人犯である私が言うのも何だけど・・あんたどうかしてるわよ」
そして、そんなツッコミを入れる北見蓮子が金田一にツッコミを入れないわけがありません。
最近の37歳の事件簿ではその辺自重というか、自嘲気味ですけど。
最後まで金田一麻薬やってる説を押している一貫性が好きです。(笑)
また、異人館ホテル殺人事件は警察のキャリア。エリート警視が犯人で、エリートであることを強調した描写も多かったのですが、明智警視の登場でそれが崩れ去るシーンも面白かったです。
「なんというキャリア波!! キャリアを超えるキャリア・・!! 一瞬にしてこの場の権力構造が入れ替わった!!」
キャリア波ってなんだよという感じですが、確かにこの事件は犯人である北見蓮子が事件捜査する責任者だったこともあり、公的権力の力を借りなければすべてを強引に握りつぶされていた可能性がありました。
そういう意味ではこの事件における明智警視の威力は、相当なものだったのかもしれませんね。
墓場島殺人事件
犯人が複数存在する事件は今までにもありました。
飛騨からくり屋敷殺人事件や仏蘭西銀貨殺人事件がそうでしたが、これらは共犯というよりは利用という言葉の方がしっくりきます。
そういう意味では完全に同列の犯人が2人いる墓場島殺人事件は金田一少年の事件簿の中でもかなり珍しい類の事件だったと思います。
そういう意味でも『犯人たちの事件簿』ではどんな風に描かれるんだろうと楽しみな事件でした。
しかし、全く関係の無さそうな2組のグループ(片方は金田一の同級生たち)の双方に共犯関係にある犯人がいるという全く想像もしなかった結果に、本家の事件の中でもかなり驚かされた真相の事件だったのですが、『犯人たちの事件簿』では犯人同士がイチャコラしている間に解決している感じになっていました。
だけど、それはそれで面白かったと思います。
共犯関係を悟らせないために檜山達之が森下麗美にビンタを食らわせるシーンや、金田一の興味を引きつつアリバイを作るためとはいえ女性に対して失礼なことを言ったりして、それでちょっと険悪になりそうになっているのもいいですね。
「すごくためるじゃねえか・・何で1回「この中にいる」を挟むの? 達之の時にも挟んでたよね? 正直「見開き」が来た瞬間終わったと思ったわよ。何なのこのやり口・・すごく、みのもんた・・」
自分たち不動高校のメンバーに犯人がいると金田一が言ったことに対するツッコミですね。
これは、本家を読んだ時にまさに同じことを思った人も多いのではないでしょうか?
僕は思いましたよ。(笑)
前述した通り、不動高校のメンバーに共犯者がいることが驚きの事件でしたから、確かにこのタメは盛り上がる。
だけど犯人からしてみれば、二重にためられて心臓に良くなさそうです。
すごくミリオネアですね。(笑)
速水玲香誘拐殺人事件
純粋な意味での共犯。墓場島殺人事件のようなエピソードは金田一少年の事件簿では珍しいですが、裏側で糸を引く黒幕がいる事件は珍しくありません。
例えば仏蘭西銀貨殺人事件がそうでしたが、そんな例を挙げるまでもなく地獄の傀儡師こと高遠遙一が登場する事件は大概そういう感じの事件ですね。
傀儡師の怪人名通り、裏で糸を引いています。
高遠遙一が黒幕になっている事件は非常に多く、金田一少年の事件簿の定番という感じではありますが、実はこの手の事件はFILEシリーズの最後である速水玲香誘拐事件が最初だったりしますね。
そして、『犯人たちの事件簿』においては犯人の安岡真奈美が高遠遙一に頼りつつも「本当に大丈夫なの?」と心配になっている様子が面白いです。
「一応・・計画通り・・金田一を連れて来たけど・・。名探偵・・わざわざ連れてくる必要ある・・?」
高遠遙一は宿敵である金田一がやってきてツヤツヤしているけど、犯人である安岡真奈美からしたらわざわざ負わなくても良いリスクを負っていることになりますからね。
これは高遠遙一が登場する事件全般に言えることですが、高遠遙一は完全犯罪を狙うならまず金田一をはじめとした不確定要素を呼ばないことから始めるべきだったのかもしれません。
そして、金田一少年の事件簿を読んだ当時は僕もまだ子供だったのであまり実感がありませんでしたが、この事件は髭剃りの中に残ったヒゲの長短が証拠になっています。
確かに、今なら一日剃らなかったらこういう証拠が残るんだろうと実感できますが・・
「気持ち悪い解かれ方・・」
そうなんですよね。いろいろな手段での犯行。そして様々な意外な証拠が登場する金田一少年の事件簿ですが、ここまで気持ち悪い証拠は珍しいかもしれませんね。(笑)
氷点下15度の殺意
金田一少年の事件簿といえば比較的長編の事件が多い印象ですが、短編も意外に多いです。
短編の犯人には大概怪人名もありませんが、これはこれで面白いですよね。
氷点下15度の殺意は、事件名にセンスがあって短編の中でもかなり強く印象に残っている事件のひとつです。
そして、『犯人たちの事件簿』における犯人のツッコミは、よくよく考えてみると本家を読んでいる時の読者が抱いているものを代弁している感じになっているものも多いと思うのですが、氷点下15度の殺意の鈴森笑美のツッコミもまさにそうです。
「鈴森笑美・・まさかの無罪・・!! 人一人殺そうとしたのに・・?」
鈴森笑美の本来の罪は殺人未遂。
未遂とはいえ明確に殺意を持って行われた犯行です。
タイトルからして氷点下15度の「殺意」ですからね。
確かにこの短編、本家でもラストはほっこりハッピーエンドって感じで終わるんですけど、考えてみたら凄いことですよね。
不幸な誤解が入り混じっていたとはいえ、鈴森笑美の犯行は間違いなく許されざるものだったはず。
だけど、それに対して犯人自らがツッコミを入れているのがちょっと皮肉な感じで面白かったと思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
ついにFILEシリーズが終わり、次巻からはCaseシリーズが始まるようです。
FILEシリーズの描かれた順番は本家とは違っていますが、オペラ座館殺人事件からはじまり、速水玲香誘拐殺人事件で終わるところはさすがに押さえられているという感じです。
そして、『犯人たちの事件簿』が一体どのシリーズまで描かれるのかはずっと気になっていたところなのですが、Caseシリーズも描かれるということで嬉しい限りですね。
今巻には短編シリーズである氷点下15度の殺意も収録されていましたし、他の短編もあったらもっと嬉しいと思います。
個人的には小説版の事件が好きなので小説版とかが『犯人たちの事件簿』になったら面白いと思うのですが、原作に絵が無いので流石に難しいんでしょうね。