『将棋指す獣(1)』アマチュア女性がプロ棋士を目指す話の感想
アマチュア将棋指しである女性・弾塚光がプロの将棋指しを目指して奮闘する漫画『将棋指す獣』。
囲碁と違って、定期的に新しい将棋漫画が一気に始まることがありますが、最近また新しい将棋漫画が増えてきましたね。
僕は、将棋はルールがわかる程度で将棋の世界のこともあまり知らないのですが、おとなり囲碁の世界のことが好きだということもあって、似たような勝負の世界である将棋がテーマになっている作品はよく読んでいたりします。
だから、将棋の世界のにおける男女の棋力差が、囲碁の比べても大きいものであるということは知っています。
『将棋指す獣』は、そんな世界の中で女性である弾塚光がどのようにプロ棋士を目指していくのかが注目の作品となります。
ちなみに、『将棋指す獣』の推薦コメントを『りゅうおうのおしごと』の白鳥士郎先生も書かれていたのですが・・
ロリじゃなくても面白い将棋漫画……だと?
プロ棋士や女流棋士、元奨励会員に記者にライターといった面々が格好良い推薦コメントを寄せている中で、一人異彩を放っていて面白かったです。
さすが小説家ですね!
だけど『りゅうおうのおしごと』は、別にロリじゃなくても面白いライトノベルだと思います。
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本作の概要
弾塚光、女性。元奨励会三段。プロ棋士を目指す。
将棋の世界は厳しく、アマチュアからプロに上り詰めた人間はごく僅か。まして女性でプロになった者は皆無……であったが。
――将棋ブームの到達点はここにあり!
女性初のプロ棋士誕生ストーリー、満を持して始動!!
“ケダモノ”と呼ばれた女性の、清廉なる一手が盤上にいま花開く。※出版社書籍情報より引用
1巻は、主人公・弾塚光がプロ棋士を目指す序章となる物語です。
アマチュアがプロ棋士になるためのルートとしてもより厳しい、主要アマ棋戦に優勝して三段リーグ編入試験を受け、三段リーグを勝ち上がる。
そんな道を歩もうとする弾塚光を第三者的な視点で見守るような構成になっていて、弾塚光の内心の大半は今のところベールに包まれています。
そもそも奨励会員だった弾塚光がなぜ退会したのか?
その後、なぜ再びプロ棋士を目指すことになったのか?
今後、それらが明らかになっていくのが楽しみな作品です。
本作の見所
ケダモノ
アマチュア天竜戦の東京予選に現れた女性・弾塚光は、元奨励会三段で有望株の一人・加賀見廉との対局に二度勝利します。
「無理攻めでしたね。感想戦はいいでしょう」
「今回は勝負になっていたので感想戦しましょうか」
一局目はあまりの大差に感想戦すら拒否され、二局目は感想戦するも加賀の示す手に対しては瞬時に返され、いわゆる「感想戦で二度負かされる」状態に追い込みました。
少し芋っぽさのある雰囲気の女性である弾塚光ですが、観戦に訪れていたプロ棋士・峰田省三からこう評されてしまいます。
ケダモノ
弾塚光は、勝つために相手の手を殺し続ける、負けた相手の棋力を奪う友達を失くす手を平然と指し続けるケダモノなのだと言います。
しかし、これは恐らく誉め言葉なのでしょう。
囲碁でも将棋でも、普段の人格とは無関係に、強い人ほど盤上での性格が悪いものですからね。
プロ棋士になる可能性
アマチュアから三段リーグ編入試験を受けてプロを目指して合格する確率。
「難しいってーか・・不可能だろ」
問われて峰田は答えます。
アマタイトル自体が難関なのに、三段リーグ編入、三段リーグというそれ以上の壁が2つもある。
「並の才能や努力じゃ高すぎる壁なんだよ」
「過去アマチュアのこのルートでの合格率は0%だ」
なるほど。
弾塚光の歩もうとしている道は、よっぽど困難な道なんですね。
しかし、天竜戦の中継を観戦する弾塚光はタイトルホルダーの天才・赤烏真が指した妙手を赤烏と同じ時間で導き出しています。(鼻血たらしてるけど)
これは、並の才能ではないということなのではないでしょうか?
アマチュアの戦い
「何よりもアマはアマの戦い方がある。元奨だってラクじゃないですよ」
記者の「弾塚の勝ち上がる可能性」についての問いかけに対して、弾塚光と同じく東京代表の溝口晶が答えます。
アマチュアの戦いとは何なのか意味がわかりませんでしたが・・
実際、順当に勝ち上がっていた弾塚光も、ある問題に苦戦することになります。
それは、時間の使い方。
元奨励会三段の弾塚光の慣れているはずの持ち時間90分に対して、アマチュアの大会の持ち時間は僅か10分。
この時間に慣れていない元奨励会員である弾塚光に対して、慣れているアマチュアの方が環境的には有利だからこそ、元奨励会員でも楽ではないということだったのですね。
しかし、最初は子連れのパパさん対局者が存在感を放っていたので、そんな相手に動揺して・・みたいな展開を少し予想していましたが、弾塚光は全く動揺することも無く切り捨ててしまいましたね。
そんな所で動揺・同情してしまうようではプロ棋士なで目指せないのかもしれませんね。
男女の棋力差
しばしば話題に挙げられますが、将棋にはかなりハッキリとした男女の棋力差があります。囲碁にも将棋ほどではないですが、男女の棋力差は明らかに存在していますね。
「女っつーのは将棋に向いてないんですよ。もうこれは間違いない。あいつらはプロになれないね」
作中で加賀見廉もこう言っています。
将棋における女流とは、タイトルホルダークラスのトップ女流でもプロ棋士になれない。というか歴代で一人も存在しない程の男女差が存在します。(囲碁の方はそこまでの差はなく、女流棋士がタイトル戦に臨むためのリーグ・本戦に絡んでいくこともしばしばあります)
しかし、なぜここまでの棋力差があるのでしょうか?
そもそも競技人口が男性に比べて少ないから?
いやいや、それもあるかもしれませんが、それだけなら長い将棋の歴史の1人や2人くらいは高い実績を上げる女性が登場していてもおかしくありません。
やはり、大きくは男女の脳の作りの違いが影響しているのだと思われます。
これは間違っても女性を非難しているわけではありませんよ?
例えば、男女では体つきが大きく違いますが、これは優劣ではありません。男は狩猟で食い扶持を稼ぐため、女性や子供を守るためにガッチリとした筋肉質な体格となり、女性は子供を生み、そして育てるために適した体格になっています。
そして、体つきのように表に見えないだけで、脳の作りも男女で大きく違っていいるということなのでしょう。
将棋や囲碁の棋力においては、狩猟に出て道に迷わずに帰ってくる必要のあった男性の中で進化した、空間把握能力が大きく影響していると考えられます。
女性の場合、代わりに住処を協力して守るためのコミュニケーション能力が発達しているので、これは優劣ではなく何を必要していたのかの違いに過ぎないのですが、こと将棋や囲碁においては空間把握能力が大事だったということなのですね。
つまり、スポーツにおいて男子バレーや女子バレーのように男女で分けられているように、女流棋士がプロ棋士とは別枠で存在していることは何ら不自然なことではないように思えます。
しかし一方で、生物的に体つきが変わることはそうそう無いでしょうが、脳の場合はどうなのでしょうか?
僕には脳科学のことは全くわかりませんが、女性が必ずしも家を守るという考え方が古くなってきた現代社会において、普通の男性よりはるかに空間把握能力に優れていそうな女性は山ほどいるような気がします。
『将棋指す獣』の弾塚光もそうなのでしょうね。
弾塚光はデバッカーの仕事をしていてとても優秀なのだとか。勝手なイメージかもしれませんが、デバッカーという仕事は高い空間把握能力が活きる仕事だというイメージがあります。
これも、弾塚光が将棋指しとして大成する伏線なのかもしれませんね。
総括
いかがでしたでしょうか?
また一つ、面白い将棋漫画が描かれ始めましたね。
囲碁ファンとしては、こんなに次々と新しい作品が作られていく将棋の世界が羨ましくありますが、同時にこれらの作品を面白いとも感じてしまうので、何というか複雑な気持ちです。
まあ、囲碁の作品が新しく作られたら、その時は『ヒカルの碁』という巨大な作品と間違いなく比較されることになるので、どうしても最初から壁が高い状況になっているというのもあるのかもしれませんね。
対照的に群雄割拠する将棋作品たち。
それはそれで描く側からしたら生き残りが大変なのかもしれませんが、ファン心理的にはこっちの方が嬉しい状況でしょう。
ちなみに、『将棋指す獣』は主人公・弾塚光の行き着く先が最初から決まっていて(1ページ目からネタバレされている)、そこに至るまでの道を描くタイプの作品です。
将棋の歴史的に相当凄い所まで行き着くことになる弾塚光がどのような道を歩むことになるのか?
今後の展開にも期待です!