『死なないで!明日川さん(1)』新しいお約束って感じの漫画の感想(ネタバレ注意)
『死なないで!明日川さん』は、クラスメイトからはその堂々とした姿で一目置かれている明日川さんが、実はとっても自意識過剰で誰に話しかけることもできずにそれを誤魔化しているだけの、いわゆる勘違い系コメディとなります。
この手のコメディ作品の場合、通常はワンパターンになりがちになるのを避けようと色々工夫しているような印象がありますが、『死なないで!明日川さん』の場合はあえてワンパターンなお約束を使っているところがむしろ面白い作品だと思います。
コメンテーターの石瓦さんが良い味だしてます。(笑)
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本作の概要
一見すごく格好良いキャラクターが、実はコミュ障なだけだったり、あまり格好良くない理由で格好良く見えているだけという展開は意外と使い古されていますが、そこにお約束的なテンプレ展開を繰り返すことでじわじわとした面白さが感じられる作品だと思います。
明日川さんの自意識過剰から、自殺を決意し、思いとどまるまでの同じなのに微妙に違う流れが楽しい作品です。
本作の見所
すぐに自殺を考える明日川さんのお約束
誰とも群れずにいつも堂々としている明日川さんは、実は超が付くほどの自意識過剰でいつも人目を気にしてばかりいます。
一緒にご飯を食べる友達がいないと思われたくなくて、日経電子版を確認しながら忙しくてさっさとご飯を食べるフリをしようとする。
「おい・・1人だけニューヨーカーみたいだな」
結果的に周囲からは格好良く見えて、それを噂されたりしているわけなのだけど、そこで陰口を叩かれていると感じてしまうところが明日川さんの明日川さんらしいところ。
『死なないで!明日川さん』は基本的に、こんな明日川さんの自意識過剰な勘違いから始まります。
そして、誤魔化しきれずに追いつめられるとすぐに自ら命を絶とうとしだすのですが・・
そこで自分が死んだ後のことをワイドショー的に回想(?)するのが面白いところ。
褒められてるのに陰口だと勘違いしてしまう程度の自意識過剰さは、まあたまに見かけるレベルではありますが、死んだ後ですら陰口ばかり言われることを想像してしまうほど明日川さんは徹底しています。
自殺した人間の影響が、その人間の予想を超えて周囲へ影響していくことは想像に難くありませんが、だからといってよっぽどの犯罪者でもない限り死んだ人間に対して悪く言う人なんてあまりいないと思います。
しかし、全く明日川さんとは関係が無いと思われる事象まで明日川さんのせいにされる。そんな想像をしてしまうところが明日川さんクオリティといった感じです。
そして、そんな想像の中でも最も極端なことをオチ的に言い出すのが明日川さんの脳内コメンテーターの石瓦さん。
明らかに明日川さんに何の落ち度もないことを明日川さんのせいにしています。
・・とまあ、すぐに死ぬほど追いつめられるわりに、死んだ後の悪い想像をしてしまうあまり死ぬこともできない。そんな女の子が明日川さんとなります。
コメンテーターの石瓦さん
前述した明日川さんの脳内コメンテーターの石瓦さん。
これがまた地味に面白いんです。
「実は私もこの事件のせいで娘が洗濯物を私のものと一緒に洗わないでと言い出しまして・・。非常に悲しい気持ちになりました」
「私のせい!? 娘さんが思春期だからじゃなくて!?」
明日川さんのことを落とすだけ落とす死後の想像の最後に、さすがの明日川さんにもツッコミを入れさせる石瓦さんのコメント。
基本的にこんなコメントで終わらせるのがお約束になっているのですが、その流れが地味に面白いんですよね。
それに、たった一言のコメントの繰り返しで石瓦さんの私生活が徐々に明らかになっていくところはもっと面白い。
明日川さんが自意識過剰で死のうとして死後の報道の妄想が始まる度に、次は石瓦さんが何をコメントするんだろうとワクワクしてしまいます。
こういう繰り返しが過ぎる展開はともすればつまらなくもなりがちですが、『死なないで!明日川さん』の場合はうまいこと面白いお約束を作ることに成功していて、その一因に石瓦さんがいることは間違いないと思います。
人生最高の日
3度目の正直という言葉がありますが、『死なないで!明日川さん』の場合はそれが9度目に訪れます。
石瓦さんのコメントにもツッコミを入れない明日川さんは、自分を信用してくれた人への裏切りを苦に、遺書を書いて本当に窓から飛び降りてしまいます。
ラストでお約束を外してきてそこから次巻へと続く展開ですが、かたくなに守ってきたお約束を崩してどんな展開になるのか、はたまたお約束を外すと見せかけてやっぱりお約束通りの展開になるのか、その辺が楽しみなところですね。
総括
いかがでしたでしょうか?
明日川さんのような感覚って、本当に堂々としている人であっても大なり小なり誰でも持っているものだと思いますが、だからこそこういう類のキャラクターって地味に共感できて面白いと思います。
個性的なお約束の繰り返しの作品でしたが、ラストではちょっと展開を外してきています。
それがどのような展開につながっていくのか、それはそれで楽しみですね。