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『殺人無罪(1)』どんな殺人も無罪にしてしまう弁護士の感想(ネタバレ注意)

 

殺人無罪は、史上二番目の若さで司法試験に合格した女性弁護士が、破天荒なやり方でどんな事件でも被告人を無罪にしてしまうという漫画です。

実際に殺人を犯した人間すら無罪にしてしまう異端な弁護士。

何しろ日本では起訴された事件の99.9%は有罪になってしまうのですから、異端であったとしても全てを無罪にできるということは、本当にとてつもないことなのです。

何でそんなに有罪率が高いのかって、そもそも検察側は無罪になりそうな事件に対しては起訴しないからです。

だから一度起訴されてしまえば、本当は無罪だったとしても、起訴された時点でほとんど言い逃れできない証拠が揃ってしまっていることになるのです。

つまり、起訴された事件の被告人を担当する弁護士にとっては、普通は起訴された時点でほとんど敗北が確定してしまうのです。

フィクション作品での勝率は高いから勘違いされがちですけどね。

ちなみに、このことは映画版『名探偵コナン』のゼロの執行人で妃英理が言っていたことが気になって調べてみて知りました。

そして、そんな確定した敗北を覆す弁護士が殺人無罪の主人公である聖沢ウタとなります。

高い画力で描かれる破天荒な弁護士の物語が想像以上に面白かったです。

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本作の概要

法曹界の異端。

無敗の弁護士である聖沢ウタの真実を暴こうとするのはジャーナリストの早川湊斗。

二十歳にして史上二番目の若さで司法試験に合格し、なぜかセーラー服姿で法廷に立つ弁護士。

聖沢ウタ、二十三歳。

早川湊斗は、聖沢ウタの無敗などというありえない成績を不審に感じ、その秘密を暴こうと奮闘します。

本作の見所

無敗の弁護士

無敗の弁護士という触れ込みの聖沢ウタですが、作中で明言されていないものの日本では起訴された事件のほとんどが有罪判決になります。

つまり、無敗の弁護士なんてものは実のところファンタジー以外の何物でもありません。

「必ず暴いてやるぞ。お前の”真実”を」

そんなファンタジーな弁護士である聖沢ウタを不審に感じたジャーナリストの早川湊斗は、その秘密を暴こうとします。

そして、聖沢ウタが担当するある裁判に張り付きます。

聖沢ウタは、大学病院内で発生した殺人事件の被告人の弁護を担当します。

目撃者がいて、凶器には被告人の指紋が付いているという客観的に見て有罪確定という感じで、一般的な弁護士なら情状酌量をとりにいくようなケースだと言います。

「状況や目撃者だけではなく動機も十分。犯人が長山亮二だというのは揺らぎようのない真実です」

早川湊斗は、そんな客観的に見てどう考えても覆しようのない事実を聖沢ウタに問いかけます。

しかし・・

「教えてやるよ。誰の目から見ても不変的な事柄を”客観的事実”、そして個人が自分の中で決めつけた事柄を”主観的事実”と呼ぶ。最終的な判決を決めるのはあくまで個人である裁判官の主観だ。主観なんて幻想に基づいた”真実”、いくらでも殺せる」

聖沢ウタはそう主張します。

最初読んだ時、聖沢ウタが何を言いたかったのかが正直分かりませんでしたが、この裁判の結末、聖沢ウタのやり方を知った後で思い返すと「なるほど」という感じがします。

法廷を劇場に

聖沢ウタは、宣言通り主観という幻想に基づいた真実を本当に殺してしまいました。

聖沢ウタの弁護する被告人が本当は有罪であるにも関わらず、目撃者の証言や物証に問題があることを指摘することで、実は客観的に見て被告人が有罪である可能性が高い事実は変わらないにも関わらず、一見すると無罪に見えるように場をコントロールしたのです。

作中ではそれを劇場に例えていますね。

裁判長を含むその場にいる人の主観をコントロールするという意味では、確かに劇場的ではあると思います。

「お前が何をしたのかはわからない!! だがこんなこと絶対間違ってる。いつか必ず地獄に落ちるぞ!!」

しかし、どうやら事件の真相は見抜いていて、自分の被告人が本当は有罪であることに気付いていて無罪を勝ち取ってしまうやり方を、早川湊斗は糾弾します。

何やらずっと思わせぶりではあるのですが、聖沢ウタが何を思ってこのような弁護をしているのかは気になるところですね。

認知症の加速

大学病院の殺人事件では真実を捻じ曲げてしまった聖沢ウタですが、お年寄りがトラックのブレーキとアクセルを踏み間違えた結果起きた交通事故では別の方法で無罪を勝ち取ります。

「事件当時の被告人は心神喪失状態に陥っていた。つまり・・責任能力を問える状態ではなかったのです!!」

事故を起こした事実はさすがに変えられないため、被告人に認知症であるかのように振舞うように指示し、被告人を雇っていた運送会社の上司からは被告人の異変と解雇した事実を引き出すのですが・・

逆に検察側からは被告人が認知症に陥っていない証拠(証人)を出されてしまいその場は一本取られてしまいました。

しかし、その後の公判で聖沢ウタは一度検察側が出してきた証拠(証人)を利用して、被告人が認知症である事実を改めて強調するとともに、実は本当に認知症の気のあった被告人にそれを自覚させることで認知症の症状を加速させることに成功しました。

その後、被告人が訴訟能力を欠いていることを理由に公判手続きが長引き、過度なストレスにより被告人の症状は更に悪化していきます。

さて、聖沢ウタの狙いが何だったのかといえば・・

つまりは、事故当時には恐らく完全には認知症が発生していなかったにも関わらず、意図的に認知症を加速させることで裁判を継続できない状態にして公訴そのものを棄却させることが狙いだったわけですね。

名誉とは!?

この事件の被告人、どうみてもモデルが清・・いや、何でもありません。

大学病院の殺人事件やトラック事故に比べると痛ましさの無い、ちょっと「なんでやねん!」ってツッコミたくなるような面白い裁判が今回のエピソードです。

著名人の裁判って、一般人の裁判より印象操作で結果が変わるんじゃないかって思ってしまいます。

僕は割とひねくれ者なので、悪い方向に報道されていたりすると「実はそこまで悪くないんじゃないか」と思ってしまったり、その逆だったりすることがあるのですけど、それはそれで報道に踊らされているという点では同じですしね。(笑)

そして、今回は過去に覚醒剤取締法違反で逮捕された元野球選手に対する過去の行いの原因まで覚醒剤と結び付けた記事を掲載したジャーナリストに対する名誉棄損の訴えの裁判となります。

というか、そのジャーナリストは早川湊斗となります。

この元野球選手、現役時代には夜の街で裸踊りをしたり、木の上で中指立てをしたり、ホテルに2人の女性を連れ込もうとしていたり、正直良識ある大人の行動とは思えないのですが、だからといってその行動までを薬物と結び付けた記事を掲載するのは名誉棄損だと言うのです。

「原告の名誉のために当時の薬物の使用を断固否定します。彼はただの変態です」

幼少期から露出の気があり、木に登ったのはバカだからであり、自宅PCから3Pもののアダルト動画が大量に見つかっていることから、女性を2人ホテルに連れ込もうとしていたのは、まあそういうことであり・・

つまり、ただの原告はただの変態だから、薬物を使用していたというのは名誉棄損だと聖沢ウタは弁護します。

これは恥ずかしい!

性癖を暴露され、馬鹿だと言われ、名誉を守るために名誉を傷つける聖沢ウタの口撃にいたたまれない気持ちになってきます。

「名誉とは?」

オーディエンスのツッコミももっともですよね。(笑)

しかし、最後はちょっと良い話風になります。

「現役時代が汚れていたと思われるのだけは我慢ならなかった」

原告の元野球選手は、今後は変態として世間から認知されることは間違いありません。引退後に薬物に手を染めたこと自体は間違いないけど、それでも現役時代までそうだったと思われることに比べたら、性癖の暴露や馬鹿だと言われる程度の不名誉は安いものだという等式は、誇り高いように思いました。

僕だったら、こんな不名誉な行動は薬物のせいなんだよって言い訳に使いたいと思いますけどね。(笑)

総括

いかがでしたでしょうか?

主人公が破天荒な作品ですが、肝心の法廷のロジックまで破天荒なのでAmazoneのレビューを見るとかなり酷評されていますが、個人的には非常に面白い作品だと思いました。

正直、僕には裁判のことはよくわかりませんし、現実にはあり得ない法廷になっていたって面白ければ良いじゃないかって思ってしまいます。

とはいえ、確かにその辺リアリティを伴ってきた方が面白くもなってきそうなので、その辺は続刊に期待していきたいと思います。