『ヒカルの碁』の名場面、名台詞から囲碁を学ぼう!(その3)
前回紹介したダメヅマリに関するセリフは、囲碁という競技をかなり深くまで知らないと理解が難しいものだったと思います。
何が起きたのか。ミスした側にとってはどれだけ大きなミスで、筒井さんにとってはどれだけ大きなチャンスだったのか。
それを説明したつもりですが、やはりこの辺は実感が伴ってこないと理解が難しい領域だったのではないでしょうか?
なので今回は知らない人にも何が起きたのかが非常に分かりやすい『ヒカルの碁』のセリフを紹介してみたいと思います。
当事者というか、言われた側は前回と同じく筒井さんとなります。
今回の名場面・名台詞
ヨセで20目差がひっくり返った・・
※文庫版1巻の川萩中の顧問のセリフより
やはり数値化されると分かりやすいですよね。
囲碁の勝敗が陣地の数で決まり、その陣地を数える単位が『目』であることと、ヨセが終盤を意味する(厳密には違いますが、この場合はほぼニアリーイコールと捉えて問題ないかと)ということだけが分かっていれば意味は分かるのではないでしょうか?
要は終盤に大逆転した。と、それだけのことを言っているセリフなのですね。
そんな感じで何が起きたのかはとても分かりやすい場面です。
しかし、ある程度の経験者であればこのセリフからあることに気付きます。
それは、そんなに強くなさそうな筒井さんって印象操作されているだけで実は相当な実力者なのではないかということ。
加賀にヨセの間違いの無さを指摘され「目算とヨセはキッチリ!」と嬉しそうに返す筒井さんを見て、恐らく囲碁そのもののことは深く知らない人はこう感じたのではないかと思います。
筒井さんは実力者ではないけど得意分野もあるんだなぁ~
・・客観的に見て、そう感じるように描かれていると思いますし、実際僕も昔読んだ時はそう感じたものです。
しかし、恐らくはアマチュア低段くらいの棋力と思われる筒井さんの目算とヨセが完璧だなんてことはほとんどあり得ないことなのではないかと思われます。
僕自身の棋力は幽玄の間の基準で3~4段付近のレートなのですが、目算は何となく見た目だけ、ヨセはボロボロというのが正直なところです。9路盤で対局する時にたまにちゃんと目算する程度でしょうか。
ヨセで20目差がひっくり返った。その程度の出来事は逆転する方もされる方も日常茶飯事な体たらくです。つまり、僕と同程度の棋力の人のヨセはその時々によってたまたま精度の高い手が打てていた方が得をするようなものという感覚です。
また、この目算とヨセという分野がアマチュアとプロとで大きく差が付く領域だとも言われていますね。
そんな目算とヨセを完璧にこなせるということは、多くの人にとってなかなか克服できない弱点であり、結果として僅差の作り碁における不確定要素に近い領域になっているところで力を発揮できるわけで、つまりは常に実力通りのパフォーマンスを安定的に出せることに繋がるわけです。
逆に言えば、目算とヨセが完璧なのにアマチュア低段くらいの雰囲気の描写しかされていない筒井さん、他の領域がどれだけダメなんだって話になるのですけど、考えてみれば確かに定石の本を広げなら打っていたり、ダメダメな雰囲気はありましたね。(笑)
感覚的には、目算とヨセ以外の領域が2~3子くらい実力差でも、目算とヨセが完璧な相手に5分以上に勝てるかは怪しい気がします。
そんな感じで、実のところ『ヒカルの碁』で囲碁のスキルに関して一番ヤバイことを言っているのは実は筒井さんなのではないかとも思うんですよね。(笑)
まあ、長くなりましたが要するに、何を言っているかは初心者でも分かるけど、実力が伴ってくるにつれて印象が変わってくるセリフ(というか場面?)ということで紹介させていただきました。