『冠さんの時計工房(1)』働く女性が素敵な漫画の感想(ネタバレ注意)
スカッとするような爽快感があるわけでも、飛びぬけた面白さがあるわけでもない。
言葉は悪いが少々地味であると言わざるを得ない。
しかし、読んでいてホッコリと温かい気持ちになれる素敵な漫画。
それが『冠さんの時計工房』という作品だと思います。
どんなお仕事であれ、それに男女問わず、楽しそうに仕事している人はキラキラと輝いて見えるものです。
『冠さんの時計工房』は、そんな風にキラキラと輝いた女性が描かれた作品になっています。時計工房というどちらかといえば男臭いイメージのあるところで、若い女性が楽しそうに店主を務めているというギャップが良いですね。
あまりこういう作品に対して「〇〇と似ている」という別の作品と比較するような評価をすることは失礼なのかもしれないとも思うのですが、変わった職業の働く女性を描いている作品としては『映写室のわかばさん』、近隣住民との交流が描かれている雰囲気や、女性の師匠的な人がいる点からは『ひまわりさん』を思い出しました。
だから、こういった作品が好きな人には楽しめる漫画なのではないかと思います。
それに、確かにこれらの作品と似ていると感じた一方で『冠さんの時計工房』には『冠さんの時計工房』だけの良さもあるとも感じました。
具体的には、『映写室のわかばさん』のわかばさんや『ひまわりさん』のひまわりさんはどちらかといえばキャラクター的な魅力が強いのに対して、もちろんそれはそれで良いのですけど、『冠さんの時計工房』の主人公である冠綾子の場合はよりリアリティのある働く女性として描かれているのではないかと感じました。
ちょっとした感情の変化が、大袈裟に描かれているわけでもないのに、しかし自然に描かれているのも良いですね。
?
本作の概要
個人経営の街の小さな時計店には、冠綾子というキラキラと楽しそうに働く店主がいて、いろいろな人が訪れてきます。
慌ただしくもゆっくりとした優しい時間が流れる時計店が魅力的な漫画です。
本作の見所
楽しそうに働く女性って素敵だなぁって話
本作品の中心は何といっても冠綾子というキャラクター。
冠綾子が店主を務める時計店に訪れるいろいろなお客さんとの交流が微笑ましい作品ではありますが、こういった交流が微笑ましく感じられるのは冠綾子のキャラクター性あってのことだと思います。
前述したとおり冠綾子というキャラクターには本当にキラキラと楽しそうに仕事をしているイメージがあります。これは不真面目で、例えば仕事そっちのけでお客さんとずっとお喋りしているとか、そういう意味ではありません。
むしろ夜中まで真面目に忙しく働いているようなキャラクターとなります。
時計工房といえば職人気質の男性が引き籠って熱心に時計をいじっているイメージがあるのですが、そういう職人気質の男性って自分の仕事に誇りを持っていてそういう部分では輝いて見えるし尊敬もできるけど、どちらかといえばコミュ力低めなことも多いですよね?
一方、冠綾子はそういう男性的な職人気質がありつつも女性的なコミュ力の高さもあって、職人気質的な魅力にプラスアルファしたような魅力があるのだと感じました。
意外なお仕事を楽しくこなすギャップも魅力ですよね。
とまあ、いろいろと語ってみましたが要するに「楽しそうに働く女性の魅力を最大限に引き出した作品」こそが『冠さんの時計工房』なのだと言いたかったわけです。
時計工房というあからさまに手先の器用さが求められる仕事をしているのに料理が苦手という一面があったり、仕事中は真面目だけどチーズケーキに目が無くて誘惑に負けそうになったり、そういう隙を見せてくれるのも良いですね。
また、時計工房に引き籠って仕事をしている時には普段はおろした長髪を少々子供っぽい雰囲気のツインテールにしているのですが、これが痛々しくない。
冠綾子の年齢は不明ですがそれなりにいい大人ではあるはずです。少なくとも、普通であればツインテールなんて痛々しいくらいの年齢のはずなのですが、これが痛々しくならないのはファッションではなくあくまでも仕事のために髪を纏める目的でツインテールにしているからなのだと思われます。
これで恥ずかしがったりして髪形を意識させるようなことをしたら若干の痛々しさが出てくるのかもしれませんが、この髪形をしている時の(というか常にですが)冠綾子はとても楽しそうに仕事しているので、ものすごく自然に見えるのです。
いやはや、あまりこういうほのぼのとした日常を描いたような作品のキャラクターに対して「このキャラクターがすっごく好き!」みたいに思うことって少ないのですけど、個人的にはこの冠綾子というキャラクターがとてもとても気に入りました。
お客さんとの交流が温かい店って素敵だなぁって話
隣人の雪枝はお客さんであり冠綾子の同世代の友人です。
昔からの友人のように見えるほど仲が良いですが、1年前に知り合ったばかりの、大人になってからの付き合いの友人らしいですね。
個人的には大人になってから友人らしい友人ができたことがなく、仕事で知り合った人はどんなに仲が良くなってもあくまでも仕事の人でしかないと感じてしまうところがあります。
だから冠綾子と雪枝の関係性がとても素敵に感じられますし、お客さんとそういう関係性まで発展するお仕事も素晴らしいと思います。
最近は、こういうお客さんとの距離感の近い職業って明らかに少なくなっていますもんね。
いろいろな面で便利になって、その背景にはいろいろな人のお仕事があるわけなのですけども、その分どんどんビジネスライクなお仕事になっていくってのはあると思います。
雪枝だけではない。たくさんのお客さんとの距離の近さが素敵な漫画だと思います。
総括
いかがでしたでしょうか?
非常に個人的な話ですが、かつて仕事に対していつも「疲れた」「やる気がでない」「楽しくない」「辞めようかな?」なんてことばかり言っていたり、仕事の関係者に対する文句も絶えないような女性と会ったことがありました。
外見的にはとても可愛らしかったのですけど、正直一緒にいて楽しくないどころか苦痛ですらあったのを覚えています。
そんな風に、仕事に対する姿勢って意外とその人そのものの魅力に直結してしまうところがあるのだと思います。
この出来事で唯一良かったのは、大変なのは事実でも大変なりに、もっと楽しく仕事をした方が自分自身の魅力に繋がるのだと僕に気付かせてくれたことくらいでしょうか?
前置きが長くなりましたが、そういう意味でフィクション作品においても「仕事を楽しそうにこなしている」ということだけでひょっとして一つの魅力的なキャラクター属性にすらなっているのではないかと『冠さんの時計工房』を読んで思ったわけです。
男女問わず、誰もが冠綾子のようにキラキラと仕事出来たら素敵ですよね。