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『水は海に向かって流れる(1)』まるでドラマのような漫画の感想(ネタバレ注意)

 

書店で平積みされているのを見かけ、タイトルからも表紙からも、そして裏表紙に書かれたあらすじからも、どんな漫画なのかが想像できない。しかし、何故か惹かれるものがあって読んでみたのは水は海に向かって流れるという漫画です。

水は海に向かって流れるとは、一体どのような意味なのだろうという疑問も興味を持った理由です。

それで、さて読んでみようと読んでみた率直な感想としては、読んでいる時は作品の世界観の中に急激に引き込まれ、キャラクターの魅力に当てられ、もっと読んでいたいという余韻に浸る結果となり、気付けば2巻目をポチっと購入していました。(笑)

しかし、じゃあ何が良かったのかと問われれば説明が難しい漫画なのです。

ファンタジーやSFのような分かりやすさはありません。

それに恋愛やコメディでもありません。

ある特殊なシチュエーションを題材にはしているものの、既存のジャンルに収まっているような作品ではないような気がします。そういう作品自体は時折見かけますが、作者の独りよがりのように感じられて受け付けられなくなるか、その逆でどっぷりと引き込まれるかのいずれかで、本作品は言うまでもなく後者だったと思います。

そういう意味では好き嫌いが分かれる作品で、人によっては読んでいて退屈だと感じられるようなタイプの作品かもしれません。

しかし、刺さる人には刺さる作品だと思うので本記事で紹介してみたいと思います。

ただ、正直なところ大きな事件が起きるタイプの物語ではないのでいつもみたいに見所紹介するのは難しそうなのですけど、それでも良い作品であることは間違いないので頑張ります!

 

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本作の概要

高校に入ると同時におじさん(母親の弟)の家の部屋に住むことになった主人公の直達を駅に迎えに来たのは、26歳のOLである榊さんでした。

直達は榊さんをおじさんの恋人だと勘違いしますが、おじさんがルームシェアしている同居人の一人だったようです。他にも女装した占い師や榊さんの昔馴染みらしい大学教授が住んでいて中々個性的なルームシェアらしいですが、とにもかくにも直達もそこに加わります。

そして、初対面であるはずの榊さんでしたが、直達とは浅からぬ因縁があることが判明します。

本作の見所

直達から見た榊さん

水は海に向かって流れるの中で特筆する要素は何と言っても榊さんの描かれ方にあるのではないかと思います。

榊さんは一応ヒロインという立ち位置にいるキャラクターなのだと思いますが、しかし正直言ってあまりヒロインっぽくはありません。

最初、直達は榊さんのことを自分のおじさんの恋人で、大人な対応を見せているものの機嫌を悪くしている・・ようにも見えるけど実はそうでもないような女性だと思っていたようです。

直達の視点から描かれているので、榊さんはどことなく不思議でミステリアスな雰囲気の女性であると読んでいて伝わってきました・・が、実際のところ誰にでもあるような多少の個性はあるもののもの凄く普通の女性ですよね。

読み進めれば分かりますが、高校生男子である直達に対しては敬語とタメ口が入り混じったような微妙な距離感で、よく見ると大人ぶっている風であります。

まあ、微妙な距離感なのは榊さんが最初から直達との因縁に気付いていたからというのもあるかもしれませんが。

大人ぶっている風だけど、ビールが好きだったり行動に若干のオヤジっぽさがあるのもある意味では年相応の普通の女性っぽさである気がしますね。

まあ、高校生男子にとっての10歳年上の社会人の女性って教育関係者でもなければ接する機会のない存在であり、なんなら女子大生くらいでも大人に見えるお年頃なわけですから、そもそも近付く機会があったとしたら平均的に見て不思議でミステリアスに見えるものなのかもしれませんね。

・・と、長くなりましたが結局何が言いたかったのかというと、作中かなり個性的に見える榊さんは実のところかなり普通の人だということが言いたかったわけです。

しかし、そこに直達との因縁をはじめとした周囲の人間との関係性が加わってちょっと不思議な感じに見えるところが興味深いです。

バチがあたる

そういえば直達と榊さんの因縁とは何なのかについて言及していませんでしたね。

結論から言うと、直達の父親と榊さんの母親は過去に不倫関係にあって、直達の父親は元さやに収まりましたが榊さんの母親は戻ってこなかった・・という因縁です。

そして、そのことを榊さんは最初から知っていて、直達は知らなかったがふとしたキッカケで知ってしまっている。

それがこの二人の間にある現状ですね。

榊さんはかなり大人の対応をしているつもりで、実際その言動から直達は榊さんの内心が分からずにいる様子が伺えます。

しかし、実際にはメガネの教授が言及している通り、榊さんは直達との因縁を意識しすぎていて、それでどこか不自然になっているところがあるような気がします。

榊さんはどちらかといえばおっとり大人しいタイプの女性に見え、実際その通りであるような気がしますが、直達の父親と再会した際にはお盆をばちーんと投げつけて怪我をさせてしまっています。これはかなり感情的な行動であるはずで、なかなか表には見せなくてもやっぱり榊さんの中におけるこの因縁の比重が大きいことが分かりますね。

この凄く微妙な榊さんの感情の変化がとてもうまく描かれているのも本作品の見所なのではないかと思います。

おじさんと榊さんの喧嘩

さて、直達のおじさんであるニゲミチ先生からしてもこの不倫問題は自分の親戚の問題なわけですが、どうやら二人の因縁の相手同士であることは知らないようです。まあ、自分の姉の旦那の不倫相手の子供なんて大概知らないものでしょう。

まあ、知らないからこそ榊さんお盆でバチーン事件を見て榊さんのことを怒っているわけなのですが、事情を知ってさえいれば榊さんにはよっぼど情状酌量の余地がありますからね。少なくとも、一方的に悪者にする人は少ないでしょう。

しかし、榊さん自身が極力直達との因縁を周知のものにはしたくないと思っていて、しかもどうやらそれが直達を気遣ってのことっぽくて、同じく直達を気遣っているニゲミチ先生と喧嘩しているという状況がやるせないです。

だからメガネの教授さんは榊さんからも直達からも内緒にするように言われていたのに積極的に暴露しに行ったのでしょうけど。

何というか、安穏そうに見えて不穏なところもある物語が本当に興味深いと思います。

総括

いかがでしたでしょうか?

本記事のタイトルに冠したように普段読んでいる漫画というよりは、少し古いドラマにありそうな内容の作品だったのではないかと思います。

W不倫の関係にあった両親の子供たちが偶然再会するという何やらドロドロした設定で、それを知った直達やずっと抱え込んでいた榊さんも内側にドロドロした何かを抱えていたような気もしますが、読んでいて辛くなるとかそういうことは全くなくて、むしろ若干ほのぼのしているような雰囲気すら感じ取れるところが興味深かったです。

実のところ絵柄も単調でキャラクターもそこまで濃いわけではなく、普通であれば印象が薄いと感じてしまうような感じなのですが、何故か魅力的に感じられるのです。

何でなんだろうと考えてみたら、キャラクターの言動がとても自然に感じられるからなのかもしれません。個性は持たせてもそこに不自然さまでは持たせておらず、逆に自然であっても個性までは廃していない。そんな絶妙なバランスで描かれているように感じられました。

それは物語の流れにも言えることで、物語を進展させるために何か特別なイベントを発生されているというよりは、いわゆる「成り行き」に任せているような印象を受けます。だから予想しづらさと驚きはあっても自然な物語になっているのだと思います。

水は海に向かって流れるのタイトルが何を意味しているのかは分かりませんが、個人的には自然に感じられる本作品には合っているタイトルなのではないかと思いました。