『オレが私になるまで(1)』性別変化に悩める主人公に考えさせられる漫画の感想(ネタバレ注意)
性別をテーマにした漫画・フィクション作品は、意外と数が多いひとつのジャンルになっていると思います。
自分の生れてきた性別が間違っているとか、いわゆる性同一性障害は僕にはありませんが、この手の性別をテーマにした作品は結構好きだったりします。
古くは子供の頃にやぶうち優先生の『少女少年』を読んだ頃から、こういう作品を読むと「もし自分が女だったら?」とか、もしくは「女として生きていくとしたら?」とか、そういうことを考えさらさせます。
これはスーパーヒーローや格好良い大人に自分を重ねるのと同じで、自分とは違った生き物である異性への興味が、例えば普通のヒロインやヒーロー以上に、そして直接的に掻き立てられるからなのかもしれません。
とはいえ、近年ではこの手のテーマで描かれるのがただのコメディでしかないことも非常に多いです。
それはそれで面白いこともあるのですが、せっかくの興味深いテーマを活かしきれていない作品も少なくありません。
なんというか、性別をネタにしているだけのドタバタコメディになりがちな気がするんですよね。
そういう意味で『オレが私になるまで』は、久々に性別について考えさせられる漫画だったような気がします。
ある日突然、普通の男子の体が女子になってしまう。
望まない性別変化と自身を取り巻く状況の変化。そして、その後の成長による体の変化に、徐々に女子的になっていく意識の変化。
そんな4つの変化に悩める主人公が描かれている作品となります。
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本作の概要
主人公の藤宮アキラは普通の小学二年生の男子でしたが、ある日突然朝起きたら女子の体になってしまっていました。
突発性性転換症候群。
突発的に性別が変わってしまう病気になってしまったアキラは、今後は女子として生きていかなければならなくなります。
性別が変わったことによる変化と、それに悩むアキラの心情が描かれています。
本作の見所
性別の変化
藤宮アキラは普通の小学二年生の男子です。
年相応にヤンチャで、女子のクラスメイトを少し見下したところもありますが、まあ普通に子供っぽい男子の範疇だと思います。
今時小学二年生でスカートめくりするのはやりすぎな気もしますけど。(笑)
しかし、そんなアキラを襲ったのは突発性性転換症候群。
突発的に性別が変化してしまう病気でした。
「女なんて大嫌いだ!」
小学二年生くらいといえば、それ以下の子供に比べると男子と女子の違いを理解できるようになっています。
一方で異性のことが自分とは全く違う生き物に見えてしまう時期でもあり、理解できないものに対して無意識に嫌ってしまうようなこともあるかもしれません。
恐らくアキラの状態がそれに該当するのだと思いますが、それが突然の性別の変化で強制的に理解させられることになっていきます。
自身を取り巻く状況の変化
当然ながら、もともと男子だったのが女子になったりすると、自分自身以上に周囲が変化していくものなのだと思います。
大人の世界であれば腫物扱いされてしまいそうなところで、それはそれで嫌なものだと想像できますが、子供の世界はもっと残酷ですよね。
今まで一緒に遊んでいた男子からは面白がられ、身から出た錆とはいえ女子からは疎まれたままで、アキラは今まで通っていた小学校から転校を余儀なくされます。
保護者たちからは、どうやらそういう事実は無いようですが突発性性転換症候群が感染症扱いされて評判が良くなかったようで、致し方なかったのかもしれません。
元々はヤンチャで、ガキ大将じみたところのあったアキラが男子を苦手だと思うようになってしまうくらいなので、周囲の変化は相当に大きかったことが予想されます。
成長による体の変化
転校後はもともと男子だったことを隠して学校に通うことになったアキラですが、そこでは渡井瑠海という友達ができることになります。
「男子のグループに入るのは怖い・・。なら・・女子と仲良くなるしか。でも・・また嫌われたらどうしよう」
転校前には一人ぼっちになってしまっていたアキラは、ヤンチャで活発な性格はどこにいったのか、非常に控えめに振舞うようになってしまっていましたが、そんなアキラに声を掛けたのが瑠海でした。
その後、今巻でアキラは小学5年生まで成長しますが、そこでは女子としての成長に戸惑うシーンが多数見受けられます。
男子と女子では成長の仕方は違うと思いますが、女子の場合はいずれは生理が訪れるというのが大きな違いですよね。
もともとが男子だっただけに、女子として成長していく戸惑いは普通の女子よりも大きかったかもしれませんが、そこでも助けになるのが瑠海というキャラクターでした。
今は、瑠海もアキラがもともと男子だったことを知りませんが、親友的なポジションである瑠海にはいつか打ち明けるようなタイミングもあるのかもしれませんね。
女子的になっていく意識の変化
自身を取り巻く状況の変化といいましたが、あくまでもアキラは病気であり、嫌々女子として過ごしているものだと接し続けて変わらない人物もいます。
アキラの母親ですね。
突発性性転換症候群は架空の病気なので、もしそんな病気に自分がなったとしたらどうなってしまうのかは一考の余地があるところだと思います。
恐らく、人間は適応する生き物なので、何だかんだで馴染んでいくような気もします。
現実的な人間の変化といえば例えば年齢の変化がそうですが、人間年を取れば否が応でもその年齢に馴染んだ変化をしていくものです。
それと同じような変化が性別の変化にもあるのではないかと思うんですよね。
実際、小学5年生になったアキラの精神面の変化にはそういう年齢の変化に近い変化があったような気がします。
もちろん、普通ではない状況なので戸惑いは大きいとは思いますが、自分は嫌々女子として過ごしているんだという意識と、スカートを穿いたり可愛らしい髪型にテンションが上がったりする意識と、その両方が混在している複雑な感情の揺れが描かれているのが非常に興味深いです。
今後の展開の予想
非常に興味深い作品ですが、恐らくアキラは今後は女子として生きていくことを受けとめていくことになるのだと思います。
1巻の中盤からラストの様子からもそれは伺えますね。
その時に元々は男子だったことや、その秘密を親友である瑠海に隠していることが何かしらの悩みの種になっていきそうな気がします。
また、もしこの作品が長く続くようなことがあれば、アキラの転校前の学校のクラスメイトと成長したアキラの再会みたいなエピソードもあるかもしれませんね。
総括
いかがでしたでしょうか?
そこまで期待せずに衝動買いした作品が、稀に見る良作だったということは時たま遭遇する事態ですが、『オレが私になるまで』はまさにそのケースでした。
まだ1巻なので最終的な評価がどうなるかは分かりませんが、1巻時点でいえば性別をテーマにした作品の中では志村貴子先生の『放浪息子』以来の良作なのではないかと思います。
突発性性転換症候群という性別が変化する病気はSF的で、もしかしたらリアリティに欠ける微妙な作品なのかと序盤は思ったのですが、性別が変化した後の心理描写が非常に秀逸で面白かったです。
いや、こういう考えさせられる系の作品のレビュー記事では、どういう風に考えさせられるのか、どこに魅力がある作品なのか、そういうことを本当はもっとお伝えできればと思うのですが、僕の筆力では限界があるのが口惜しい限りです。
最後になりますが、次巻もとても楽しみにしています!