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『りゅうおうのおしごと(4)』才能vs才能の初大会(ネタバレ含む感想)

 

本記事は将棋ラノベの名作であるりゅうおうのおしごと!の魅力を、ネタバレ含む感想を交えて全力でオススメするレビュー記事となります。

初めての大会で無双する幼い天才、そして女流棋士の枠を超えた才能を持つ女流タイトルホルダーと雛鶴あいの一戦が見所の4巻目となります。

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本作の概要

あらすじ(ストーリー)

最大の女流棋戦である『マイナビ女子オープン将棋トーナメント』の舞台は東京。

りゅうおうのおしごと!の舞台は基本的に関西ですが、4巻では初めて舞台を関西の外側に移します。

 タイトルホルダーである空銀子女王へと続く棋戦に、九頭竜八一の弟子二人(雛鶴あい、夜叉神天衣)と、そして清滝桂香が出場します。

最年少で出場した初めての大会で、女流棋士の強豪相手に勝ち上がっていく幼い天才たちがとても爽快です。

女流タイトルの帝位を持ち、同じくタイトルホルダーの釈迦堂里奈からは『魔物』と呼ばれ、才能だけなら空銀子よりも上だと自他ともに認める祭神雷が今回の雛鶴あいの相手で、最大の見所となります。

幼い天才二人に次々と撃破されていく女流棋士たちですが、夜叉神天衣と鹿路庭珠代の対局前と対局後のやり取りも、アイドル的な扱いの女流棋士だと思われた鹿路庭珠代の意外な熱さが見られてなかなか興味深いです。

そして、二人のあいほど目立っていなかったものの影の主役は清滝桂香でした。

1回戦で敗北してしまって敗者復活を戦っていたのですが、開き直って思い切りが良くなり、相手のミスにも助けられつつ、連勝が続いて大きなチャンスを得ることになります。

しかし、最後の相手の香酔千は清滝桂香のかつての修行仲間。

お互い同世代で、あと一勝で大きなチャンスを掴むことができると同時に、負けてしまえば再びチャンスが舞い込む可能性は限りなく小さい。

涙ながらの、勝利の痛みを堪えながらの対局にも注目ですね。

そして、今回は完全に弟子二人や清滝桂香のサポートに回っていた八一ですが、それはもう少しで竜王の防衛戦が始まるので、弟子たちに掛かりっきりというわけにはいかなくなってくるからという理由もありました。

4巻ラストでは竜王挑戦者をめぐる神鍋歩夢と名人の、神の領域の一戦が繰り広げられています。

次巻で誰が竜王・九頭竜八一に挑戦することになるのか。それも大きな見所のひとつとなります。

ピックアップキャラクター

大きな大会の全容が描かれている4巻は、特定のキャラクターにスポットが当たっているというよりも数多くのキャラクターが満遍なく活躍している印象が強いです。

しかし、あえて言うならば将棋を覚えて僅か7か月目にしてトップ女流棋士である祭神雷と対局することになった雛鶴あいと、今巻初登場にして強烈な存在感を放っていた祭神雷が印象的でした。

雛鶴あい

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(「りゅうおうのおしごと!(1巻)」より)

メインヒロインの雛鶴あいですが、ライバルである夜叉神天衣の登場で勉強に身が入ったり、生石充のもとで振り飛車を学んで将棋の幅も広くなり、清滝桂香との対局で勝利の痛みも克服しました。

僅かな期間で女流棋士を相手に互角以上に戦えるまでに成長し、ついには女流タイトルホルダーを相手に大金星をあげてしまいます。

祭神雷

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(「りゅうおうのおしごと!(4巻)」より)

メイン級の女流棋士の中では出番少な目の祭神雷ですが、その強烈な個性と存在感には圧倒的なものがあります。

ムラがあるものの才能なら女流最強の名をほしいままにしている空銀子よりも上と言われる強豪で、あいとの対局では挑発的に才能がものをいう戦型へと誘導していきます。

ネタバレ含む感想

初めての大会で活躍する2人のあい

大きな大会を舞台にメインキャラクターが順調に勝ち進んでいく。

改めて言葉にすると4巻のストーリー構成はライトノベルとしては意外と地味なものである気がします。

しかし、実際に読んでいて地味なストーリーだと感じることはありません。

将棋を指すというシーン。

その言葉尻だけを捉えたら非常に地味なものに感じられるのですが・・

雛鶴あいと祭神雷。

夜叉神天衣と鹿路庭珠代。

清滝桂香と香酔千。

たった一局の将棋の中に様々なドラマがあって、エゴがあって、そして熱さがあったからこそ、一見地味に見えて面白いのだと思います。

なんでこんなに面白いのか?

作者の白鳥士郎先生が4巻あとがきでこう言及されています。

棋力ゼロの私でも将棋に関する小説を書くことができているのは、『観戦記』の存在があるからです。

将棋の対局をエンターテイメントとして伝える『観戦記』の存在があるからこそ、たった一局の将棋を通してライトノベルらしくもリアリティのあるドラマを描くことができているということなのだと思います。

4巻で特徴的だったのは、初めての大会で師匠である九頭竜八一の想像すら超えて大躍進していく雛鶴あいと夜叉神天衣・・の裏側にいる敗れ去っていく女流棋士たちの姿でした。

女流棋士にしてもプロ棋士にしても、そこに至っている時点で相当な天才の部類であることは間違いありません。

地元では負けなしの天才扱いだったとか、そういう人たちの集合体なわけですから若干9歳の二人のあいに、本物の天才に敗れ去っていくのは悔しくて仕方のないことでしょう。

例えば、あいと最初に対局した杓子巴は投了した後の感想戦で、自分とは全く読みの深さの違うあいに驚かされ、二度負かされることになりました。

あえてなのだと思いますが、そんな感じで敗者をしっかりと描こうとしている意図を感じる内容になっています。

敗れ去っていく女流棋士の名前が、一度限りしか登場しないサブキャラであるにも関わらずライトノベルらしい凝ったものになっているのもその証拠だと思います。

要するにヒロインである二人のあいの対局相手である女流棋士が、ただのモブではないのだということを強調したかったのかもしれませんね。

だからこそ、4巻で見所となる対局以外の将棋も面白く感じられたのだと思います。

女流タイトルホルダーとの対局

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あい

なんですかその人!? いきなり師匠のお部屋に、は、裸で押しかけるなんてっ・・変態さんじゃないですかー!!

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空銀子

おかしいわね? 私、最近どこかで似たような話を聞いたんだけど・・?

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あい

あいはちゃんと師匠にお手紙を出しましたし服も着てましたっ!!

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空銀子

はいはい

雛鶴あいと空銀子は、口を開けば喧嘩になるという印象が強い組み合わせですが、何だかんだで銀子も弟弟子である八一の弟子としてあいのことを見ている節があるのは興味深いところです。

こういう皮肉も、1巻時点だったらかなり険悪な印象を受けたような気がしますが、冗談ぽっくて微笑ましく感じますね。

それに、意外とまともに解説の聞き手の仕事をしていたり、銀子の新しい一面が垣間見えていたような気がします。

ともあれ、話がいきなり逸れましたが師匠(八一)のお部屋に裸で押し掛けたというのが、あいの対局相手である祭神雷となります。

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あい

もう二度と師匠に迷惑をかけないよう・・あいが盤上でお断りしてきます!!

女流帝位のタイトルホルダーで、才能は空銀子以上とまで言われる祭神雷を相手に敵愾心むき出しのあい。

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祭神雷

空銀子も釈迦堂里奈も月夜見坂燎も供御飯万智も、みぃんなニセモノさぁ。あいつらは何も見えちゃいないんだからぁ

それに対して祭神雷は自分こそが唯一の本物の女流棋士であると言わんばかり。

いわゆる『手を読む』のではなく『手が見える』という本物の才能の持ち主で、これは口だけでは決してないのですが、ある意味では八一しか見えていないというのが面白いところですね。(笑)

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あい

わたしが竜王の一番弟子なんです!! あなたなんかに譲りませんっ!!

最も才能があると言われる女流棋士である祭神雷に、経験も、感覚も、大局観も、それにお得意の読みの力でさえもあいは劣っていました。

しかし、『折れない心』というたった一つの才能だけが祭神雷を上回っていて、あいは大金星を掴むことができました。

ちなみに、将棋のような盤上遊戯を嗜まない人には『折れない心』がその他の強さの要素を上回るという事実はあまりピンとこないかもしれませんが、これは純然たる事実として存在することだと思います。

僕の場合は囲碁を嗜みますが、強い人ほどどんなに不利になってもなかなか折れない所があります。悪く言えば「投げっぷりが悪い」ということになりますが、人によっては投了してもおかしくないような局面から虎視眈々と逆転の手を狙っているわけですね。

国民栄誉賞を受賞された囲碁棋士井山裕太先生などはその最たるもので、必敗の状況からの逆転が稀によくあることだったります。

逆に、そこまでレートが高くないのに打っていてかなりの強さを感じる相手もいたりしますが、そういう人は投了が早い傾向があったりします。良く言えば「諦めが良い」ということになりますが、心が折れるのが早くて、あいのような『折れない心』の才能が無いということなのではないかと思います。

これが将棋にも、それに他の勝負ごと全般にも当てはまることなのだと思います。

敗者復活からの快進撃

若干9歳の二人のあいにとっては、この『マイナビ女子オープン将棋トーナメント』は大きなチャンス・・というよりも、経験を積むための修行という意味合いの方が大きかったはずです。

しかし、そうではない人もいます。

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八一

・・『ヒカルの碁』にこんなキャラいたなぁ

指でトントンと壁面をつついてブツブツ言っている『ヒカルの碁』のキャラクターと言えば越智のことでしょうけど、おっとり系お姉さんの清滝桂香がこれをやっているところに面白さがありますね。(笑)

二人のあいにとっての初めての大会は、清滝桂香にとっては最後になるかもしれないチャンスでもあり、そこに臨む意気込みも桁違いだったに違いありません。

様々な立場の女性が出場している大会ですが、同門内で両極端なことになっているのが印象的です。

しかし・・

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清滝桂香

ごめんねー。私だけ負けちゃってごめんねー。空気悪くしてごめんだよー・・

絶対に勝ちたいという気持ちが強すぎるとなかなか勝てなくなるということは痛いほど理解できる現象ですが、二人のあいが順調に勝利を収める中、一人だけ負けてちょっといじけている清滝桂香が地味に可愛らしいですね。

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清滝桂香

老兵は死なず・・ただ消え去るのみぃ・・

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八一

まだ消えないから! 敗者復活戦があるから!

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あい

そ、そうです桂香さん! 諦めたらそこで対局終了です!!

自虐的になってしまう年長者。

なんとなくいたたまれない時って年下相手に自虐的になってしまう気持ちは少し分かるかもしれません。

たぶん、自分を慕ってくれている年下なら労わってくれるような気がしてしまうからだと思います。

そして、この1回戦早々の敗退が清滝桂香の快進撃の引き金になっているのが面白いところ。

運を味方に付けたのもあるでしょうけど、一度負けて開き直ったのが大きかった印象ですね。良い意味で緊張がほぐれたとか、そういう状態になったのだと思われます。

二人のあいの大活躍の裏側で、敗者復活を戦う清滝桂香が地味目に描かれていた印象ですが、じわじわとチャンスに近づいてきて「もしかして?」って感じになってくる展開がかなり良かったと思います。

そして、そんな清滝桂香のハイライトはかつての修行仲間である香酔千との対局。

清滝桂香以上に崖っぷちの香酔千が相手ですが、チャンスを掴むことができるのは勝者のみという状況。

清滝桂香の得意戦法を避けるために不利な手を指した香酔千に対してふっきれた清滝桂香では、心理的にどちらが優位なのかは言うまでもありません。

しかし、これは勝利がかつての仲間を崖っぷちから突き落とすことを意味する対局となります。

涙ながらに、嗚咽を漏らしながら勝利を掴む清滝桂香の姿が印象的なエピソードでした。

あいと祭神雷との対局とは違った『熱さ』が確かにあったような気がします。

竜王の挑戦者

4巻の主人公は八一の弟子二人をはじめとする女性たちですが、次巻は八一が主人公らしい活躍を見せてくれます。

りゅうおうのおしごと!のタイトルの由来でもある将棋界最高峰のタイトル・竜王。その防衛戦が始まるので当然と言えば当然ですね。

そして、4巻ラストでは竜王・九頭竜八一への挑戦権を賭けての対局が描かれています。

八一のライバル的なキャラクターである神鍋歩夢と、タイトル通算100期と永世7冠の賭かった神とまで呼ばれる『名人』の三番勝負。

両対局者ともにメインキャラクターではありませんが、そうであるにもかかわらず激熱の盛り上がりを見せる対局になっています。

衰えがないわけではない名人を相手に善戦する神鍋歩夢ですが、それでもマジックとまで呼ばれる常識や定跡を覆した手を繰り出してくる名人には敵いませんでした。

それでも、時間の竜王戦に向けた前哨戦としては十分な盛り上がりだったと思います。

ちなみに、将棋の世界には詳しくない僕にでもさすがにこの名人のモデルが羽生善治永世七冠であることは分かりました。

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