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『犯人たちの事件簿(8)』グランドフィナらない漫画の感想(ネタバレ注意)

 

犯人たちの事件簿の8巻目は、CASEシリーズの4事件が一気に取り上げられています。

個人的にはこの辺の事件が原典を読み返した回数も最も多いところで、読んでいて懐かしい気分にかなり浸れました。

そういえば原典の方でも金田一の絵柄は徐々にポップなものになっていきましたが、犯人たちの事件簿の表紙を並べてみると、そういうところも反映されていて本家への愛が感じられますね。

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本作の概要

天草財宝伝説殺人事件の「白髪鬼 こと和田守男。

怪奇サーカスの殺人の「MONSTER」こと小椋乃絵留、小椋顕人。

雪影村殺人事件の島津巧

金田一少年の決死行の巌窟王こと周龍道。

7巻のレビューでも言及しましたが、CASEシリーズになってやっぱり犯人たちの若年層化が進んでいますね。

オッサンが一人混じっていますが、その変わり中学生以下が二人も参入していますし、周龍道も見た目だけなら少年ですからね。

本作の見所

天草財宝伝説殺人事件

金田一少年の事件簿』という作品の特徴として、殊更初期作品の特徴としては犯人側にかなり同情すべき点があって、被害者側にそりゃあ殺されて当然と思ってしまうような部分があることが少なくありません。

犯人の同期を紐解いた時に、殺人の加害者とはいえどうしても共感してしまうことがあったりして、だからこそ初期作品に登場する犯人には何故か魅力に感じられるようなところかあって、犯人たちの事件簿のようなスピンオフが成り立つのだと思います。

とはいえ、これはあくまでも傾向ではなくただただ酷いと思わされるような動機を胸に殺人を犯す犯人もいます。

天草財宝伝説殺人事件の白髪鬼こと和田守男の場合、動機自体には確かに同情の余地はあって相当追いつめられた末の犯行であることは間違いないのですけど、その手段として殺害された被害者たちには何ら落ち度が無いという点で指折りで酷い動機を持った犯人であると言えますね。

そして、CASEシリーズでは珍しいオッサンです。(笑)

当時は金田一より年下だったのに、今はそんなオッサンとほぼ同世代なのだから笑えませんけど。

この事件の特徴としては、金田一に登場する怪人ってもともとその土地にあった伝説やうわさ話にまつわるものに見立てたりしているものが多いところを、犯人自らが見立てのためにわざわざ噂をバラまいていたってところですよね。

そんな特徴をあげつらって、噂をバラまく和田守男の姿が描かれているのが面白いところですよね。

まさに事件の裏側という感じですが、本編ではある意味鮮やかに行われているように見える犯行の泥臭い部分を上手くギャグにしてしまっています。

「ワテが話した白髪鬼の噂を、突然子供たちが恐い感じで言いに来ぉへんかな~」

そして、かなりの労力をかけているわりに他力本願なことを考えてしまっているのも面白いです。

本編でのこのシーンは、これから一体何が起こるのだろうという不安を掻き立てられる中々恐いシーンなのですが、犯人視点だと全く違って感じられますよね。(笑)

また、この事件では時たま金田一が行う犯人への罠が登場するのですが、謎解きの際に犯人が罠に引っ掛かって自滅したということだけ先に話しておいて、その後は順序だてて説明していくのですけど、自分が何に引っ掛かったのかをもどかしそうにしながら金田一の推理を聞く和田守男という構図が面白かったです。

怪奇サーカスの殺人

時たま10代前半の犯人が登場することもあるのが、意外と他の作品には見られない『金田一少年の事件簿』の特徴と言えます。

起きている事件がかなりおどろおどろしい本格ミステリ寄りの漫画であることを考えてみたら、かなり意外な特徴な気がしますね。

とはいえ、さすがに10代前半の犯人は珍しいですが、それが二人姉弟というのだから珍しと意外な犯人度で言えばトップクラスです。

弟の小椋顕人が12歳という年齢(恐らく金田一の犯人の中では最年少?)のわりに次々と悪魔のようなトリックを思いつき、それに協力しながらも姉の小椋乃絵留が若干引きつつもツッコミを入れるという構図になっているのが面白いです。

どう面白いのかというと、小椋乃絵留って原典の方では割と優しいお姉さん的なキャラクターなのでなかなか年季の入った感じの姉弟漫才のツッコミになっているのが面白いのですよ。

「姉貴、14歳だぞ・・」

そして、そんな小椋乃絵留にセクハラをかましたり着替えを覗こうとする金田一。若干中二病の気のある小椋顕人からまでツッコミを入れられてるのが面白いですよね。原典の方では気持ちはわかるって感じで協力しようとしていたような気もしますが。

いずれにしろ、意外とコンプラ違反気味な名探偵である金田一に対する犯人からのツッコミは犯人たちの事件簿でも定番化してきましたよね。

雪影村殺人事件

一応は長編の事件なのにたった一話しか描かれない哀しい犯人。これじゃあ短編の扱いと同じじゃあないか!

とまあ、犯人たちの事件簿の中でも不憫な扱いの島津巧。

稀によくある金田一の昔の友人が犯人だったパターンの一人ですが、実は初期作品の長編の犯人の中では非常に珍しい特徴のある犯人だったりします。

それは、怪人名が無いということ。

平和な村で起きた突発的な殺人事件なので、咄嗟に仕掛けられたトリックはなかなかのものではありますがいつもの恐怖感は少な目の事件で、いつもとは違った金田一を楽しめる魅力のあるエピソードではあるものの、その分犯人たちの事件簿に登場するような犯人にある個性が薄くなってしまっていたからこその扱いなのかもしれませんね。

犯人視点で語られてみれば、自ら名探偵を呼び寄せておいて突発的に殺人を犯すという何ともドジっ子な犯人という感じなのですが、原典を読んでいた時には気付かなかったポイントなので少々興味深かったです。

こんなことなら島津巧、和田守男みたいに自ら噂をバラまいておくべきでしたね。(笑)

金田一少年の決死行

金田一少年の決死行は、稀によくある金田一が犯人扱いされる事件ですが、そんな事件の中でも犯人である周龍道と共謀して逃走したり、そんな中でついには周龍道は金田一のことを気に入ってしまい冷徹になり切れなかったり、そして最後には犯人とその犯行を暴いた探偵という間柄でありながら友人同士になってしまうという『金田一少年の事件簿』の中でも指折りで珍しい展開の事件になっています。

そして個人的には、恐らく一番繰り返し読んだ事件なので何だか思い出深いものがあります。

金田一の犯人にある動機の中には非常に無残な経験が背景にあることが多いですが、周龍道はそんな中でも屈指の経験をしてきた犯人であるといえます。何しろそれが精神にだけではなく、身体にまで影響を及ぼしていますからね。

「しかし高遠にしろ金田一にしろ・・地上にはすごい奴らがいるんだな・・父さん・・」

多種多様なキャラクターが登場する金田一においても、こんなセリフを吐いても良いのは周龍道だけですよね。

「謎を解くのに麻酔銃も変声機も使わないが・・ただ次元はねじまげて来る・・」

また、こういうメタいツッコミも犯人たちの事件簿らしくて面白いですよね。原典の方で金田一がトリックを説明する際に登場した模型が確かに3Dでした。(笑)

総括

いかがでしたでしょうか?

CASEシリーズも終わっちゃいましたね。

個人的にはCASEシリーズあたりが一番好きなのでもう少しジックリやって欲しかったような気もしますが、しかしどうやらまだ終わりではないようです。

とはいえ本作品は懐かしい事件の振り返りがコンセプトの漫画なのであまり最近の事件まで描いていくわけにはいかないからなのか、2008年の『血溜之間殺人事件』までが予定されているようですね。

ちなみに、個人的に囲碁ファンということもあって『血溜之間殺人事件』が最後の事件というのは少し嬉しかったりします。

それにしても、確かに良作ではあるものの新規ものではない、別視点からの焼き直しを面白おかしく描いただけのスピンオフ作品が二桁巻に届くほど続くのは驚きですね。

まあ、それだけ面白いということは読んでいてひしひしと感じるところではありますが。

しかし、どうやら小説版の事件が取り上げられることはないようで、それは少々寂しいかもしれません。以前にも言及しましたが、僕が好きな事件は小説版に多いので・・ですが、元になる絵が無いので仕方のないところなのかもしれません。

いずれにしてもあと2冊は出てくるようなので、続きを楽しみにしていきたいと思います。