『ラブひな(10)』現代お約束ラブコメの原点とも言える作品の感想(ネタバレ注意)
新たな目標に向かい始める10巻です。(前巻のレビューはこちら)
浦島景太郎に関してはパララケルス島のエピソードで既に自分の目標を見つけかけていましたが、そんな浦島景太郎に触発されてやりたいことを模索する成瀬川なるの姿が印象的でした。
また、乙姫むつみの記憶喪失によって未だすべてが明らかにされていない浦島景太郎と成瀬川なると乙姫むつみの3人の幼少期が少し垣間見えてきます。
?
本作の概要
前巻で浦島景太郎は成瀬川なるに告白し、成瀬川なるも自分の気持ちに整理が付ききっていないものの一定の答えを出します・・が、友達以上恋人未満な微妙な関係を続けてしまっているウブな二人。
乙姫むつみの記憶喪失がキッカケで少し進展したのかしなかったのかは微妙なところですが、少なくとも成瀬川なるは今まで以上に浦島景太郎のことを意識するようになってきました。
一方で東大に合格した二人はそれぞれやりたいことを模索していますが、考古学に興味を持った浦島景太郎は海外留学、つまりはひなた荘からいなくなることを計画していました。
本作の見所
二人だけのひなた荘
みんな何かしらの事情でいなくなって、浦島景太郎と成瀬川なるの二人きりになったひなた荘では、友達以上恋人未満な様子が描かれています。
いや、停電中とはいえドタバタせずに混浴している様子はもはや恋人以上である気もしますが。(笑)
前巻で一応は告白の返事らしきものを、かなぁり曖昧ではあったもののしている成瀬川なる。つまりは浦島景太郎が多少恋人らしいことをしようとしても成瀬川なるは今までのようには文句を言えません。
しかし、文句を言ったり良い雰囲気になっても微妙に間が悪かったり。
なかなか恋人らしい雰囲気になりきらないのがこの二人らしいといえばらしいと思います。
「で、でもあのアレだよね。夏だし例えば沖縄の海とかさ、そーゆー開放的な所に行っちゃったりすれば私もちょっとはOKかなーとか思っちゃうかもよ」
成瀬川なるのフォローのセリフも、今までなら見られなかった感じのセリフだと思います。
そして、こんな今までよりも大人っぽいセリフを言っている成瀬川なるが、逆に今まで以上に子供っぽく見えるのが興味深いシーンだと思います。
乙姫むつみの記憶喪失
二人きりだと思われたひなた荘には乙姫むつみが残っていました。(笑)
温泉の水面下から登場するのには笑いました。
こういう登場の仕方が違和感のないキャラクターですよね。
そして、沖縄というワードを出した成瀬川なるに反応して、三人で沖縄に行くことになります。
この組み合わせとシチュエーションはどことなく3巻の傷心旅行編を思い出させられますね。
「とにかく私はお2人を応援しますよ」
相変わらず浦島景太郎と相性の良さそうな所を見せつつも、かなりグイグイと成瀬川なるを浦島景太郎にくっつけようとする乙姫むつみが印象的でした。
おっとり天然系で、あまり恋愛系の話をしなさそうなタイプにも見えるのですが、こと浦島景太郎と成瀬川なるのことになるとテンションが上がるのは、2人とは幼馴染だったからというのもあるのかもしれません。
そして、そんな乙姫むつみが・・
まさかの記憶喪失に!?
現実には見たことないけどフィクション作品では山ほど発生する記憶喪失ですが、『ラブひな』の中では乙姫むつみほど記憶喪失が似合う(?)キャラクターも他にいませんよね。(笑)
また、乙姫むつみの記憶喪失は記憶が昔に遡る形のものとなります。
そこでおしゃぶりを加えつつ乙姫むつみが遡っている年齢児のコスプレをしてみせる成瀬川なるがまた笑わせてくれます。今巻、意外と成瀬川なるが今まで以上にギャグキャラ化している印象がありますよね。(笑)
ともあれ、このエピソードがちょっと忘れかけていた『やくそくの女の子』。浦島景太郎と成瀬川なるの過去にかなり迫ったものになっているところが見所です。
しおらしいカオラ・スゥ
カオラ・スゥといえば、ちょっと何を考えているのかよくわかないところがありつつも基本的には元気っ娘という感じです。
今巻、そのカオラ・スゥがちょっとしおらしい雰囲気になっています。
しおらしいというよりは、儚げといった方が的を得ているかもしれません。
一体何があったのか?
ひょっとして恋をしているのか?
ひなた荘の住人たちはいろいろと推測していますが・・
「スススス、スゥちゃんが恋~っ!? そ、そんなまさか・・ありえない・・」
浦島景太郎の反応が若干失礼すぎるのが面白い。(笑)
しかし、カオラ・スゥってそういう反応をしてしまうのも分かる感じのキャラクターなんですよね。
そして、カオラ・スゥの様子がおかしかった原因は、乳歯(前歯)が抜けてしまったからという可愛らしいものでした。
中学生まで乳歯が生え変わりきっていないというのは珍しい気もしますが、だからこそ気にしているのかもしれません。
前歯が無いことくらいで気にするようなキャラクターでもないと思っていましたが、それこそ浦島景太郎と同じで失礼な発想なのかもしれませんね。(笑)
成瀬川なるの目標探し
『ラブひな』のショートエピソードのなかで地味に好きなのが、成瀬川なるが塾の講師をしていて、そこに浦島景太郎が生徒のフリをして潜入するエピソード。
仮にも全国模試でトップを取ったこともある東大生である成瀬川なるですが、緊張しているのか簡単な問題に苦戦してしまったりしている姿が新鮮です。
「景太郎って考古学の話とかしてるとき結構かがやいてるじゃん。私も何か探さなきゃって・・。私もあんたみたくかがやきたくってさ。今、一生懸命探してるトコなんだヨ」
そうなんですよね。
成績だけを見たら成瀬川なるの方が上なのかもしれませんが、浦島景太郎は意外と素直なところがあるからか、パララケルス島であっさりと自分のしたいことのキッカケを見つけてしまっています。
そういう風にやりたいことが見つけられるのって、意外と輝いて見えるものだと思います。
そして、だからこそ成瀬川なるは浦島景太郎に惹かれてきているのかもしれませんね。
浦島景太郎がひなた荘からいなくなる?
一時的な帰省で浦島景太郎が不在になったひなた荘が描かれていますが、浦島景太郎がどれだけひなた荘に馴染んでいたのかがかなり分かりやすく見えてきます。
個人的にはスウェットでバナナを食べながら漫画を読んでいる、ちょっとダラけてしまっている素子がツボでした。(笑)
ともあれ、これは本当に浦島景太郎が長期間ひなた荘からいなくなる次巻以降の前振りになっています。
主人公が長期間不在になる展開は意外と珍しくもありませんが、ラブコメ作品に限ればかなり珍しいような気もします。
1巻時点、現在、そして不在時と戻ってきた時。
浦島景太郎の立場の変化がなかなかに興味深いところです。
総括
いかがでしたでしょうか?
主人公である浦島景太郎がひなた荘からいなくなる。
そんなことを感じさせる衝撃の展開でしたね。
一時的な浦島景太郎の帰省も、浦島景太郎がいないひなた荘への伏線になっているのだと思います。
最初は痴漢扱いされていた浦島景太郎が既にひなた荘の一部になっていたことを今まで以上に感じさせられるエピソードでした。(次巻のレビューはこちら)