『子供はわかってあげない』ゆるゆる日常系ミステリーの感想(ネタバレ注意)
『子供はわかってあげない』はもう5年以上前の漫画ですが、最近読んだ同作者の『水は海に向かって流れる』があまりにも刺さったので、同作者の過去作品も読んでみたいと思い読んでみたわけです。
『水は海に向かって流れる』は、漫画作品にしてはそれほど大きな事件が起きるわけでもキャラクターが個性的なわけでもないのに、ストーリーにはいつの間にか引き込まれキャラクターも魅力的に感じられる自然な作品でした。
そんな漫画を期待して『子供はわかってあげない』も読んでみたわけなのですけど、なるほどこの理由の説明は難しいけど引き込まれる感じが田島列島先生という漫画家の持ち味なのだと改めて思わされました。
ちょっとした日常系で、ちょっとしたミステリーで、ちょっとしたSF要素もあって、ちょっとした青春ラブコメで、そんなごった煮のような感じの漫画なのですけど、キャラクターの言動がリアルで引き込まれてしまいます。
『水は海に向かって流れる』と同じく、その良さの説明が難しい作品ではあって、普段であればこうしてレビュー記事を記すのを躊躇うようなタイプの作品なのですが、凄く良かったのでこうして記してみています。
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本作の概要
タルンドル朔田と称される水泳部員朔田美波が本作品の主人公で、2年生で唯一大会に出場するほどの実力派スポーツ少女ではあるけどアニメオタクでもあります。
美波はある日『魔法左官少女バッファローKOTEKO』という好きなアニメをキッカケに書道部員の門司昭平と知り合いますが、その兄で探偵(という名の便利屋)の明大に実の父親捜しを依頼することになります。
なんというか、不思議な縁が描かれた作品なのではないかと思います。
ところで、公式には本作品のことを明大「水泳×書道×アニオタ×新興宗教×超能力×父探し×夏休み=青春(?)」と紹介されています。
というわけで、本記事ではこの要素ごとにレビューしていってみるのが面白いかと思ったので、そうしていきたいと思います。
本作の見所
水泳×書道×アニオタ
さて、最小の水泳×書道×アニオタが何を指し示しているのかと言えば、『子供はわかってあげない』の主要登場人物を指し示しています。
水泳は主人公の朔田美波。タルンドル朔田と称されるのに妙な納得感があるけど実力はピカイチの水泳部員で、人懐っこくはあるけどサバサバした性格という感じの女子高生ですね。
書道は、そんな美波がとあるキッカケで知り合うことになる書道部員の門司昭平。祖父の経営する書道教室で小学生に教える腕前の男子高校生です。
そしてアニオタはそんな美波と昭平の二人に共通した要素で、『魔法左官少女バッファローKOTEKO』というアニメの絵を学校の屋上で昭平が描いているのを美波が見つけたのが繋がりができるキッカケとなりました。
水泳部員と書道部員で別のクラス。接点のない二人の接点のある要素の掛け合わせと考えると中々興味深い数式です。
また、昭平の兄である性転換して女性になった探偵の明大もかなりの主要人物ですが、その要素まで加えると「女装×探偵」まで加わって更にごった煮感が出てきて面白かったかもしれませんね。(笑)
新興宗教×超能力×父探し
本作品の構成要素の中で最も「?」となる部分ですね。(笑)
新興宗教、超能力、父探し、ひとつひとつの要素はまあありがちなテーマではありますがこれらが掛け合わされることが果たしてあるのか。ましてや登場人物は水泳、書道、アニオタですからね。
まあ、簡単なあらすじだけ記しておくと、朔田美波の実の父親(両親は離婚済みで義理の父がいる)が対面した相手の心を読む超能力者で、新興宗教の教祖に祭り上げられているような人物・・だったのですが、教団のお金を盗んだ疑いと共に行方を眩ませてしまっていました。そんな実の父親捜しを探偵である門司昭平の兄明大に依頼します。
それが『子供はわかってあげない』のストーリーの骨子となるわけですが、ごった煮感がある割には意外とスッキリしていますよね。
ですが、そんなストーリーの中で織りなされるキャラクターの掛け合いが楽しかったり、切れ味のあるセリフが魅力だったりして読んでいて全く飽きません。
個人的には、朔田美波と門司昭平のほんの少しずつ変化していく関係性がリアリティがあって面白いともいます。
夏休み=青春(?)
キャラクターとストーリーの骨子、様々な要素がある作品ですが結局のところひと夏が作り上げたラブストーリーということになるのだと思います。
朔田美波と門司昭平の関係性は最初、好きなアニメが同じという趣味友達でしかありませんでした。その後、朔田美波の父親捜しというエピソードに突入していきますが、門司昭平は探偵である兄を紹介しただけでしばらくはストーリーの骨子の部分へは関わっていきません。
それが実の父親のところから戻ってこない朔田美波を迎えにいった時から二人の距離感に明らかに違いが出てきます。
この変化はかなり急激にも見えるのですが、それ以前にも若干の感情の変化が少しずつ描かれていたので違和感は全くなく、ああこの作品はラブストーリーでもあったのだと気付かされました。
なんというか、相手を好きになるというよりは徐々に意識していくという描き方がリアルに感じられて、最後にそれを確認する朔田美波の告白シーンは、今まで読んだ漫画のどの告白シーンよりもグッと刺さりました。
そして、ここが『子供はわかってあげない』という作品のハイライトであり、最大の見所であるということを考えてみれば、上巻だけ読んでもその良さの半分までしか伝わらないため、上下巻を通して読んでみるのをオススメします。
総括
いかがでしたでしょうか?
僕のレビューで『子供はわかってあげない』という作品の良さがどれほど伝わるかは分かりませんが、これで興味を持つ人がいたら嬉しいです。
正直なところ、何かキッカケが無いと興味を持ちづらい作品ではある気がするんですよね。
表紙が派手なわけではなく、どんな物語なのか予想もできない。絵は段々とクセになってきますけど、お世辞にも上手い方ではない。それでいて明大「水泳×書道×アニオタ×新興宗教×超能力×父探し×夏休み=青春(?)」なんてごった煮感のある紹介がされているものだから、初見ではどうしても手に取りづらいところがあります。
しかし、それでスルーしていてはもったいない作品であることは間違いありません。
たった20話で構成される漫画ですが、それだけによく纏まっていて最初から最後まで面白さは変わりませんし、上下2冊構成というのも普段漫画を読まない人でも手軽に手に取りやすい冊数です。
また、どうやら今年(2020年)には劇場映画化も予定されているようでタイムリーな作品でもあるので、この機会に手に取ってみてはいかがでしょうか?