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『汝、隣人を×せよ。(2)』意外と殺益申請のバリエーションが豊かな漫画の感想(ネタバレ注意)

 

汝、隣人を×せよ。は一生一殺法というちょっと変わった法律のある世界を描いた作品です。

1巻の発売時にはレビュー記事というよりも、この一生一殺法に対する考察を書いてみましたが、今回は普通にレビュー記事を書いてみようと思っています。

とはいえ、1巻の時点で非常に面白い漫画だと思ったものの、どうしたって1巻を読んだ時の驚きを超えることはない類の漫画だとも思っていたのも事実です。

人が人を殺す申請ができる世の中は興味深くはあるものの、そこにあるパターンって限られているような気がしていたのがその理由ですね。

しかし、2巻でもなかなか考えさせられるシチュエーションが描かれていたのが興味深いところです。

なるほど、こういうケースで人は人を殺そうとするのかってね。

後ろめたいことはできないなぁ~と考えさせられる漫画です。

ちなみに、一生一殺法の詳細は1巻のレビュー記事に纏めていますので、おさらいしたい人は是非こちらをご確認ください。

www.aruiha.com

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本作の概要

一生に一人だけ殺人が許可される権利が与えられる一生一殺法。

申請者の今後の安らかな人生において重大な障害になる人物の殺害を申請することができるのですが、今巻でもなるほどこういうケースで申請したりされたりしてしまうのかと考えさせられるエピソードが4編収録されています。

家庭内暴力エスカレートする息子に、罪悪感を覚えつつも不倫をやめられない男女。過去に娘を殺された父親に児童虐待されている子供を助けたい女性。

いずれも全く異なる状況ですが、殺益申請する理由のすべてが憎悪ではない点が興味深いところですね。

本作の見所

家庭内暴力の息子

もともと優秀だったが、低賃金の単純労働に勤しむ若者を「負け犬」と見下すような性格だった長男。

しかし、自身が受験の失敗をキッカケに自分こそが「負け犬」になってしまい、その鬱憤を家庭内暴力で晴らしていたようです。

それも飼い犬を殺してしまうくらいに酷く、それが両親や妹に及ぶのも時間の問題という感じでした。

「まさか息子を刑事告訴するわけにもいかないし・・」

ですが両親は、そんな風に息子がなってしまったのは自分たちの責任であると思っていて、なかなか断罪できずにいる。

そんな様子を妹の視点から第三者的な視点で捉えられるように描いているのがちょっと興味深いですが、結局のところ父親は未遂に終わったとはいえ自分の手で自分の息子を殺害することで責任を取ろうとしてしまいますし、それを止めた母親は母親で殺益申請を出してしまっていたりしていたようです。

実は、この家庭内暴力の長男は名門校に通う妹を妬んで殺益申請を出していました。

当然受理はされなかったもののそれを知った母親は、なんの罪のない妹にまで殺意を向けてしまうのならと殺益申請を決意したようですね。

前巻の時も思いましたが、執行対象者って大抵自分の罪を認めて本心かどうかはともかくとして反省しているんですよね。

「いやだ死にたくない!! 助けて父さん!! 頼むよ・・今度こそいい子になるからー」

通常の法律であれば死刑になるほどの罪ではないケースでも、形が違うだけとはいえ結局死刑になるのと同じ結果となる一生一殺法。

申請者の今後の安らかな人生において重大な障害になる人物であるか否かがポイントであるわけだから、その対象者は必ずしも法的にはそこまで大きな罪を犯しているわけではないのが興味深いところですね。

不倫は良くない

僕の価値観的には、不倫や浮気は実のところそんなに腹の立たない行為というか、「不倫や浮気に走らせてしまう側に原因があるんじゃないの?」って思ってしまうんですけど、とはいえ一般的には文字通り倫理的に良くない行為ですよね。

特に婚姻関係のある男女の場合は、言い方はアレですが要は婚姻という契約関係にあるわけですから、それを破るようなことがあっては絶対にいけませんよね?

何故か婚姻という契約は、人生において大事なものだと把握しつつも他の重要契約に比べて軽く見ている人も多いような気がします。

このエピソードに登場する不倫関係にある男女は、まさにその類ですよね。

お互い既婚者でありながら、遊びたい盛りの若さでデキ婚してしまい刺激を求めてしまう。

まあ分からなくもない感情ですが、いい大人なら理性も必要なところですよね。

そして、誰が誰に対して殺益申請するのかは大方の予想通りでした。

ですが今回のエピソードで興味深いのは一体どちらが被害者だったのかがモヤっとしている点。

不倫していた男性の奥さんは、女性の旦那さん。

この2人は普通に考えたら被害者で、互いのパートナーに対して殺益申請を出す気持ちも分からなくはありません。

しかし、親族に対する殺益申請をした場合は遺産の相続や保険金の受け取りはできないというルールを、互いのパートナーに対して殺益申請を出し合うことで通常通り受け取ることができるようにしたり、しかも執行後は残された者同士で新しい家族を作ろうとしている。

不倫していた男性の奥さんの子供が、本当にこの男性の子供なのかということも語られたりしていましたが・・

もしかしたらこれは最初から一生一殺法の穴を付いた計画的なことだったのではないかとまで邪推してしまいます。

そう考えると、実は不倫していることに対して罪悪感を覚え始めていた男性が不倫旅行を断っていれば、どのような結果になっていたのかも興味深いですね。

もしかしたらこの両夫婦は、互いに殺益申請を出せば互いに受理される可能性があるくらいに元々すれ違っていた可能性がありそうですから。

過去の罪

このエピソードは、かつて残虐な強姦殺人を犯したにも関わらず少年法によって守られた2人の少年が、大人になってから被害者である少女の両親によって断罪されるというものです。

興味深いのは一生一殺法の権利の行使によって、少年法の問題が示唆されている点でしょうか?

被害者少女の顔写真や住所まで流され、被害者少女の両親は嫌がらせも受けて家も仕事も失った上に精神まで病んでしまったのに、加害者の少年2人は少年法で守られてのうのうと生きている。

なるほど、これは復讐したくなる気持ちも分かりますね・・なんて、このエピソードに関してはあまり分かったようなことを言うと、実際に似たようなケースの被害にあったことがある人を傷つけかねないので感想はこれくらいにしておきます。

児童虐待

これはお隣さんの母子家庭で行われているらしい児童虐待を知った女性が、なんとか子供を助けようと母親に対して殺益申請してしまうエピソードです。

ちなみに、「してしまう」という表現を使ったのは、この女性が殺益申請をしてしまったことを後悔している様子だったからです。

子供ができない体質だった女性は、だからこそ児童虐待に対して敏感になっていたのだと思いますが、結論から言えば少し早まった申請をしてしまったと言わざるを得ません。

実は、この母親は不器用なりにちゃんと子供を育てようとしている母親だったのです。

しかし、申請者の女性がうつと診断されていることから、この母親は確かに申請者の女性にとって「申請者の今後の安らかな人生において重大な障害になる人物」だと判断されたのだと思われます。

つまり、この母親が児童虐待していたから殺益申請が受理されたというより、この母親の行動が申請者の女性に悪影響を与えていたのが受理された理由だったのだと思われます。

殺益申請は受理、そして執行されてしまいました。

しかし、これは申請者の女性の意図していた結末とは違っていました。

後から実はこの母親がそれなりに母親だったことが分かって後悔することになってしまいました。

総括

いかがでしたでしょうか?

作中でも語られている「親族への殺益申請が多い」という事実には、なるほど身近で離れることができない人に対しては誰しも多かれ少なかれ不満を持っていたりするものですが、他人であれば無視できることが身近過ぎて無視できなくなってくるというのは分かるような気がしますね。

子供時代に罪を犯した者に対する殺益申請も、通常の法律には守られていた少年に対する実刑じみていて、法律に守られていたらOKではないということの警鐘になっているような気もします。

また、児童虐待のエピソードでは殺益申請したことの後悔が描かれています。

思っていた以上に一生一殺法という架空の法律から生み出されるエピソードの幅が広くて、今後もまだまだ楽しませてくれそうな気がします。

いや、楽しむというには若干不謹慎なエピソードも多いんですけどね。(笑)