『ラブひな(14)』現代お約束ラブコメの原点とも言える作品の感想(ネタバレ注意)
ついに大団円の最終巻となります。(前巻のレビューはこちら )
一緒に東京大学に行って幸せになるという幼い約束を、長い長い時間を掛けて守る形でのエンディングとなりました。
世の中にはラストが想像できないフィクション作品と、容易に想像できて最初からそこに向かって物語が描かれているということが明らかなフィクション作品があって、『ラブひな』の場合は間違いなく後者だったと思います。
実のところ、個人的には前者の方に好きな作品が多かったりするような気がするのですが、『ラブひな』の場合は「一緒に東京大学に行って幸せになる」というだけの約束の結果に至るまでに本当に波乱のあるエピソードが次々と描かれていて、その時々には先の読めないハラハラ感がたくさんありました。
そういうわけで、最後まで飽きずに読むことができましたし、時々読み返したくなるような魅力もある作品だったと思います。
実は、後から読み返したくなるお色気アリのラブコメ作品って意外と珍しいのではないでしょうか?
たいがいそういう作品の場合、一度読んだらお腹いっぱいって感じになることが多いような気がするのですが、『ラブひな』の場合はそうはならなかったんですよね。
「なんで?」ってのには上手く説明できないんですけど、『ラブひな』以降の多くの作品に影響を与えているだけのことはあると思います。
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本作の概要
モルモル王国から帰国し、ついに一緒に東京大学の門をくぐることになった浦島景太郎と成瀬川なる。
しかし、本当に自分が約束の女の子なのかと不安に駆られる成瀬川なる。
そんな中追い打ちをかけるようにひなた荘の住人たちがそれぞれの理由でひなた荘から去って行ってしまう。
一緒に東京大学に行っても幸せになどなれなかったと嘆く成瀬川なるでしたが・・
それを全力で否定したのは浦島景太郎。
そして、最後には誰が約束の女の子だったのかが完全に明らかになります。
本作の見所
約束の女の子
「ホホホみなさ~ん♡ こんなこともあろうかと・・全員分のチケット買ってありますよ~」
パララケルスの時もそうでしたが、海外から早く帰らなきゃって時に何故かいつも用意がいい乙姫むつみのお陰で帰国することができた浦島景太郎たち。そこでちゃんと浦島景太郎と成瀬川なるのことを祖母である浦島ひなたに報告しようとするのですが・・
モルモル王国が日付境界線を跨いでいたことで帰国すべき日をどうやら一日勘違いしていたようで、そこに浦島ひなたの姿はありませんでした。
まあ、どうやらそもそも浦島ひなたも約束の日に来れなかったようなのですが。(笑)
ともあれ電話での連絡はできたのですが、そこで浦島ひなたは浦島景太郎の約束の女の子について、その答えを教えようとします。
しかし・・
「・・私だもん。わ、私だもん。・・思い出の女の子は。だって・・今さら私じゃないなんて言われても・・そんなの困るっ!!」
成瀬川なるが、浦島ひなたとの通話を強制的に切ってしまいます。
最初は浦島景太郎の約束の女の子が自分であるわけがないと言っていたような気もしますが、変われば変わるものですね。
それに、浦島景太郎からしたら現在大切なのは成瀬川なるに間違いないとしても、三浪してまで東京大学を目指し続ける原動力となった幼い頃の約束の答えはどうしたって気になるところでしょうけど、成瀬川なるからしてみたらどうしたって不安になるのも分かります。
その後、少年誌連載の漫画としてはかなり攻めたアレする展開にもなっていきますが、それも何だかんだで失敗してしまいます。
もしかしたら自分が思い出の女の子じゃないから幸せになれないのではないかと、成瀬川なるはどんどんと不安になっていきますが、これは単に少年誌的限界もあったのかと思われます。(笑)
ともあれ、この最終巻では浦島景太郎の約束の女の子を巡り成瀬川なるが不安になって、見方によっては暴走気味にすらなっているのが特徴的でした。
ひなた荘の住人たちが、一気に何かしらの理由で去ってしまい、その上浦島景太郎には海外からスカウトが来ている。
つまり、成瀬川なるだけが取り残されかねない状況で、確かにこれは不幸なのかもしれませんけど、それをすべて自分が約束の女の子ではないからだと思ってしまうくらいには思い詰めてしまっているのは少し可哀そうでしたね。
「不幸なんかじゃないよ!!」
それだけに最後、浦島景太郎の主張から始まる結末から得られるカタルシスはなかなかのものでした。
不幸ではないというより、ひどい目に合うようなことがあっても成瀬川なるとともにしてきた経験のすべてが幸せなのだという主張をする浦島景太郎は今までで一番格好良かったです。
それに幸せだと感じている人に幸せは着いてくるということでしょうか?
去っていったはずのひなた荘の住人も続々と戻ってきて、しかもここにきて初めて成瀬川なるが正真正銘浦島景太郎の約束の女の子であることが判明しました。
一歩進んで二歩下がってたまに三歩進むような足取りの主人公とヒロインで、ここに至るまで色々なことがあったと思いますが、最後は幸せになれて良かったと思います。
真枝絵馬
上から読んでも下から読んでも真枝絵馬(まえだえま)。
エピローグで描かれているのは4年後のひなた荘で、東京大学を目指していたキャラクターたちがみんな東大生になっていますね。
そんなひなた荘に新たな入寮希望者としてやって来たのが真枝絵馬というギャグみたいな名前の少女なのですが、これがまた昔の浦島景太郎のように間の悪いドジっ子キャラクターなのです。
自分に自信が無くて、女子なのに痴漢扱いされるあたりが浦島景太郎っぽいですし、ある意味では主人公っぽさのあるキャラクターでもあって、正直エピローグだけに登場するのはもったいないくらい良いキャラしていると思います。
それだけに結構気合が入っているエピローグって感じがしますね。
4年後の成長したひなた荘の住人たちや浦島景太郎も、なるほどと納得感のある感じで成長していて、とても満足なエピローグでした。
総括
いかがでしたでしょうか?
最後の最後に「もし自分が約束の女の子じゃなかったら?」と不安になっている成瀬川なるが印象的でしたね。
それに、東京大学の校舎の前でのキスシーンで終わる漫画なんて後にも先にも『ラブひな』くらいなのかもしれません。(笑)
エピローグの真枝絵馬のエピソードも素敵でした。
いやはや、お色気アリのラブコメ作品というどちらかといえばあまり読まない苦手ジャンルの作品であるあるのですが、それを差し引いても本当に良い漫画でした。
『ラブひな』の連載当時の僕は中学生で、実は当時『ラブひな』を読んでいる奴は恥ずかしい奴みたいな風潮があったこともあって僕は読んでいなかったのですが、今なら連載リアルタイムで読んでおきたかったなぁと少し後悔があったりします。
まあ、かなりサービスシーンも多いので中学生くらいには刺激が強いというか、読んでる奴を見かけたらからかいたくなるとか、そういうのも分からなくもないので仕方がないと言えば仕方が無かったのかもしれません。