『ラブひな(12)』現代お約束ラブコメの原点とも言える作品の感想(ネタバレ注意)
格好良くなって浦島景太郎がモテ期に突入したらしい12巻です。(前巻のレビューはこちら )
11巻では海外留学で長期不在だった浦島景太郎がついに帰ってきました。
破天荒なヤンデレとして猛威を振るった浦島可奈子が、浦島景太郎と再会した最初はしおらしい様子だったのにやっぱり暴走系妹だったのが面白いです。
また、浦島景太郎が再登場したわけですが12巻の主人公はむしろ成瀬川なると浦島可奈子なのではないかとも思います。
浦島景太郎がは既に成瀬川なるに対する好意を隠そうともせず、照れはあるものの以前のようにしどろもどろになることは無くなっています。
対する成瀬川なるの言動がかなり優柔不断なものになっていて、それは通常こういうラブコメ作品においては男主人公の専売特許の役割という感じのはず。
そういう立場が若干逆転している感じがするのが興味深い一冊だと思います。
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本作の概要
ついに帰ってきた浦島景太郎。
妹である浦島可奈子の顔を一瞬忘れてしまっている再会シーンが浦島景太郎らしいところです。
11巻では不在だったわりに、浦島景太郎をめぐってひなた荘の住人と浦島可奈子の騒動があったのであまり久しぶりという気はしませんが、そんなところに本人が放り込まれて一体どうなるのかというところが見所だと思います。
明らかにお互いに好意を持っているものの主人公以上に優柔不断な成瀬川なるというヒロインの言動が面白いです。
本作の見所
格好良くなった浦島景太郎の再登場
「あ、新しい住人の方ですか。浦島です。よろしくお願いします」
久しぶりに再会した妹の顔が一瞬分からなくなっている浦島景太郎。
久々の再登場ですね。
まあ、意外とそこにいると思わなかったら気付かなかったりするものなのかもしれませんが、ブラコンの浦島可奈子にしてみれば気にしていないようでいてそこそこショックだったのではないでしょうか?
ともあれ、前巻の浦島可奈子の登場で一気に雰囲気の変わったひなた荘でしたが、浦島景太郎の再登場でまたちょっと空気が変わりましたね。
そもそも、浦島景太郎自身がちょっと格好良くなってきていることで住人の見る目も変わってきています。
いや、本当に作者の赤松健先生は『ラブひな』に限らず、こういう微妙な人間関係の変化を大きな変化として描くのが本当に上手な漫画家さんですよね。
「やはり・・この動き・・ふふっ私の目はごまかせんぞ! 貴様向こうで何をやってきた?」
留学中、瀬田記康に武術の基礎を学んだらしく素子とも互角に稽古する浦島景太郎。
東大に合格してからというより、自分のやりたいことを見つけてからの成長が著しいと思います。
自分と互角に稽古する浦島景太郎を相手に嬉しそうな素子ですが、やんわり今後の朝稽古は断られて寂しそうにしているところが可愛らしいと思います。
それ以上に、今巻ではこんな感じで物事をやんわり躱しているというか、浦島景太郎も今までのようにしどろもどろになってしまったりすることが少なくなったような気がします。
個人的に『ラブひな』で最も好きなキャラクターはカオラ・スゥなのですが、浦島景太郎と本格的にラブコメしてる風のキャラクターの中では素子が一番好きなのですが、今巻更に可愛らしくなったような気がします。
浦島景太郎と浦島可奈子
前巻では破天荒なブラコンヤンデレ少女という印象が強かった浦島可奈子ですが、浦島景太郎と再会した瞬間にしおらしい様子になりました。
血がつながっていない兄妹。
とはいえ叶わない恋であることは理解している浦島可奈子。
そもそも相手の浦島景太郎の浦島可奈子に接する態度は、浦島可奈子が養女であることも忘れてしまっているほど完全に妹に対するソレで、ひなた荘の住人女子たちに対する言動とは明らかに差異がありますからね。
成瀬川なるとの関係性がうまくいっていないと知って人肌脱ごうとする浦島景太郎はかなりいい奴だと思いますが、ちょっと浦島可奈子が可哀そうでもあります。
とはいえ、さすがにラブコメ作品の鈍感主人公とはいえ妹からの恋愛的な意味の好意に気付けというのは難しいものがあるでしょう。
「ハァ・・あいつ、子供の頃俺のこと好きだったみたいだけど・・でもいまだにそうだったとは・・。それに子供の頃の約束まで覚えてて・・」
そして浦島可奈子の好意を知った後も、これが他の女子からの好意ならもっと照れのある取り乱し方をしていたような気がしますが、ただただ困惑している反応をしている浦島景太郎を見ていると、完全に妹としてしか見ていないのは明らかですね。
しかし、子供の頃の約束は人のことを言えないと思いますけど。(笑)
その辺、血は繋がってなくても兄妹っぽいと思いました。
優柔不断な成瀬川なる
ラブコメの主人公の特徴といえば何でしょうか?
鈍感で異性からの好意に気付かない。
優柔不断で要領が悪い。
そんなところがパッと浮かびますが、今巻ではメインヒロインであるところの成瀬川なるの方がそんなラブコメ主人公らしさを発揮していました。
浦島景太郎からの好意はずっと前から知っているものの、それに対する反応がとても優柔不断なのですね。
これは、ヒロイン側の反応としてはラブコメ作品としても結構珍しいのではないかと思います。
「どうしてあの時また・・好きと言わなかったんですか」
そんな成瀬川なると行動を共にしながら徐々に成瀬川なるの背中を押す方向にシフトしていく浦島可奈子の心境の変化も興味深いです。
「・・今回はなるさんにゆずってあげますけど、私まだお兄ちゃんのことあきらめたわけじゃないですからね!」
そして、自分を追ってきた浦島景太郎に成瀬川なるを追いかけるように後押ししたのも浦島可奈子となります。
実は今回レビュー記事を書くにあたって読み返していて初めて気付いたのですが、考えてみればなかなかくっつかない二人への最後の後押しをしたのが、最もそれを望まなかった浦島可奈子になっているというのが面白いですね。
二人にとっては最も大きな障害ともいえた浦島可奈子が、ずっと障害となるような行動をしていたのに、それでも最後の後押しだけはしているという展開が全く違和感なく自然に描かれているのがすごいですね。
総括
いかがでしたでしょうか?
いよいよ浦島景太郎と成瀬川なるのモヤモヤした関係性にひとまずの決着が付きました。
浦島可奈子とひなた荘の住民の関係性も、まあまあ丸く収まりそうな感じなのではないかと思われます。
さて、ぶっちゃけ浦島景太郎と成瀬川なるの関係性だけを見たらクライマックス感のある『ラブひな』ですが、実際『ラブひな』も残すところあと2冊です。
今巻でひなた荘の年少組が全員東大を目指し始めていることが明らかになっていますが、その辺の結末も気になるところですね。(次巻のレビューはこちら)