ヒカルの碁 鑑賞会 漫画編! 懐かしの漫画、書評シリーズ【その2】23巻
ついに最終巻!(前巻の書評はこちら)
『ヒカルの碁』の北斗杯編は佐為がいなくなってしまったこともあって、「これは蛇足だ」「いらなかった」「主人公が負けて終わるなんて」と否定的な意見も多い所ですが、僕は全くそうは思いません。
むしろ、個人的には僕が今でも囲碁を趣味としているのはこの北斗杯編の影響が実は大きかったりするくらいです。
ヒカルvs社の対局で囲碁の自由さと奥深さを知り、ヒカルvs高永夏の対局に元ネタがあることを知って初めて棋譜並べをしてみたり。
囲碁のプロの世界や海外での囲碁事情などにも興味を持つキッカケになりました。
たぶん、あくまでも漫画を読みたくて『ヒカルの碁』を読んでいる人にとっては佐為という魅力的なキャラクターがいなくなってしまい北斗杯編は物足りなかったのかもしれませんが、囲碁の漫画としての『ヒカルの碁』を読んでいる人にとっては、囲碁界の変動や広がりが見られる北斗杯編は面白く感じたのではないかと思っています。
まあ、佐為がとても魅力的なキャラクターであったことは間違いありませんから、その不在を否定する人の気持ちはわからなくもありませんけど。
ちなみに、この最終巻にはそんな大人気の佐為が久しぶりに登場する短編も入っていますよ!
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本作の概要
いよいよ最終巻で、最終決戦です。
高永夏に敵愾心をむき出しのヒカルでしたが、中国チームとの副将戦で敗北したものの期待できる打ち回しを見せることができ、韓国チームとの団体戦では大将を務めることができました。
驚き戸惑う周囲の声を尻目に、ヒカルは高永夏との対局に臨みます。
本作の見所
ヒカルvs高永夏
最終決戦ということで最終巻の大半を使って描かれるヒカルと高永夏の対局。
詳細は今回の棋譜紹介で後述するとして、まさに一進一退の緊張感のある対局が描かれています。
意外と、この対局ほど対局者双方の考えが事細かに描写されているシーンって『ヒカルの碁』にはありませんよね?
特に、ヒカルが格上相手と対局する時にはマジで珍しいですよね。
相当な強キャラとして描かれている高永夏ですが、ヒカルの打つ手に戸惑ったり自分の失敗に気付いたり、どんな強い人でも全てが順風満帆では無いということが分かる感じで興味深かったです。
アキラvs林日煥
ヒカルと高永夏の対局も良いですが、アキラの対局もなかなか苛烈な感じで面白いと思います。
何というか、アキラはヒカルに見せたい意図がある対局の時、座間王座との対局の時もそうでしたが積極的な打ち方をする傾向がありますね。
意外とパワーファイターというか何というか。
普段の性格と棋風が一致していない碁打ちは多いですけど、アキラもそんな感じですよね。
決着
そういうわけで、第一部のラストはヒカルとアキラのライバル対決でしたが、北斗杯編はライバル並んでの対局となりました。(社もいるけど)
各所でヒカルは格上に勝てない主人公だと言われていますが、ラストは健闘したものの高永夏に敗れて終わります。
現代の日本と中韓の囲碁の実力差・実績を踏まえたら、かなりリアリティのある最後でありつつも、少年漫画のラストとしては少々もの哀しさもありますが、個人的には良い終わり方だったような気がします。
何というか、『ヒカルの碁』という漫画は終わっても、囲碁という終わりのないゲームを象徴しているような気もするんですよね。
ナンバーワンになったら終わりというわけでは絶対にありませんけど、漫画の中でナンバーワンになってしまうと、何か極まったというか、終わってしまったような感じがしてしまいますから、敗北で終わりというのもありなのかなって。
久しぶりの佐為
高永夏の対局中の描写が描かれていたことで、どんなに強い碁打ちでも全てが完ぺきとはいかないということが分かったということは前述しましたが、どうやら作中最強である佐為も例外ではないようです。
いやはや、番外編ですが久しぶりの佐為の登場はマジで嬉しいですよね。
しかも、本編では描かれたことの無かった対局で追い詰められているシーンが描写されているのですが・・
その対局が最初にアキラを一刀両断した時のシーンだというのが興味深いですね。
そう、アキラを一刀両断したシーンの佐為視点での短編なのですが、少ない『ヒカルの碁』の短編の中でも個人的には一番好きなんですよ。
実は、この対局で佐為は甘く見ていたアキラの実力が想像以上で、油断して一旦かなり追い詰められていたようです。
追い詰められていたからこそ、一刀両断するしかなかったというわけですね。
確かに、格下相手の対局でふと劣勢になった時に一刀両断するような勝ち方をしてしまうことって、意外とよくあることな気がしますが、佐為もあの時そういう状態になっていたわけです。
作中最強の棋士の本編では見られなかった追い詰められた姿が見られる面白い短編だったと思います。
本作の棋譜 教えてLeelaZero先生!
最後はやっぱりヒカルと高永夏の対局で、劉昌赫九段(黒)と若かりし李世ドル三段(白)の対局が元ネタとなります。
個人的には初めて棋譜並べをした棋譜なのでかなり思い出深く、当時は囲碁界のことにもあまり詳しくなくて日本の棋士の名前すらほとんど知らない状態だったのに李世ドル先生の名前は覚えていました。
当時の僕は二桁級で、手の良し悪しも全くわかりませんでしたが、それでも初めて棋譜並べした碁ということで本局の流れはかなり鮮明に覚えています。
今思えば、左上の高いハサミに対して両ガカリするような打ち方がかなり珍しいということがわかりますが、星に高くハサまれたら両ガカリすれば良いんだと思って、ずっとそう打っていたりしました。(笑)
ともあれ、当時よりは僕も強くなっているので多少は理解できるようになっているかと思いましたが、う~ん・・
そこは本当に「多少は」という感じでした。
(図1)
白のキリが絶妙ですね。
昔棋譜並べした時には、何が良いのか全くわかりませんでしたが、作中でもヒカルが言っていますが、キッてきた白石を抱えて取りにいこうとすると、左上の少々窮屈そうに見えた白が厚い形になってきますね。
こういう形を決めたり崩したりするための手というのは、二桁級程度だった頃の僕には全く理解できませんでしたが、こういうちょっとしたことで大きく差が付く重要な考え方だということが少しは分かってきたつもりです。
しかし、興味深いのはLeelaZero先生の候補手が作中で酷評されてるキッてきた白石を抱える手になっていること。
AIに意図というものがあるのかどうかはともかくとして、あえて意図があるのだとしたら分かりやすく形を決めてしまった方が良いという考え方なのかもしれませんね。
それに、AIは先手を重要視している傾向があるらしいのも抱えを候補手とした理由かもしれません。
実戦の右側にオシていく手の場合、左上に手入れが必要になって先手を取られてしまいますからね。
(図2)
中央付近の白が作中で高永夏が、ヒカルの打つ手をヌルいと言って打った好点となります。確かに左上から連なる弱い白石を強化し、黒からも攻めづらくなっている意味があるのでかなりの好転であることに間違いはありませんが・・
代りに左辺白はかなりペシャンコにされてしまいます。
作中の高永夏の反応を見ると、図2の左上の赤丸の位置のノゾキが利くと思っていたけど、左下の赤丸の位置の二段バネには手を抜けないというのが誤算だったということかと思われます。
二段バネの一段目を打たれる前ならノゾキは利くので、好点に打つタイミングが失敗だったというわけですね。
たった一つの手順の違いで随分と景色が変わるものです。
(図3)
この手で白を切断するとヒカルが意気込んでいるシーンがありますが、連載当時この手がなぜ切断に繋がるのかは全く理解できませんでした。
そして、実は今もよくわかっていません。(笑)
後の展開を見ると確かに切断する結果になり、作中でも高永夏が読みを入れている盤面が描かれていますが、この手の段階でそこまで読めるなんて尋常じゃあないですよね。
もし仮に、この対局を僕が打っていて白の立場なら、この黒は切断を狙った手ではなくあわよくば右辺黒を強化しようという手だと判断していたと思います。
ちなみに、図3を見たらLeelaZero先生の候補手も見えていますが・・
思いっきり左辺黒に襲い掛かっています。
いや、確かに目に付く手ではありますが、お互いに怖い手だと思うので僕は黒だと打たれたくありませんし、白だとしても打ちたくないと思います。
(図4)
作中でヒカルが悶絶してた二線のキリ。
当時棋譜並べしていた時、こういう二線にある石は抱えられると取られるということはさすがに分かっていたので、なぜこういう手が良いのかが全く理解できていませんでした。
今ならわかりますが、打たれると確かに悩ましい。
これも序盤の上辺のキリと同じで相手の形を崩そうという手ですね。
ちなみに、僕も棋風的にはこういう相手の形を崩す手が好きでよく打つのですが、よく考えずに勝手読みしてしまうことも多くなりがちな打ち方なので注意が必要だったりします。(笑)
総括
いかがでしたでしょうか?
ついに、終わってしまいました。
一週間で一冊分のレビュー記事を書いてきたので、約半年じっくり時間をかけてきたことになります。
今までの人生で読んできた全ての漫画作品の中でも五本指に入り、囲碁が最大の趣味になるキッカケになった『ヒカルの碁』という作品は、本当に好きな作品なので何度も読み返していますが、半年もかけて読み返したのは初めてかも知れません。
じっくりと読み返すことで今まで気付いていなかった発見もあったりして、ぶっちゃけ大変でありつつも楽しかったです。
どれだけの人が23巻分すべての記事を読んでくれたかは定かではありませんけど、もしそういう人がいたら、「本当にありがとうございました!」と声を大にして言いたいと思います。