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『いじめるヤバイ奴(1)』いじめの加害者になる恐怖を描いた珍しい漫画の感想(ネタバレ注意)

 

風刺的な作品の1ジャンルとして、いじめがテーマになっている作品は意外と多く存在するものです。

しかし、同じいじめをテーマにしている作品の中でもいじめるヤバイ奴は少々・・いや、かなり趣が異なる作品となります。

いじめの被害者側が、実は加害者側にいじめを強要しているという普通では、いや恐らくはありえないシチュエーションで、本当はいじめたくないのにいじめを強要させられている加害者の恐怖が描かれています。

「マジかっ!」ってツッコミたくなるような色物ストーリーですが、いじめの加害者になるってことは、突き詰めていくとこんなに怖い事なんだよって伝えようとしているのかなぁ~と解釈しています。

いや、本作品を読むと人を痛めつけることの怖さっていうのを改めて実感しますから、間違ってもいじめの加害者になりたいとは思わないに違いありません。

まあ、いじめって問題は加害者にいじめている意識が無い、場合によっては被害者側も無自覚ってこともありますから、そんなに簡単な問題ではないのだとは思いますが、本作品はそこの所を少しは自覚的になるために良い作品なのではないでしょうか?

かなり狂気的な内容に目が行きがちな作品であることは間違いありませんが、ちょっと変わったアプローチでいじめについて考えるキッカケになったような気がします。

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本作の概要

仲島くんはクラスに君臨する酷いいじめの加害者で、そのいじめは標的である白咲さんの髪が白く染まってしまうくらいに壮絶なものでした。

誰も逆らうことができない仲島くんでしたが、実はこのクラスが抱えるいじめ問題の中で一番の恐怖を覚えているのは仲島くんだったりします。

その目的は現時点では不明ですが、実は仲島くんはいじめの被害者であるはずの白咲さんに自分をいじめることを強要されていて、ぶっちゃけどちらが加害者かって聞かれたら明らかに白咲さんだと言えるくらいのシチュエーションだったりします。

そういうわけで、狂気的に歪んだいじめが描かれた特殊な作品になっています。

本作の見所

壮絶ないじめと見て見ぬ振り

放課後から翌日まで椅子に縛り付けて放置。その際に漏らしてしまった尿を強制的に舐めさせる。

そんな仲島くんのいじめは壮絶なもので、被害者の白咲さんはストレスからか黒髪から白髪に変わってしまっています。

というか、仲島くんの目が完全にいっちゃってる人のそれで、どう見ても危険人物のそれでしかありません。

周囲のクラスメイトは同調するしかない様子です。

「俺はあんなの間違ってる思ってるから・・」

唯一、田中くんだけが白咲さんにそう話しかけますが、表ではいじめに同調しているのに裏では良い人ぶっている偽善的な行動に葛藤しているようでもあります。

「自分が楽になりたいだけじゃないかよ・・!!」

これは加害者意識があっての想いだと思われますが、人間って偽善的だと思う行動に対しては意外と厳しいですよね。

ちなみに、個人的には「いじめを見て見ぬ振りする奴は同罪」という意見に対しては否定はだったりします。

いや、だって同調は確かに同罪かもしれませんけど、見て見ぬ振りを非難される理由が正直見つからないと思ってしまうんですよね。

冷たいようですが所詮は他人事でしかなく、君子危うきに近寄らずというか、何もしないことを安全なところから非難されるいわれは無いと思うからです。

それに同調だって、自分の身を守るためなら致し方ない部分もあると思います。

もちろん、正義感を持っていじめ加害者に注意することのできる人へは最大限の賛辞を送りたいと思いますが、大概そういう綺麗ごとは安全圏から発せられるものなので、それこそ何だか中途半端な偽善的な発言に聞こえてしまうんですよね。

このクラスの人間もかなり冷たいように見えますが、かなり危険そうな仲島くんに口出ししない方が利口だと思いますし、誤解を恐れずに言えば僕でも同じ状況なら見て見ぬ振り、場合によっては同調を選んでしまうかもしれません。

それだけに、田中くんの行動は確かに偽善的ではあっても、一歩踏み出した勇気ある行動だとは思いました。

仲島くんのいじめの動機

さて、そんな壮絶ないじめをしている仲島くんの動機ですが・・

なんと被害者である白咲さんに脅迫と共に強要されていたようで、邪魔が入っていじめきれなかったりすると罰を受けたりしているようです。

白咲さんの目的が今のところは不明ですが、白咲さんをいじめていた仲島くんが可愛く見えるほどに狂気に満ちた女の子ですね。

そういうわけで読者が抱いていた仲島くんへのイメージ、そして白咲さんのイメージを一瞬にして180度覆しにかかってきました。

それに実は人を痛めつけるような性質ではなかった仲島くんが、それでも義務的に白咲さんをいじめつづける姿は痛々しくすらあります。

白咲さんを助けようとする田中くんが、実はいじめを継続しないと白咲さんに罰を与えられる仲島くんを追い詰めていく結果になっていて、歪な形ながら実は加害者である仲島くんこそが、自分の身を守るために必死になっているというのは、意外にもいじめの本質的な原因を示しているようで興味深いですね。

いじめに対する学校の対応

歪な形とはいえ仲島くんを加害者。白咲さんを被害者としたいじめが起きているのは事実です。

それに対する学校側の対応がまたアレな感じです。

担任教師は援助交際の現場を仲島くんに抑えられていて、それはまあ担任教師が漫画的なクソヤローだったというだけのことですが、学校側の調査が明らかに不足していますね。

「我が校にいじめなどなかった!!」

クラスメイト1人1人に聞き込みをしただけで、いじめなどなかったと笑い飛ばす校長。

いや、いじめなんてものは少しでも関係ある立場からは「ある」とは言いづらいものなのに、本来少しでも疑いがある時点でもっと第三者の視点を含めた調査が必要なところだと思います。

まあ、その少しでも関係ある立場である学校関係者からしても「ある」とは認めづらいものなので、早計に判断する気持ちもわからなくはないですが、それをグッと飲み込むのが教師の仕事だと思うのです。

教育現場なんて全く知らない人間の素人意見ですが、実際問題そこのところはどうなのでしょうか?

人を痛めつける恐怖

頑張る田中くんのせいで完全にいじめを止められてしまった仲島くんは、白咲さんの自宅に呼び出されてしまいます。

「今日うち来な」

そこで仲島くんは罰としてペンチで歯を引っこ抜かれてしまいます。

ひぇ~こえ~

しかし、それ以上に怖いのは仲島くんに自分の歯を抜くように指示する点。

人の歯をペンチで抜くという暴力的行為を、しかし恨みを晴らす意味でも思いっきりやってやると意気込む仲島くんでしたが・・

この恐ろしく残酷な行為に無意識にビビってしまい、なかなか白咲さんの歯を抜くことができません。

いや、そりゃあ人間は大なり小なり誰でも共感性というものがありますから、激痛を伴うとわかっていること、しかも体の一部を欠損させるようなことは、例え自分以外のものであってもある程度セーフティーがかかるのが普通です。

しかも、仲島くんにあたっては直前にその激痛を経験しているわけですからね。

そう考えると、躊躇なく仲島くんの歯を引き抜き、最終的に仲島くんに歯を引き抜かれた時にも満足そうな笑みを浮かべていた白咲さんは、相当にいかれてしまった人間なのかもしれません。

果たして、白咲さんの目的は何なのか、そのあたりが気になる所ですね。

総括

いかがでしたでしょうか?

ぶっちゃけ、ここ最近読んだ漫画の中ではぶっちぎりで狂気的な作品だったと思います。ある意味では身近な問題だという点も、そう感じる要因の一つになっているのは間違いないでしょうけどね。

恐らくですけど、誤解を恐れずに言えばその規模に差はあれど誰もがいじめの加害者と被害者の両方を経験したことがあるのではないかと思っています。

それは自覚的なものもあれば、無自覚なものもあるに違いありません。

ある集団では加害者で、ある集団では被害者になっているなんてことも珍しくないでしょう。

思い返せば僕自身にもそういうところは間違いなくありました。

・・というか、よく「いじめを無くすためには?」と議論されることがありますが、個人的にこれはナンセンスな議論だと思っていました。

なぜなら、人間が集団生活をする生き物である以上は、自分より下の人物を作る、つまりはいじめの加害者になることは本能的で自然な行動であって、それを無くそうとすること自体は遺伝子に逆らうレベルの困難だと思っていたからです。

しかし、その本能的で自然な行動のデメリットを示し、誰もがそこに自覚的になれば少しはいじめを減らすことができるのではないか?

いじめ加害者の恐怖を描くいじめるヤバイ奴を読んで、ふとそんな風に思いました。

いじめの加害者になるってことは、突き詰めていけばこんなに怖い事なんだと自覚的にしてくれる作品なのではないかと、そう思ったワケですね。

最初は、単に独特な狂気を秘めている所に面白さがある作品だとも思いましたが、作者の中村なん先生にどこまでの意図があるのかは不明なものの、もっと深読みしてみても面白いのではないかと思いました。

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