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『全時空選抜最弱最底辺決定戦(1)』俺YOEEE? 新発想の漫画の感想(ネタバレ注意)

 

ここ数年いわゆる俺TUEEEな異世界転生・転移モノの作品が、想像していた以上に長期間流行り続けていて既にある種のテンプレを築く一大ジャンルになりつつあります。

また、テンプレからは少し外れたひと捻り加えたような作品も数多存在しますね。

しかし、主人公が誰もが憧れるような特別な体験をしているようなところは大抵共通していると思います。

いや、もちろん主人公の本意ではないという体になっているケースもありますが、多くの人がスカッとするような展開は基本同じですね。

そういう作品群をいわゆる俺TUEEEなんて括り方をすることがありますが、個人的にはこういう作品のことを、良くも悪くもお手軽にカタルシスを得ることのできるサプリのような存在だと思っています。

そういう意味で全時空選抜最弱最底辺決定戦という作品は特殊で、俺TUEEEとは全く逆をいく作品であるといえます。

主人公はあまりに弱いし情けないし、正直なところ読んでいてスカッとするようなことはないのですが・・

物珍しさからくる面白さはなかなかのものです。

俺TUEEEの作品に飽きた人は、たまにはこういう作品も読んでみてはいかがでしょうか?

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本作の概要

目を覚ました吉澤ひとむは、気付けば大きなスタジアムの真ん中に倒れていました。

これは様々な時空から集められた雑魚キャラの中でも最弱を決めるトーナメントで、吉澤ひとむは順調に負け上がっていました。

神々の趣味の悪い遊びに付き合わされることになった吉澤ひとむはそこから逃げ出そうと神々にとっても想定外の行動をとりますが、そこから最弱たちの過酷な冒険が始まります。

本作の見所

全時空選抜最弱最底辺決定戦と吉澤選手

「お前、実に駄目だな。最適だ。お前を私が統べるこの時空代表の最ザコキャラに認定しよう」

会社帰りの吉澤ひとむは、何ともネガティブで情けない思考の持ち主で、犯罪者ではありませんが非常に自分本位で身勝手なことを、しかし空想しているだけの微妙な男でした。

全国の吉澤さん、まして吉澤ひとむさんにとっては失礼極まりない話でしょうが、まあ比較的どこにでもいそうな名前ということでしょうかね?

ともかく、吉澤ひとむは吉澤選手として、様々な時空の雑魚キャラの中で最弱を決めるトーナメント、全時空選抜最弱最底辺決定戦に強制的に出場させられることになってしまいました。

様々な時空の最弱キャラに殺されては蘇り、殺されては蘇り。

勝ち上がるのではなく負け上がるトーナメントで吉澤選手は着実に最弱へと近付いていました。

そして、予選5ブロックで1勝もできずにトーナメントの頂点に来てしまった最弱の5選手の一人になってしまったようです。

スペースオペラ時空のK選手。

剣と魔法時空のスライム選手。

マスコットモンスター時空のゴッヂン選手。

妖怪時空の豆腐小僧選手。

人間時空の吉澤選手。

なんとも弱そうな5選手ですが、吉澤選手の気付きでこの5選手は競技場の外に脱出することになります。

しかし、神々はそのアクシデントを演出に変え、しかも吉澤選手たちも競技場にいたら死に戻れたところが外に出てしまったことで死がイコール本物の死という状況に陥ってしまいます。

・・とまあ、そんな感じでかなり独特なストーリーで、スカッとするようなところはあまり無いのですが、何故だか先が気になって読み進めてしまうような面白さがあります。

そういう時空

色々な世界観のキャラクターが入り乱れているのも全時空選抜最弱最底辺決定戦の面白いところだと思います。

逃げ出した吉澤選手への最初の追手プーたろうは、名前は働いてなさそうな名前ですがいわゆる子供向けアニメっぽい世界観の住人なのでしょう。

無邪気で純粋で素直。

「たのみごとをきくのは「しんせつ」なんだよ」

一切の迷いのない純粋さは、一滴の不純物で邪悪でしかなくなってしまうのかもしれませんね。ただの悪党や、生に執着して必死に何をするか分からない者も怖いですが、純粋さからくる怖さは一種のホラーだと思います。

最弱の魔物といえば

スライムといえばファンタジー世界における最弱の代名詞で、間違いなくドラゴンクエストの影響があると思っているのですが、最近ではこの最弱というイメージを逆手にとって最強のスライムみたいなキャラクターを描いた作品が時たまありますね。

しかし、全時空選抜最弱最底辺決定戦に登場するスライムは最弱のイメージそのままで、吉澤選手の元カノでしょうか? サヤカさんの姿に形を変えて吉澤選手についてきます。

表紙の青い娘ですが、これがメインヒロインだとしたらそれだけでなかなか強烈な漫画だと思います。

ちょっと特殊な性癖の人は好きなのかもしれませんが、個人的にはちょっと微妙かもしれません・・と思いつつこういうのも面白いとは思います。

戦闘用ロボットと掃除機

自らのことを戦闘用ロボットだと言う割には弱そうなK。

Kって聞くと夏目漱石の『こころ』しか思い浮かばないんですけど、いずれにしてもあまり強そうな名前ではありません。

戦っても死なないと思い込んで余裕ぶっているKですが、こういう精神状態ってすごいよく分かります。

吉澤選手の言う通り、こういう根拠のない余裕をかましている時って絶対とまでは言わないまでも何かしら失敗してしまう可能性が非常に高いんですよね。

・・とまあ、そういうK選手の余裕ぶった態度は置いておいて、戦闘用かと思いきや実はただの掃除機だったことが判明した際のK選手のなんとも言えない表情がグサッときます。

僕自身、あまり立派な人間だとは自信をもって言えないものの、自分は一端の人間であると暗示的に振舞っているところがあるので、こういうK選手の心情に切なくなるのかもしれません。

総括

いかがでしたでしょうか?

かなり癖のある作品でしたが、独特の面白さがあったと思います。

いわゆる俺TUEEE系の作品って、主人公の活躍にかなり中毒的にスカッとする感覚があって、それでサクサクと読み進めたくなるようなところがあると思います。

全時空選抜最弱最底辺決定戦にはそういう種類の中毒性はないのですが、あまりにもテンプレ的な展開からは外れているので先行きが想像できない面白さがあります。

一定以上多くのフィクション作品に触れている人なら、大抵の作品では「この後こんな展開になるだろうなぁ~」というちょっとした予想ありきになってしまうことも多いと思うのですが、そういう部分の少なさが本作品の魅力だと思います。