『昭和オトメ御伽話(1)』可愛らしくも胸が痛くなる物語の感想(ネタバレ注意)
『大正処女御伽話』の桐丘さな先生の最新作である『昭和オトメ御伽話』は、『大正処女御伽話』を読んだことがある人なら気付いたと思いますが『大正処女御伽話』の続編になっているようです。
登場人物の一人である曲直部珠子(旧姓志磨)は、まさに前作のメインキャラクター(主人公の妹)ですしね。
それに今のところ関係性は不明ですが主人公の苗字も前作の主人公と同じく志磨になっています。(裏表紙に書かれている名前の順や内容からすると、ひょっとすると主人公は志磨仁太郎ではなく黒咲常世の方なのかもしれませんけど)
一応は『大正処女御伽話』を読んだことが無くても楽しめるような内容になっていますが、前作を知っていた方がより楽しめることは間違いなさそうなので、未読の方はまずは『大正処女御伽話』を読んでみるのが良いかもしれません。
いやはや、桐丘さな先生の描く絵は非常に可愛らしく、そしてストーリーも可愛らしく僕好みなので、『大正処女御伽話』が完結した時にはかなり残念だと感じたものですが、続編が読めて本当に嬉しいです。
桐丘さな先生によると、『大正処女御伽話』が白なら、『昭和オトメ御伽話』は黒のイメージで描かれているとのこと。
確かに、『大正処女御伽話』は純粋で可愛らしいラブストーリーといった作品でしたが、『昭和オトメ御伽話』は1巻を読んだ限り普通のラブストーリーでは無さそうです。
まだまだ物語は序章という感じで、今後どのように物語が展開していくのかはわかりませんが、ただただ可愛らしいだけの恋愛ものではどうやらなさそうです。
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本作の概要
舞台は昭和三年の神戸。
名家の娘である黒咲常世は、しかし継母のひどいイジメが原因でいつも”からたちの木"の側で泣いていました。
そんな常世のことを幼馴染で二歳年上の志磨仁太郎は”からたち姫”と呼びます。
志磨仁太郎もまた無関心な両親の下で育ち、お互いに孤独に感じている二人は死ぬまで一緒にいることを約束します。
しかし、その後仁太郎があまりにも酷い継母から常世を連れ去った事件をキッカケに二人は離れ離れになってしまいます。
そして三年後。
常世と再会した仁太郎は、以前の優しかった仁太郎から悪魔のように意地悪な性格に変わってしまっていました。
それでも仁太郎を慕う常世と、何か訳ありの雰囲気だけは醸し出している仁太郎の物語が始まります。
「これは俺と彼女が死ぬまでの痛くて甘い御伽話」
どんな物語が展開され、どんな結末を迎えるのかが楽しみですね。
本作の見所
からたち姫
志磨仁太郎には病気の祖父からもらったカメラで撮影したい女の子がいます。
「これで好きな女を撮るとな、必ず結ばれて末永う幸せになると云われるすごいカメラやねん」
最初はカメラなんていらないと言っていた仁太郎はそれを聞いて祖父からカメラを譲り受けます。
生唾を飲み込んだりして仁太郎はムッツリですね。(笑)
そして、そんな仁太郎が撮影したいのは幼馴染で名家の娘の黒咲常世。
継母からのイジメでいつもからたちの木の側で泣いていた常世を、仁太郎は親しみを込めて"からたち姫"と呼んでいました。
継母に対しては反抗しないものの気丈な態度で振舞う常世でしたが、からたちの木の側では涙を見せ、仁太郎には甘えた表情を見せる常世。
写真を撮りたがる仁太郎を拒否する態度も、仲睦まじい様子に見えます。
うん、めっちゃ可愛らしいですね。
そう、仁太郎がカメラで撮影したい女の子とは言わずもがな常世のことです。
そういうわけで、ついに恐らくは継母の暴力で怪我をして泣いている常世を見た仁太郎は、キレて常世の家に乗り込んで常世を連れ去ったくらいです。
やり方はちょっとアレですけど、これは完全に惚れてますね。
そしてそれは常世の方も同じようです。
仁太郎の祖父が経営していた志磨キネマに連れ去られ、仁太郎に「好き」だと告げられた常世。
「お前が死ぬ時、一緒に死ねるくらい」
どれくらい好きなのかと常世に問われ、仁太郎はかつて常世に看病された時のセリフを思い出しながら答えます。
お互いにそう言える関係というのは、何ともロマンチックな感じで良いですね。
そして、そんな仁太郎にキスで答える常世が可愛すぎます。
3年後もからたち姫
志磨キネマでの出来事以降、離れ離れになってしまった常世と仁太郎。
友人からいつも悩みなんて無さそうだと羨ましがれている常世ですが、継母からのイジメはむしろ悪化している様子です。
継母の息子が成長してきたことも、それに拍車を掛けているっぽいですね。
しかし、友人や継母には気丈な態度を見せている所は相変わらずですが、どうやら中身まで気丈になったわけではないようです。
「うちは・・もうひとりでも大丈夫。強うなったんや」
そんな風に思いながらも常世は、やっぱり"からたちの木"の側で一人孤独に泣いている"からたち姫"でした。
友人の前で明るく振舞う常世。
暴力を振るう継母に気丈な無表情で接する常世。
一人孤独に泣いている"からたち姫"である常世。
こういう多面性を不安定に内包している人って、ちょっとしたことで精神が壊れてしまいそうな危うさがありますよね。
これ常世どうなってしまうのと思っていたら、"からたちの木"の側で泣いている常世と仁太郎が再開することになります。
仁太郎との再会
仁太郎は以前とは別人のように意地悪な人間になってしまっていました。
「まさかおるワケないよな思って身に来たら相も変わらずメソメソしとって驚いたわ。まだ飽きもせんと悲劇のからたち姫やっとんのか。お前」
これ、「お前が死ぬ時、一緒に死ねるくらい」とか言ってた人が、それを言った人と同じ相手と再会した直後に言ったセリフですよ。
いや、ぶっちゃけ驚いたのは常世の方でしょうこれは。ついでに読者(僕)も驚きましたよ。
そして、このセリフは変わってしまった仁太郎の黄道のほんの一部でしかありません。
「仁太ちゃん。アンタがこの三年間で悪魔に変わってしもたんなら、うちも・・悪魔なんかに負けたりせえへん。強く気高いからたち姫にかわらなアカン」
そんな仁太郎を見た常世は、良くも悪くも自分も変わろうと思うようになったようです。
しかし、どうやら仁太郎の変化は何かしらのワケありっぽい雰囲気もあるんですよね。
昔の仁太郎の方が良かったという常世に、自分もそう思うと寂しげな表情で答えている所など、行動の節々からそういった所が確かに伺えますね。
それに、再開直後こそかなりキツイ態度を取っていた仁太郎ですが、それが時間とともに徐々に鳴りを潜めていることからも、再開時にはかなり意識的にキツイ態度を取っていたのではないかと推察されます。
その辺の答え合わせは今後の楽しみの一つですね。
曲直部珠子の登場
前作『大正処女御伽話』のファンには超絶嬉しい展開!
仁太郎の写真を川に落とした常世が写真を追いかけて川に落ちてしまいます。
そんな常世を助けたのが仁太郎と・・
なんと、曲直部珠子(旧姓志磨)でした。
『大正処女御伽話』を知らない人のために説明すると、主人公である志磨珠彦の実の妹でバリバリのメインキャラクターですね。
医者を目指して志磨珠彦の叔父である神戸の外科医・曲直部珠介の元で勉強することになった珠子が『昭和オトメ御伽話』にも登場し、この2作品が完全に続き物であることが明らかになりました。(仁太郎の苗字が志磨だというだけでは確信まではできていなかったので)
前作の序盤ではかなり悪者の立ち位置のキャラクターでしたが、いわゆるツンデレ属性を持っていて徐々に愛着が沸いてくるようなキャラクターでもあります。
ヒロインの夕月と並んで好きなキャラクターだっただけにこれは嬉しい展開です。
時系列的に夕月は二十三歳、珠彦は二十六歳になっているはずですが、今後もしかしたら彼らも登場するかもしれませんね。
「何であんな危ないことしたの? まさか自殺とかじゃないでしょうね・・」
そして、常世を助けて無事が確認された後のこのセリフは痺れますね。
厳しさと優しさの同居したセリフって感じでしょうか?
怖いくらいの表情で常世にそう言って、仁太郎にはわかったようなことを言うなと諭されていましたが、ぶっちゃけ格好良いと思いました。
仁太郎のプロポーズ
常世はピンピンしていますが、川に落ちた常世を助けたことで仁太郎は体調を崩してしまいました。
体調を崩して弱っているからか意地悪度合いがだいぶ下がっている仁太郎を常世と、何故か仁太郎と一緒に現れたリゼは一緒に看病します。
仁太郎の意地悪度合いが下がったというより、常世が屈しないようになっていると言った方が正確なのか、あるいは両方なのかもしれませんね。
「アホやな。お前ら」
そう言いながら常世とリゼの頭を撫でる仁太郎。
結局何で意地悪な感じになっていたのかわからないけど、これは元鞘かと思っていたら・・
何と仁太郎はプロポーズをし始めました。
曲直部珠子に。
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えっ、何で!?
何この展開!?
ちょっとビックリするような展開で1巻は終わってしまいましたが、めっちゃ続きが気になりますね。
表紙裏のおまけ漫画が地味に面白い
本編とは全く無関係ですが表紙裏のおまけ漫画が地味に面白かったです。
僕は漫画を読む時、真っ先に表紙裏を確認するタイプの人間なのですが、これは電子書籍で漫画を読むタイプの人には味わえない楽しみですよね。
何故か野球姫と呼ばれて野球をしている常世を真っ先に見ていたので、実は読み始めた時「えっ、これスポーツの話なの?」とか思っていました。(笑)
総括
いかがでしたでしょうか?
前作『大正処女御伽話』のファンにはメチャクチャ嬉しい漫画でしたね!
珠子は好きなキャラクターだったので登場してくれて嬉しいです。
もしかしたら今後、他にも前作キャラが登場するような展開もあるかもしれないと考えると胸が躍ります。
とはいえ、『昭和オトメ御伽話』はあくまでも黒咲常世と志磨仁太郎の物語。
この2人の関係が今後どうなっていくのか、続巻が楽しみです。
(2019/5/6追記)
続巻のレビュー記事も書きました!