あるいは 迷った 困った

漫画、ラノベ、映画、アニメ、囲碁など、好きなものを紹介する雑記ブログです。

『幽遊白書(1)』短めだけど濃密な名作の感想(ネタバレ注意)

 

それでは、唐突ですが『幽遊白書』の全巻レビューシリーズを開始します!

この作品は、最初から最後までの統一感という意味では正直なところ最悪に近い作品となり、それが忌憚のない意見というものです。ごった煮感があるというか、その場のノリで物語が方向転換していったりするような印象があるのですね。

例えばテレビアニメ版しか知らない人がこの1巻を読んだ場合、100%の確率で「あれ、幽遊白書ってこんな話だっけ?」と疑問に感じるはずです。

何故なら、テレビアニメ版ではこの1巻の内容はほとんど削られてしまっていて、それで物語が成立してしまっているからです。

ごった煮だった部分から一部を削り取っても所詮はごった煮というわけですね。

しかし、そんな批判のような言葉も『幽遊白書』という作品にとってはむしろ誉め言葉なのではないかと思います。

ごった煮、結構、美味しいじゃないですか・・って感じです。

バトル要素のある漫画でいうと、僕は過去に『金色のガッシュ』『ダイの大冒険』といった作品をレビューしてきました。これらは両方ともストーリーに一本筋が通っているというか、目的がハッキリとした作品になります。

それに対して『幽遊白書』はその辺が曖昧・・というかそもそも存在しないような気がしています。もちろん一つ一つのエピソードにはそれがあるのですが、全体を通してと言われると微妙で、その証拠に完結だけを見ればかなり微妙な終わりの作品であるとも言えます。

このように作品の特性をあげつらってみれば誉め言葉どころか批判が数多く飛び出してきてしまうような作品・・であるにも関わらず、不思議な魅力に惹きつけられる作品でもあるのです。

それはキャラクターが個性的とかストーリー展開が優れているとか、そういう類の個性ではなく、作者自身の圧倒的な個性がにじみ出ている作品だからなのかもしれません。

?

本作の概要

皿屋敷中学2年生の浦飯幽助は、誰からも怖がられるいわゆる不良だったのです、車に轢かれそうな子供を助けたことでいきなり死んでしまいます。

しかし、浦飯幽助のその行動は霊界ですら全く想定しなかったもので、結果的にその死も本来は発生しないはずのものでした。

そこで霊界は、浦飯幽助に生き返るための試練を与えることになります。

本作の見所

生き返るための物語

死後の世界を描いた物語は少なくありません。

そこから生き返るための物語というのも僕はそんなに知りませんが、不死が一種の夢なのであればそういう物語だってきっとあるのでしょう。

しかし、それが超有名で王道的な少年漫画だと言われたら、『幽遊白書』以外の例は無いのではないでしょうか?

そして、そんな登場と同時に死ぬことになってしまった浦飯幽助というキャラクターですが、粗野で乱暴で女の子が嫌がるような下品な言動も平気で行う不良という属性で、言葉尻だけを捉えたら正直メイン読者層である少年にはそこまでウケなさそうなキャラクター性です。

そんなことはないと言われる人もいると思いますが、少なくとも同じ領域でのトップランカーである悟空やルフィとは全く違っていることは間違いありません。

しかし、そんなキャラクター性にも関わらず浦飯幽助は、一瞬で読者の好感度を獲得して愛着を沸かせることに成功しています。

浦飯幽助14歳。性格、粗野で乱暴。短期で無鉄砲。その上、手クセが悪いし頭も悪い。カツアゲ・万引き・ケンカ・喫煙・飲酒・賭博・補導の常習犯etc・etc・・・悪の申し子みたいな子ねー。死んでよかったんじゃないのー」

三途の川の水先案内人ぼたんからも散々な言われようで、もはや色々規制の厳しい現代であれば誕生しえない主人公であるとも言えますね。(笑)

「オレが突き飛ばしたガキどうなった? ケガしてなかったのか?」

それなのに自分が命を賭けて助けようとした子供のことを心配して、無事が確認できた時点で自分が死んだことはアッサリと受け入れる。そんな前評判とは裏腹な人間性を見せられて、浦飯幽助が本質的な悪人ではないことを分からせてきます。

特に序盤のエピソードには、浦飯幽助の本質と前評判のギャップを埋めるためのものが多いような気がしますね。

作中では浦飯幽助の幼馴染である雪村螢子が最初から浦飯幽助の本質を掴んでいるらしいキャラクターとして登場していますが、読者を雪村螢子の視点に近づけようというイメージでしょうか?

ともかく、こんな奴死んで当然って思われてしまうようなキャラクター性で、実際作中の通夜のシーンなどは酷い有様でしたが、一方でただの嫌われ者というわけではないという所も見えてきて、何とも興味を惹かれるキャラクターになっていたと思います。

伊達にあの世は見てねぇぜ!

というわけで、死んでいる状態から生き返るための試練を受けるというストーリー展開になっていて、だからなのかテレビアニメ版での浦飯幽助の決めセリフは・・

「伊達にあの世は見てねぇぜ!」

というものになります。

しかし、改めて読み返せば分かりますが、これは原作漫画の方で浦飯幽助が一度も発していないセリフとなります。

こういう決めセリフがアニメ版の中で新たに誕生するようなのって何だか素敵なことだと思います。

有名どころでいうと、「ぼくドラえもんです」が実は大山のぶ代さんのアドリブだったり、「真実はいつもひとつ」というようなことを言ったのはコナンではなく進一だったり、そういう原作との差異と同じですね。

テレビアニメでは語られないエピソード

さて、1巻では幽霊になった浦飯幽助が霊に纏わる様々な出来事に遭遇することになりますが、この辺はテレビアニメ版だと必要最小限に抑えられているところなので原作漫画版ならではの魅力がある部分だと思います。

今後本格バトル路線に移行していってからが醍醐味といえば醍醐味の作品ではあるのですが、例えば『地獄先生ぬ~べ~』にも近いような霊的な事件に関わっていくような流れも面白いと思います。

特に、テレビアニメ版しかしらない人にとってはかなり新鮮に感じられるエピソードが集まっているのではないかと思います。

魅力的な女性キャラクター

作者の冨樫義博先生は、例えば雪村螢子というキャラクターのことは嫌いらしいです。あんなに魅力的なキャラクターなのに・・

とまあ、そんな事情がありつつも『幽遊白書』に登場する女性キャラクター・・というか冨樫先生の描く女性キャラクターってとにかく魅力的な気がするんです。

今後レギュラー化していくキャラクター以外だと、この1巻にしか登場しないキャラクターも多いので、その辺にも注目して見てみて欲しい気がします。

あと、女性キャラクターじゃないですけど竹中先生は良いキャラしてるなぁって思いますね。(笑)

あんな良い先生、なかなかいないですよ~

総括

いかがでしたでしょうか?

実は、個人的に『幽遊白書』の漫画原作を読んだのはかなり後になってからだったりします。世代的には小学生の頃の作品のはずですが、確か全巻初めて読んだのは高校生の頃だったような・・

それなのに非常に思い出深い作品だと感じられるのは、やっぱりテレビアニメの影響が大きかったです。『幽遊白書』は本当に何度も繰り返し再放送されていましたからね。

当時は、今ほど多種多様なアニメが無かった代わりに一つの作品が凄い長期間愛され続けていたような印象があり、どこがドンピシャ世代なのかが曖昧になるほどだったような記憶があります。

そして、『幽遊白書』もそういった類の作品のひとつだったのです。

本レビューは文庫版の巻数をベースに実施していきますが、当時の単行本でも全19巻。現在の感覚では、いや当時の感覚ですら、長く愛される作品にしてはそれほど長期連載というわけではないということに驚かされます。

しかし、本レビュー記事のタイトルにも据えたように物語は非常に濃密な作品でもあります。

少々前時代的な不良のイメージを持つキャラクターである浦飯幽助が主人公ですし、その悪友の桑原和真にしたってそういうイメージのテンプレートみたいな奴です。

それでいて今でも全然古臭く感じずに読むことのできる名作ではあるものの、さすがに知らない人も増えてきたかもしれませんね。

それほど長編というわけではなく手が付けやすい作品でもあるので、興味がある人は一読してみてはいかがでしょうか?